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新しい刑罰「拘禁刑」ってなに? 120年間で初めての刑罰変更 内容と理由を解説

新しい刑罰「拘禁刑」ってなに? 120年間で初めての刑罰変更 内容と理由を解説

犯罪(はんざい)をした(ひと)()ける刑罰(けいばつ)として(あたら)しくつくられた「拘禁刑(こうきんけい)」が、2025(ねん)(がつ)にスタートします。犯罪(はんざい)刑罰(けいばつ)について(さだ)めた(いま)法律(ほうりつ)刑法(けいほう)」は1907(明治(めいじ)40)(ねん)からおよそ120(ねん)歴史(れきし)がありますが、刑罰(けいばつ)種類(しゅるい)変更(へんこう)されるのは(はじ)めてです。拘禁刑(こうきんけい)は、これまでの「懲役刑(ちょうえきけい)」と「禁錮(きんこ)(けい)」を1つにまとめたもので、突然(とつぜん)ゼロから()まれたわけではありません。その一方(いっぽう)で、これまでの2つの刑罰(けいばつ)とまったく(おな)じでもありません。拘禁刑(こうきんけい)とはどんなものなのか、その内容(ないよう)変更(へんこう)された理由(りゆう)解説(かいせつ)します。

(ばつ)」だけじゃない刑罰(けいばつ)目的(もくてき)

まず刑罰(けいばつ)について説明(せつめい)します。

犯罪(はんざい)刑罰(けいばつ)もあらかじめ法律(ほうりつ)()める

なにが犯罪(はんざい)になり、その犯罪(はんざい)をするとどんな刑罰(けいばつ)()けるかは、あらかじめ法律(ほうりつ)()められ、公表(こうひょう)されていなければなりません。
(たと)えば、
(ひと)(ころ)す」(殺人罪(さつじんざい))→「死刑(しけい)または無期(むき)もしくは5(ねん)以上(いじょう)懲役(ちょうえき)」(刑罰(けいばつ)
(ひと)(もの)(ぬす)()る」(窃盗罪(せっとうざい))→「10(ねん)以下(いか)懲役(ちょうえき)または50万円(まんえん)以下(いか)罰金(ばっきん)」(刑罰(けいばつ)

という具合(ぐあい)です。
犯罪(はんざい)基本的(きほんてき)に、わざと他人(たにん)社会(しゃかい)(くに)権利(けんり)利益(りえき)(きず)つける行為(こうい)です。刑法(けいほう)では、(だい)77(じょう)から(だい)264(じょう)まで、およそ200の行為(こうい)(さだ)められていますが、(かぞ)えきれないほどある人間(にんげん)行為(こうい)のうち、ごく(かぎ)られた、とても(わる)行為(こうい)犯罪(はんざい)です。
ただ、犯罪(はんざい)をしたからといって、その()ですぐに刑罰(けいばつ)()けるわけではありません。一般的(いっぱんてき)には、
犯罪(はんざい)警察(けいさつ)捜査(そうさ)検察(けんさつ)裁判所(さいばんしょ)(うった)える→裁判(さいばん)検察(けんさつ)(がわ)弁護側(べんごがわ)(かんが)えを(たたか)わせる→有罪判決(ゆうざいはんけつ)刑罰(けいばつ)
という手続(てつづ)きが必要(ひつよう)です。
これらは、そのときの権力者(けんりょくしゃ)自分勝手(じぶんがって)犯罪(はんざい)()めたり刑罰(けいばつ)(あた)えたりできないようにしたうえで、本当(ほんとう)にその(ひと)犯罪(はんざい)をしたのかどうかをしっかり確認(かくにん)するためのルールです。なお、個人(こじん)同士(どうし)仕返(しかえ)しのやりあいなどを(ふせ)ぐため、刑罰(けいばつ)(おこな)えるのは国家(こっか)だけとも()まっています。

犯罪(はんざい)をさせない、()(かえ)させない

刑罰(けいばつ)種類(しゅるい)は、犯罪(はんざい)をした(ひと)(いのち)(うば)う「生命刑(せいめいけい)」、自由(じゆう)(うば)う「自由刑(じゆうけい)」、財産(ざいさん)(うば)う「財産刑(ざいさんけい)」に()けられます。日本(にっぽん)では採用(さいよう)されていませんが、むち()(けい)など(からだ)直接的(ちょくせつてき)苦痛(くつう)(あた)える「身体刑(しんたいけい)」も存在(そんざい)します。

