2024年元日に起きた能登半島地震や津波による大きな被害があった2011年の東日本大震災など、いつ起きるかわからない大きな自然災害に備えて、日頃から家に準備しておきたい防災アイテム。中でも大切なもののひとつが食べ物でしょう。少なくとも1人あたり3日分、できれば1週間分の食べ物を備えておくのがよいとされます。このとき役立つのが、年単位で腐らずに長期保存できる「備蓄食」。何度も買いかえる必要がなく、一度準備すればしばらく安心というメリットがあります。
では、どうして備蓄食は、ふつうの食べ物と違って、長い期間たった後でも食べられるのでしょう。多くの備蓄食は5年前後の賞味期限となっていますが、今回は25年も保存が可能な商品「サバイバルフーズ」を例に、備蓄食が長持ちする仕組みをご紹介します。
食べ物の敵は水分と酸素!
備蓄食がどうして長持ちするのかを知るために、 そもそも食べ物はどうして食べられなくなるのかを考えます。食べ物が食べられなくなる理由は大きく2つ。「腐る(腐敗) 」と「酸化する」です。この2つを防ぐことで、食べ物は長持ちします。
ポイント①微生物が増えて腐る
腐ることは、食べ物の中にいる微生物が増えたり、微生物がつくりだす成分が増えたりすることで、味・におい・食感が変わったり、人間にとって毒になったりすることです。腐らせないためには、食べ物に微生物がいない状態にするか 、微生物はいても増えないようにすればよいことになります。
微生物がいない状態にするには、殺菌という方法があります。一般的な缶詰などでは一定時間、高い温度の状態に加熱して、微生物をころしています。微生物が死んでしまえば、その食べ物は腐らなくなります。また、食べ物への使用が認められている保存料を利用する場合もあります。
微生物を増やす「自由水」を取りのぞく
食べ物に微生物はいても増えないようにするには、食べ物の水分をなくす方法があります。微生物が活動するには必ず水分が必要だからです。食べ物の中には、食べ物の成分とくっついている「結合水」と、何ともくっついていない自由な状態にある「自由水」があります。微生物が体内に取り込むなどできるのは自由水だけです。なので、食べ物から自由水を取りのぞいてしまえば、微生物は水分を手に入れられないため増えることもできず、その食べ物は腐らなくなります。
自由水を減らすことで食べ物を長持ちさせることは、例えば漬物やジャム、干物なども同じ理由です。漬物の場合は、自由水が塩とくっついて結合水になるので、微生物が増えません。同じようにジャムは、自由水が砂糖とくっつきます。干物は、乾燥して自由水を蒸発させてしまいます。
賞味期限25年のサバイバルフーズは、「フリーズドライ」という方法を使って、食べ物からほとんどの自由水を取りのぞいています。具体的には、まず食べ物を氷点下30度で凍らせます。次に周りを真空状態にすると、食べ物の中で凍っている自由水が一気に気体(水蒸気)になり、取りのぞけるのです。
食べ物の中に自由水がどれくらいあるか、つまり腐りやすいかどうかは「水分活性」という基準でわかります。水分活性は0~1の数字で表され、純水はすべて自由水なので1、自由水がまったくないものは0です。数字が小さいほど自由水が少なく、腐りにくいことになります。水分活性が0.5以下では、あらゆる微生物が生きていったり増えたりできません。
ポイント②油が酸化するとおいしくない
食べ物が食べられなくなる大きな理由のもう1つは、油脂成分が酸素と反応して「酸化する」ことです。油脂成分が酸化すると、食べ物がくさくなったり、おいしくなくなったりします。また体調によっては、吐き気や下痢などを引き起こします。
空気に触れているだけでダメ
食べ物の中にある油脂成分には、空気に触れているだけで酸素と反応してしまうものがあります。そのため、そもそも酸素と触れさせないことが、食べ物を長持ちさせるポイントです。サバイバルフーズをはじめ、多くの備蓄食では、容器の中にある空気中から酸素を取りのぞける「脱酸素剤」を入れています。
サバイバルフーズのようにフリーズドライで加工した食べ物は、もともと凍った自由水があったスペースが空洞になった、スポンジ状です。そこには、代わりに空気が入り込んでしまうので、しっかり酸素を取りのぞくことがより大事になっています。
また油脂成分は、高温にさらされると水と反応して、品質が悪くなることがあります。ただ、フリーズドライなど水分を取りのぞいている備蓄食は、外から水分が入るのを防げば、油脂成分と水が反応する心配は大きくありません。
ポイント③水分や空気が入らない容器
せっかく取りのぞいた水分と酸素が、保存している間に外から容器の中に入ってきてしまっては意味がありません。ですので、しっかり密閉してあることと、穴があくなどの傷ができにくい容器を使うことも重要です。
