チャットGPTに代表される生成AI(人工知能)チャットサービスは2023年、すごいスピードで世の中に広がりました。チャットGPTはまるで本当に誰かと会話しているかのような自然さで、言葉のキャッチボールができます。たとえば、いろいろな質問に回答してくれたり、文章に関わる作業を代わりにしてくれたり、大きな可能性を感じさせます。ただ、その使い方については、学校現場向けに国が方向性を示すなど、決して万能ではないようです。「『現代用語の基礎知識』選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10にも選ばれるほど今注目されるサービス「生成AI」とは、いったいどんなものなのか。その仕組みや使い方を、専門家に聞きました。
授業・宿題で使ってもいいの?
文部科学省は2023年7月、みんなのような小中学生や学校の先生たちがどのように生成AIを利用していくべきか示したガイドラインを発表しました。その中で、良くないと考えられる使い方の例や、使っても良い例があげられています。特にみんなに関係がある項目は次のような内容ですので、参考にしてください。
良くないと考えられる使い方
- 生成AIの良い点、悪い点を知らないまま使うこと
- コンクールなどへ、生成AIにつくらせた作文・作品をそのまま出すこと
- 詩の創作や音楽・美術鑑賞など自分らしさが大事な場面で使うこと
- 調べ学習で、教科書など情報が確かな教材を使う前に、生成AIを使うこと
使っても良い例
- 「生成AI」そのものについて学ぶときに使ってみること
- グループでの話し合いの途中段階で、足りない視点を見つけて議論を深める目的で使うこと
- 英会話の練習相手をさせたり、高度なプログラミングをさせたりすること
生成AIってどんなもの?
「生成AI」は、人間が投げかけた文章を理解し、受け答えするかたちで文章や画像、音声をつくりだすことができます。では、その仕組みとは、いったいどんなものなのか。日本最大のAI専門メディア「AINOW」編集長、小澤健祐さんに聞きました。
なんでも答えてくれるけど「正解」を教えてくれるものではない
―チャットGPTみたいな生成AIの仕組みはどうなっているの? 何ができるの?
みんなが入力した文章に対して、「どんな単語を並べると、良い返事になるか」ということを推測して、返事となる文章をつくり出す仕組みです。これは、すごくたくさんの文章データを使って、単語と単語の結びつきの関係を学習した結果から「この単語の次にはこの単語がくることが多いだろう」というのを計算しながら文章をつくっています。ここでいう「学習」は、もはや人間では認識できないような細かいレベルで、特徴や傾向などをつかむものです。
これはAIに人間の言葉や文章を理解させる試みが発展してきた結果のひとつです。「トランスフォーマー」という学習モデルを使ったチャットGPTがつくり出す文章は、想像以上に分かりやすく、世界に驚きを与えました。具体的には、人間が入力した文章に応じて、質問に答えるだけではなくて、文章のポイントを短くまとめたり、ビジネス用の企画書を書いたりと、いろいろなことをしてくれます。
―生成AIは文章以外にイラストや音声もつくれるの?
生成AIには、チャットGPTのような文章生成AIのほか、写真やイラストをつくり出せる画像生成AI、人が読み上げるような音声をつくり出せる音声生成AIなどがあります。どれも基本的には同じような仕組みです。画像生成AIであれば言葉と画像の関係を、音声生成AIであれば言葉と音声の関係を、すごくたくさんのデータから学習しています。その結果、入力された文章に対してもっともふさわしいものを計算しながら画像や音声をつくり出しています。
―生成AIは「ウソをつく」のはホント?
SNS上などで、生成AIの回答が間違っていたり、実際には存在しない内容だったりすることが話題になりました。多くの人が、生成AIを「質問の答えを教えてくれるもの」だと思っていますが、本当はそうではありません。文章生成AIは、文章として、次にくるのはどの単語である確率が高いか、一番自然かという基準で、文章をつくり出しています。その文章の内容が事実かどうかという基準を最優先にはしていないのです。文章生成AIは、あくまで文章をつくり出すものなので、その内容が「ウソだ」「事実だ」ということを問題にするのは、そもそも使い方としておかしなことだと思います。インターネット上のどこかにある「答え」を調べたいときに使うのは、生成AIではなくて、「検索」ツールでしょう。
―インターネットの「検索」とはどう違うの?