刑罰(けいばつ)目的(もくてき)(おも)に3つあると(かんが)えられています。
犯罪(はんざい)という(わる)いことをした(ひと)に、それに(おう)じた不利益(ふりえき)害悪(がいあく)仕返(しかえ)しとして(あた)えること。(ばつ)」という言葉(ことば)からイメージされるものに(ちか)いでしょう。
②「犯罪(はんざい)をしたら刑罰(けいばつ)()ける」と公表(こうひょう)されていることで、みんなに犯罪(はんざい)をすることを(おも)いとどまらせること。
犯罪(はんざい)をした(ひと)二度(にど)犯罪(はんざい)()(かえ)さないようにすること。刑務所(けいむしょ)()()めて社会(しゃかい)から()(はな)すことも方法(ほうほう)のひとつですし、刑務所(けいむしょ)から()たあとに社会生活(しゃかいせいかつ)(おく)れるように訓練(くんれん)などをさせることも方法(ほうほう)のひとつです。
②と③は「(ばつ)」というイメージとは(ちが)って、これから犯罪(はんざい)()こらないように予防(よぼう)することで、みんなの生活(せいかつ)権利(けんり)利益(りえき)(まも)ることにつながります。

拘禁刑(こうきんけい)社会復帰(しゃかいふっき)大切(たいせつ)にした自由刑(じゆうけい)

(あたら)しくつくられた拘禁刑(こうきんけい)は、懲役刑(ちょうえきけい)禁錮(きんこ)(けい)をなくして、ひとつにまとめた自由刑(じゆうけい)です。
懲役刑(ちょうえきけい)刑務所(けいむしょ)()()めて()められた作業(さぎょう)をさせる
禁錮(きんこ)(けい)刑務所(けいむしょ)()()める
この2つは作業(さぎょう)義務(ぎむ)があるかないかの(ちが)いです。作業(さぎょう)義務(ぎむ)がある懲役刑(ちょうえきけい)(ほう)が、禁錮(きんこ)(けい)よりも(おも)刑罰(けいばつ)ですが、この作業(さぎょう)社会復帰(しゃかいふっき)のためのもので、きつい(おも)いをさせるためのものではありません。

懲役刑(ちょうえきけい)になる犯罪(はんざい)と、禁錮(きんこ)(けい)になる犯罪(はんざい)は、「はれんち(ざい)」かどうかで()まっていました。はれんち(ざい)とは、自分(じぶん)利益(りえき)欲望(よくぼう)のことばかり(かんが)えた、(ひと)として間違(まちが)った行動(こうどう)による犯罪(はんざい)です。ほとんどの犯罪(はんざい)は、はれんち(ざい)であり、懲役刑(ちょうえきけい)になります。禁錮(きんこ)(けい)になるのは、犯罪(はんざい)をした理由(りゆう)原因(げんいん)が、自分(じぶん)のためではないなど理解(りかい)できる(てん)がある犯罪(はんざい)です。(たと)えば、病気(びょうき)(くる)しんでいる(ひと)から「(ころ)してほしい」と(たの)まれて(ころ)したり、その(ひと)自殺(じさつ)手伝(てつだ)ったりする犯罪(はんざい)などです。

そして
拘禁刑(こうきんけい)刑務所(けいむしょ)()()める。改善更生(かいぜんこうせい)のために、必要(ひつよう)作業(さぎょう)をさせたり、指導(しどう)したりできる
拘禁刑(こうきんけい)は、禁錮(きんこ)(けい)(じく)として、懲役刑(ちょうえきけい)にあった作業(さぎょう)義務(ぎむ)がなくなり、(あら)たに「指導(しどう)」が選択肢(せんたくし)(くわ)わりました。さらに作業(さぎょう)指導(しどう)目的(もくてき)を「改善(かいぜん)更生(こうせい)」だとはっきりさせて、「犯罪(はんざい)()(かえ)させないこと」を大切(たいせつ)にした刑罰(けいばつ)になったのです。

拘禁刑(こうきんけい)という言葉(ことば)は、今回(こんかい)つくられたわけではなく、これまでも海外(かいがい)の「刑務所(けいむしょ)()()める」刑罰(けいばつ)日本語(にほんご)表現(ひょうげん)するときの訳語(やくご)として使(つか)われていました。世界(せかい)自由刑(じゆうけい)では「刑務所(けいむしょ)()()める」という禁錮(きんこ)(けい)(ちか)刑罰(けいばつ)(おお)く、作業(さぎょう)義務(ぎむ)がある懲役刑(ちょうえきけい)(たい)しては「強制労働(きょうせいろうどう)ではないか」という批判(ひはん)(てき)指摘(してき)もありました。

