子どもに関わる国の政策を取りしきる「こども家庭庁」が2023年4月にできました。これから子どもたちのことを最優先に考えた政策づくりに取り組みますが、その時に大事になるのは、子どもたち自身の意見を聞くこと。そこで、こども家庭庁ができるのに合わせて、国が子どもたちの意見を聞く、子どもたちが国に意見を伝えるための制度もスタートしました。じつは、ヨーロッパなど先進的な地域ではすでに当たり前になっている制度なのですが、海外の事情をみながら日本の現在地を確認してみましょう。
こども家庭庁ってどんなところ?
こども家庭庁は、子ども視点に立って、子どもの利益を第一に考える「こどもまんなか社会」の実現をめざしています。内閣総理大臣の下につくられ、内閣府に属します。「子ども」という専門性と独立性のある業務を行う「外局」という位置づけになっていて、担当大臣と長官が任命されます。取りしきる政策の範囲は幅広く、子どもが直接関係する虐待・貧困対策のほか、妊娠・出産・子育て中の親も支援しますし、社会全体の少子化対策を考えるのも担当です。学校が舞台となりやすい、いじめ問題などは文部科学省と連携して対策します。これまでいろいろな省庁がそれぞれで取り組んできた子どもに関わる政策を、こども家庭庁がリーダーとなって指揮していきます。各省庁の取り組みが不十分だと判断したときは改善を求めることができる「勧告権」も持っています。
課題だった「子どもの意見の尊重」
1989年に国連で採択された国連の子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)には、生きる権利や育つ権利、守られる権利、参加する権利など、子どもたちが持つ権利について記しています。その中の重要な権利のひとつに、意見を聞かれる権利があります。日本は1994年にこの条約を守ることを約束しましたが、これまで国の政策 をつくるときに子どもたちから意見を聞くような仕組みがなかったことが大きな課題とされていました。「こども若者★いけんぷらす」は、この課題に対応する制度です。「こども若者★いけんぷらす」は小学生から20代まで誰でも登録・参加が可能。各省庁が子どもたちの意見を聞きたいテーマ、あるいは子どもたちが国に対して意見を言いたいテーマについて、国と子どもたちをつなぐ機会をセッティングします。直接会って話をする対面式や、オンライン式、Webアンケートなど、意見を聞くさまざまな方法も用意されています。
海外の制度は? 日本の現在地は?
国が子どもの意見を聞く制度について、海外における広がりや内容について、日本ユニセフ協会で子どもの権利の実現へ向けた啓発・提言などに取り組む高橋愛子さんに聞きました。
こども若者評議会・議会が主流
―海外の国では、どのような制度で子どもの意見を聞き取っていますか。
世界をみたとき、おおむね10代を中心としたメンバーでつくる「こども若者評議会(ユースカウンシル)」や「こども若者議会」と呼ばれる仕組みを設けている国が多いようです。地方自治体レベルの評議会・議会から、国レベルまでが連携して、地方に偏りなく広く子どもたちの意見を集めている国もあります。先進的な地域であるヨーロッパでは、EUの調査によると、EU加盟国にイギリスを加えた28か国すべてで、評議会か議会のどちらか、あるいはその両方の制度があります。多くは1990~2000年代に導入されました。
また近年はインターネットの普及もあって、オンラインを活用した取り組みが広がっていますね。EUは2023年、「子どもの意見を聞いてほしい」という子どもたちからの要望を反映させる形で、EUの政策決定に子どもの意見を生かすためのオンラインの仕組みをつくりました。
―こども若者評議会・議会の具体例を教えてください。
こども若者評議会の制度がうまく機能している国のひとつがアイルランドでしょう。全国に31ある州のすべてに12~17歳でつくる評議会があります。その代表者が参加する全国委員会があり、関係省庁に対して代表して意見を届けます。逆に、関係省庁が子どもたちの意見が聞きたいときも、全国委員会の子どもたちを通じて意見を聞くのです。このように国と全国の子どもたちが、代表の子どもたちを通じて双方向で連携できています。2000年から制度づくりに取り組んで、20年以上かけて定着してきました。
「こども若者★いけんぷらす」がつくられる過程では、アイルランドを含めていくつかの例を、ユニセフから国側へ紹介させていただきました。その後さらにいろいろと国側でも調査も行われ、ほかにもポルトガルなどで面白い事例もあったようですね。
アイルランド | こども若者評議会・全国委員会 |
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メンバー | 全国31州の評議会から代表1人ずつ(12~17歳、31人)が参加 |