サバイバルフーズはスチール製の缶詰で、容器はさびて傷つかないように内側と外側の両面に、さび防止のコーティングをしています。また、道具を使わずに簡単に開けられる「プルトップ式」はもともと容器に切れ目が入っていて水分や空気が入り込む可能性が高くなってしまうため、缶切りで開けるタイプのみをつくっています。
ポイント④実験で時間を早送り、最後は食べて確認
サバイバルフーズの賞味期限は25年と設定してありますが、25年後でも安全においしく食べられることを、いったいどのように確かめているのでしょうか。
備蓄食を開発して、実際に25年後に品質を確認してから発売することは、ビジネスとして現実的ではありません。
食品に限らず、いろいろな製品がどれくらい長持ちするのかを確認するとき、「加速試験」という実験をおこないます。加速試験は、油脂成分の酸化などの化学反応が「温度が10度あがると反応が進む速さが2~3倍になる」という法則(アレニウスの式)を利用しています。つまり、保存温度を常温より10度高く設定しておくと、1年後には2~3年分の時間がたった状態を確認できるということです。そうやって必要な時間を短縮し、実験上ながら未来の状態の品質を確認して、賞味期限の設定にいかしています。
また、サバイバルフーズでは今でも40年以上前につくられた製品が残っていて、その状態を分析して、最後は実際に人が食べて、安全であること、味が変わっていないことを確認しているそうです。
備蓄食は、このように①水分を取り除くこと、②酸素を取りのぞくこと、③水分と酸素が入り込まないようにすること、④将来の品質を確認することを徹底することで、長い期間たっても食べられるものとして成り立っています。
水の場合は? 保存水は、ふつうの水と違いがあるの?
災害時に、食べ物と同じように重要なものに「水」があります。1人あたり1日3リットルが必要といわれます。備蓄用は「保存水」といわれ、5年から15年の長期保存ができるものがあります。保存水が長持ちする理由も紹介します。
中身よりも容器に違いがある
例えばペットボトルに入った保存水と、一般のミネラルウォーターなどを比べてみると、中身として入っている液体は大きく違いません。どちらも紫外線を使うなどして殺菌してあれば、食べ物を腐らせるような微生物がいない状態のものです。そのままの状態をたもてるならば、いつまでも保存できます。
大きく違うのは、そのままの状態をたもつための容器や包装です。保存水は容器のペットボトルが分厚く、丈夫につくってあります。これは変形したり傷がついたりして外から不純物が入るのを防ぐためです。また保存水は、容器いっぱいに液体が入っていて、ふた部分も二重にシールがしてあるなど、水蒸気や空気が出入りしにくくしてあります。
保存水のペットボトルがまとめて入れてある段ボール箱も衝撃を吸収しやすい分厚いものが使ってあり、光や昆虫・小動物が入りこまないように持ち運び用の穴も開いていません。
ただ、実はペットボトルは少しだけながら空気を通してしまいます。そして長い時間がたつと、周りのにおいやペットボトル自体のにおいが水に移ってしまいます。水はジュースなどと違って香りがつけてあるわけではないので、この少しのにおいが気になって「いつもと違う」「おいしくない」と感じることも多いものです。保存水メーカーによっては、安全性だけならばもっと長い時間でも問題ないのに、この「おいしさ」を大切にして、保存期間を定めているところもあります。
保存方法にも注意して
備蓄食も保存水も、安全とおいしさを長い時間にわたって守れるようにつくられています。ただそれは、持ち運び中に落としてしまって容器が変形したり、高温になるような場所に置いておいたり、ちょっとした保存の仕方の間違いから台無しになってしまうことがあります。みなさんは、ぜひこの機会に家に備蓄食や保存水があるか、それがいつまで持つものかということと合わせて、しっかり保存方法を守っているかも確認してみてください。
取材協力:株式会社セイエンタプライズ
賞味期限25年のおいしい備蓄食「サバイバルフーズ」シリーズや、7年保存が可能なサバイバルフーズ・サプリメントなど長期保存食のリーディングカンパニー。サバイバルフーズはお湯を注いで5分、水でも注いで10分で食べられるフリーズドライの食品で、シチューやカレー、雑炊などの種類がある。会社代表は平井雅也さん。
東京都千代田区にシュールーム「セイショップ」がある。店長は布山夕紀さん、防災士。
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