それぞれの受刑者(じゅけいしゃ)()わせて(こま)かく対応(たいおう)する

懲役刑(ちょうえきけい)は、作業(さぎょう)義務(ぎむ)なので、どんな受刑(じゅけい)(しゃ)(たい)しても作業(さぎょう)をさせなければなりません。
作業(さぎょう)
・ものづくりをする生産(せいさん)作業(さぎょう)
炊事(すいじ)清掃(せいそう)などをする自営(じえい)作業(さぎょう)
・ごみ(ひろ)いなどのボランティアを(おこな)社会貢献(しゃかいこうけん)作業(さぎょう)
資格(しかく)免許(めんきょ)取得(しゅとく)できる職業訓練(しょくぎょうくんれん)
の4種類(しゅるい)です。
ただ、この作業(さぎょう)中心(ちゅうしん)となってしまうために、それぞれの受刑者(じゅけいしゃ)にもっと必要(ひつよう)なことがあっても十分(じゅうぶん)(おこな)えません。
また作業(さぎょう)義務(ぎむ)がない禁錮(きんこ)(けい)受刑者(じゅけいしゃ)も、その(おお)くが(みずか)希望(きぼう)して(さき)ほどの作業(さぎょう)をしていて、懲役刑(ちょうえきけい)禁錮(きんこ)(けい)(ちが)いは(ちい)さくなっていました。一方(いっぽう)で、禁錮(きんこ)(けい)場合(ばあい)は、もっと必要(ひつよう)なことがあっても、受刑者(じゅけいしゃ)希望(きぼう)しないと(おこな)えません。
その結果(けっか)刑務所(けいむしょ)()たあとに犯罪(はんざい)()(かえ)させないという目的(もくてき)()たせているかが課題(かだい)になっていました。近年(きんねん)犯罪(はんざい)をして刑罰(けいばつ)()けた(ひと)のおよそ半数(はんすう)は、それ以前(いぜん)にも犯罪(はんざい)をして刑罰(けいばつ)()けていた(ひと)犯罪(はんざい)()(かえ)してしまった再犯(さいはん)(しゃ)だからです。
(たと)えば、(わか)くて仕事(しごと)がないことが原因(げんいん)犯罪(はんざい)をしてしまった受刑者(じゅけいしゃ)には、これまでのような職業訓練(しょくぎょうくんれん)効果的(こうかてき)でしょう。高齢(こうれい)であれば、認知症(にんちしょう)予防(よぼう)したり体力(たいりょく)維持(いじ)したりすることも必要(ひつよう)です。薬物(やくぶつ)などの依存症(いそんしょう)であればそこから回復(かいふく)させることが()かせず、障害(しょうがい)(かか)えていたら民間(みんかん)支援(しえん)機関(きかん)連携(れんけい)した対応(たいおう)大切(たいせつ)です。
そこで、作業(さぎょう)または指導(しどう)として、それぞれの受刑者(じゅけいしゃ)にとってより必要(ひつよう)対応(たいおう)十分(じゅうぶん)(おこな)えるように制度(せいど)(ととの)えたのが拘禁刑(こうきんけい)です。

刑罰(けいばつ)なのに、技術(ぎじゅつ)()につけさせたり病気(びょうき)(なお)したりして「受刑者(じゅけいしゃ)利益(りえき)(あた)えている」ということに疑問(ぎもん)()(ひと)もいるかもしれません。しかし、それによって将来(しょうらい)犯罪(はんざい)()(かえ)されなくなるのであれば、社会(しゃかい)全体(ぜんたい)にとってはより(おお)きな利益(りえき)(かんが)えられるのです。

犯罪(はんざい)をしなくても無関係(むかんけい)ではない

日本(にっぽん)では2009(ねん)から裁判員制度(さいばんいんせいど)導入(どうにゅう)されています。18歳以上(さいいじょう)(ひと)が、くじで(えら)ばれると、殺人事件(さつじんじけん)など重大(じゅうだい)犯罪(はんざい)裁判(さいばん)に、(さば)(がわ)として参加(さんか)する制度(せいど)です。裁判官(さいばんかん)やほかの裁判(さいばん)(いん)と、有罪(ゆうざい)無罪(むざい)か、有罪(ゆうざい)だったら刑罰(けいばつ)(おも)さはどうするかを(はな)()って()めます。だれもが(ひと)(さば)立場(たちば)になるので、刑罰(けいばつ)についても「自分(じぶん)犯罪(はんざい)をしないから」といって無関係(むかんけい)ではありません。拘禁刑(こうきんけい)をきっかけに、もっと身近(みぢか)なテーマとして、犯罪(はんざい)刑罰(けいばつ)刑法(けいほう)などの内容(ないよう)()れてみましょう。

取材(しゅざい)協力(きょうりょく)監修(かんしゅう)和田(わだ)俊憲(としのり)

東京大学大学院法学政治学研究科(とうきょうだいがくだいがくいんほうがくせいじがくけんきゅうか)教授(きょうじゅ)著作(ちょさく)に「10(さい)から()める・わかる いちばんやさしい刑法(けいほう)」(2022(ねん)東京(とうきょう)書店(しょてん))など。

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