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活動 | 任期2年、毎月会合 |
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役割 | 全国200人以上が集まって開く国レベルの子ども若者会議で決まった項目について関係省庁に意見を伝える、関係省庁からの意見の聞き取りに応じるなど |
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出典:こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する調査研究報告書
ポルトガル | 500 万ユーロ(約 8億円)の国予算の使い道を子どもたちの提案と投票で決める |
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フランス | 10 歳前後の子どもたちが考える法案を実際に国会議員によって法律化する |
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出典:こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する調査研究報告書
―課題はありますか。
ヨーロッパでも国によっては、議会制度や国の仕組みを学ぶ民主主義教育の目的が強かったり、開催回数が限られていたり、こどもの意見は「参考」扱いにすぎなかったりします。子どもたちの声を本当に政策に反映させていくことは、長く取り組んできている国でも、課題が残っているようです。また、国が政策をまとめるには、意見を聞き取ってからも一定の時間が必要です。そのため、どの意見が、どのように反映されたのかの結果や報告がでるのにも時間がかかり、子どもたちがやりがいや意義を感じにくいという声もありますね。
評議会や議会などに参加しにくい環境の子どもたちもいて、そういった層からの意見をどのように聞き取るかも、世界共通の課題のようです。
―ヨーロッパ以外での取り組みはどうですか。
アジアでも、フィリピンは1970年代から、子どもの意見を政治に生かす仕組みづくりに取り組んでいます。国レベルで子どもと若者による評議会をつくり、全国におよそ4万2000ある村(実際には日本の村よりも小さい)ごとに、若者の代表をおきました。ユニセフなどが支援して、地方自治体の職員などにも、子どもが意見を言いやすい環境づくりなどのサポート技術を身につける研修プログラムも行われています。
ニュージーランドには、国と子どもをつなぐ「ハイバー」という役割があります。16~25歳という子ども若者世代から募集され、子どもにも分かりやすいビジュアルや言葉を使って政策をSNSなどで発信し、子どもたちに意見を言うように促すものです。また受け取った意見をまとめて、国へ伝えるのも役目。これまで国へ意見を伝えたことがないような層からの意見を集めることができているようで、評価されています。
海外の課題や良い点を意識した「最大限」に
―こども家庭庁の新制度はどう評価できますか。
こども家庭庁の「こども若者★いけんぷらす」の取り組みは、海外の事例の良いところを取り入れたり、課題を意識したりして、今できる最大限のものをめざしているといえそうです。
たとえば、日本では今回、子どもに関わる政策づくりにおいて子どもの意見を「聞いてそれを反映させようとすること」は義務とされましたが、ヨーロッパの国でも義務になっていない国もあります。また、子どもたちに、意見がどのように反映されたかのフィードバックが行われることになっていることも、いいですね。意見を聞き取る機会も、オンラインなどを活用して柔軟に開催し、参加しづらい環境の子どもたちのところへは出向いていくようです。アイルランドの全国委員会や、ニュージーランドの「ハイバー」にも似た、国と子どもたちを、分かりやすい情報発信などでつなぐ同世代のメンバー「ぽんぱー」というポジションをもうけたのも効果的ではないでしょうか。
日本ではいま、子どもに関する政策の基本的な国の方針を定める「こども大綱」づくりが進んでいます。「こども若者★いけんぷらす」を通じて、子どもたちからの意見の聞き取りも行われました。制度のスタートが大綱づくりに間に合ったことは、とても良かったです。みなさんと同じ子どもたちから、どのような意見が出て、それがどう反映されるのか、その成果に注目していきましょう。そしてこれからも、子どもに関わる政策には、みなさんの意見が反映されますので、その時はぜひ思いを聞かせてほしい、伝えてほしいと思いますね。
参考資料
取材協力:高橋愛子
ユニセフ(国連児童基金)フィリピン事務所、インドネシア事務所、外務省等での勤務を経て、2013年より日本ユニセフ協会 広報・アドボカシー推進室。日本ユニセフ協会 広報・アドボカシー推進室マネージャー。