検索は、言葉を入力すると、それに近い内容や画像があるサイトやページを表示してくれます。検索は、すでにあるものを案内してくれるだけで、何かをつくり出しているわけではありません。
生成AIは、AI自ら大量のデータで学習した特徴や傾向にそって、イラストを描いたり音声に変換したりして、新しいものをつくり出しているというのが違いです。文章生成にしても、どんな文章も、すでにある言葉の並びかえや組み合わせの違いなので、生成AIが新しい組み合わせを考えだしている、つまり新しい文章をつくり出していると言えます。どれもインターネット上のどこかにある別の文章や画像、音声を借りて持って来るということとはまったくの別物です。
生成AIは「答え」を一緒に考えてくれるパートナー
―どんなふうに使うのがいいの?
生成AIは、新しいものをつくり出せるので、むしろ「答え」のない問いが得意ですね。その「答え」のない問いについて、人間と一緒に考えてもらうパートナーという使い方が良いと思います。例えば、みんなにとっては自由研究や探究学習において、「わたしはこう思うけど、どうか」と入力すると、「こういう見方もあるかもしれません」と提案してくれるような返事があって、考えの幅を広げたり、議論を深めたりできると思います。
―生成AIが広がると、わたしたちの毎日は変わりそう?
AIといえば、国民的アニメのネコ型ロボットのキャラクター「ドラえもん」を想像する人も多いと思います。今の生成AIは、すごく良いアドバイスができたり、勉強を教えてくれたりするドラえもんみたいなものです。ただ、ドラえもんの本当にすごいところは、四次元ポケットを持っていて、 秘密道具を、のび太くんの状況に合わせて提供してくれるところです。じつは、本当にみんなが求めているAIは「ドラえもん+秘密道具」なんですよ。そして、この先には秘密道具として、いろいろなアプリやソフトとつながっていく将来が予想されています。そうなったとき、もっと日常生活で生成AIが活用されていくことになるでしょう。
計算のスピードや正確さ、学習した情報量などで人間よりもAIは優秀です。すでに車や電車の運転も任されるなど「これからはAIに仕事を奪われる」ともよく言われています。ですが、本当はそうではなくて、おそらく「AIを活用できる人に仕事を奪われる」ことになるんだと思います。AIに仕事の目的や手段を示すのは、やはり人間だからです。1人でも多くのドラえもんと仲良くなれる人、ちゃんとドラえもんと関係を築ける人、生成AIを使いこなせる人になってほしいですね。
生成AIを使った自由研究作品も
小澤さんによると、生成AIは自由研究や探究学習に活用するのが向いているようです。この夏に学研キッズネットが開催した「パソコン×自由研究コンテスト2023」でも、生成AIを使って取り組んだ応募作品がありました。特設ページで紹介している入賞作品にも2作品あり、ひとつは3つの生成AIに質問を繰り返して、まったく知識がないところから「暗記マシン」をつくったもの。もうひとつは、研究テーマの絞り込みや、文章の要約、ロゴマークづくりなどに生成AIの力を借りたもの。みんなと同じ小中学生がどのように生成AIを活用したのか、自由研究作品を見て、ぜひ参考にしてみてください。
パソコン×自由研究コンテスト2023結果発表
参考資料
取材協力:小澤健祐
日本最大のAI専門メディア「AINOW」編集長。ウェブサービス企業「ディップ株式会社」で生成AI活用推進プロジェクトを進めるほか、AI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーター(進行役)としても知られるなどAI業界で幅広く活躍する。
2023年9月、ワン・パブリッシングから著作『生成AI導入の教科書』を発表。生成AIの概要や、AIから有効な回答を得るための質問文、企業のAI活用事例などを紹介しています。