大豆ミートなどで知られる植物肉は、植物からつくられる、まるでお肉のような食材です。欧米で急成長している分野で、最近は日本の飲食店やスーパー、コンビニでも商品を目にすることが増えてきました。いま注目を集める植物肉ですが、じつはSDGs(持続可能な開発目標)とつながりの深いことが背景にあります。今回、学研キッズネットの探Qキッズが、植物肉を開発・販売する会社「DAIZ」(熊本県熊本市)の開発担当者の落合孝次さんと座談会を開催。実際に植物肉を試食もしてみて、その秘密や魅力に迫りました。
参加者
落合孝次さん(DAIZ研究開発部長)
桃花さん(探Qキッズ、中学1年生)
夏向さん(探Qキッズ、小学6年生)
耕造さん(探Qキッズ、小学4年生)
植物肉って何? どうやってつくるの?
まずは植物肉のつくり方や、原料について、落合さんから教えてもらいました。探Qキッズは、大豆のうま味をコントロールするDAIZ独自の魔法のような技術に、とても驚いていました。
植物肉は植物由来の原料でつくられた人工肉
植物肉は、大豆やこんにゃく、小麦、エンドウ豆、ソラマメなどの植物由来の原料でつくられた人工肉・代替肉のことです。よく知られる大豆ミートは、大豆からサラダ油用の油分を搾り取った残りの脱脂大豆からつくられるのが一般的です。脱脂大豆を粉にして水や油を加え、お肉のような風味付けをおこなったり、食感を出すために形を整えたりします。
うま味をコントロールした発芽大豆をまるごと使った新しい植物肉
DAIZがつくる大豆ミートは、油を搾った残りではなく、大豆を発芽させた上で、そのまままるごと原料にする世界初の方法を使っています。そのため、人工肉・代替肉の「つくられたお肉」というイメージとは違って、あくまで「肉に似た植物」という自然なイメージを抱く、新しい食材です。
発芽させることのメリットは大きく2つ。ひとつは、大豆に含まれる栄養素が人間に吸収しやすい形に変化すること。たとえば、タンパク質は、種では大きなかたまりだったものが、発芽するとより小さく分けられた状態になります。うま味成分が増えて、食材としておいしくなります。
メリットのもうひとつは、大豆をどんな環境で発芽させるかによって、大豆の味をコントロールできること。重要なのは、発芽させる環境の酸素量、二酸化炭素量、温度、水分量。この4つの要素に応じて、うま味成分のバランスを、牛肉・豚肉・鶏肉それぞれに似た発芽大豆にできます。この魔法のような発芽方法は落合さんが30年以上かけて研究してきた成果で、DAIZだけの特許技術です。これまで何千通りものパターンで、発芽環境とうま味成分の関係性を分析してきています。
発芽大豆は、まるごと植物肉にします。高温・高圧力にできる特別な機械で、発芽大豆をつぶしたり練ったりして、お肉のような食感にします。ポイントは、タンパク質が一定の向きにそろって並ぶようにして、お肉の筋肉を再現することです。最後は、ミンチ状、ブロック状、薄切り状などのさまざまな形に整えて植物肉になります。この段階では乾燥した状態なので、実際に食べるときは水につけて約3~4倍の量に戻して使います。
植物肉はどうして今、注目されているの?
どうして今、植物肉に注目が集まっているのでしょうか。それは植物肉が、食料問題と環境問題という2つの世界的な課題への対応策として期待されているからだと、落合さんは言います。SDGsの課題解決にもつながる大きなテーマとあって、探Qキッズたちも真剣に耳を傾けていました。
SDGs目標2「飢餓をゼロに」
2023年時点で80億人いる世界の人口はまだ増え続けていて、いずれ100億人を超えるといわれます。そのとき大きな問題になるのが、食べ物が足りないことです。SDGsの目標2には「飢餓をゼロに」があります。すでに現在でも、十分な食べ物が手に入らずに苦しんでいる人たちが大勢いる中で、特に人間が自分の体、血や筋肉などをつくるのに必要なタンパク質を取れる食べ物が足りなくなるのです。これを「タンパク危機」と言います。
人間のタンパク源は、お肉や魚、乳製品、卵などです。たとえば、家畜をたくさん育ててみよう、卵をたくさん産ませてみようというテストが、世界でも行われています。ただ、数を増やそうとギュウギュウに押し込んだような状態で家畜を育てても、成長が悪かったり病気になったりして、うまくいきません。100億人分のタンパク質を家畜から得るのは難しいのが現実です。
SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」
家畜をこれ以上増やしたくない理由もあります。それは、地球環境へのダメージが心配されるからです。家畜を増やせばその分、育てる土地を確保するために森林が切り開かれたり、糞尿で水が汚れたりします。
また、牛のゲップやオナラは地球温暖化の原因となる温室効果ガスを含んでいて、その影響は、自動車などの排気ガスよりも大きいといわれます。SDGsの目標13は「気候変動に具体的な対策を」。これ以上、温室効果ガスが増えるような方法は避けたいのです。
そこで動物からではなく、植物からタンパク質を取ろうという最先端の研究が、植物肉です。発芽大豆は、牛肉よりも多い量のタンパク質を持ちながら、つくるときに発生する温室効果ガスは格段に少なくてすみます。その上、1tの牛を育てるのに大豆飼料なら約100t食べさせなくてはなりませんが、発芽大豆1tをつくるのに必要な大豆はわずか450kgでよく、効率的です。お肉の代わりに植物肉を食べると、植物のタンパク質を上手に利用しながら、温室効果ガスを大幅に減らすことにもつながるのです。
実際に植物肉を食べてみよう! 味はどうだったかな?
探Qキッズは、実際にDAIZの植物肉を試食。植物肉から植物ツナをつくり出す実験にも挑戦し、楽しみながら植物肉の実力を確かめていました。
言われても気づけないおいしさ
DAIZの植物肉はうま味が豊富で、そのままでも食べられるほど。さらに、少し手を加えるだけで、簡単においしい一品になります。ますは植物肉から「ツナマヨ」をつくる実験をしてみました。材料は、発芽エンドウ豆で鶏肉に似せてつくった植物肉15g、顆粒だし4g、水30ml、マヨネーズ49gだけ。研究者風にビーカーや薬さじ、はかりを使って、それぞれの分量を自分ではかり取りながら、つくりました。
植物肉をはかる。「15gまだ?」。乾燥したチップ状で、15gが思ったより多い。
顆粒だし4gをはかる。細かい作業が研究者っぽい。
顆粒だしに水30mlを加えて、出汁をつくる。ビーカーの口は小さくて、こぼさないように慎重に。
植物肉に出汁を加えます。さすがにこれはカンタン!
出汁を加えた植物肉を混ぜます。すでにおいしそうな香り。
植物肉にマヨネーズを加える。この分量なら、いちばんおいしいマヨネーズの量は49gだって。
材料全部を混ぜれば、植物ツナマヨネーズのできあがり。香りは完全にツナマヨ。
植物ツナマヨを、熱々ご飯で包みます。形はきれいな三角形じゃないけど、ゼッタイおいしい予感。
植物ツナマヨおにぎりを、ぱくり。お店のものに負けないくらいおいしくて、あっという間にぺろり。
植物肉は乾燥したチップ状。みんな、最初は恐る恐る量をはかっていましたが「まだまだ足りない」。チップ一つひとつはとても軽いことに気づいて、次第に大胆になっていきました。一方で、次にはかった顆粒だしは細かい作業に。顆粒だしが入った袋を指先で軽くたたきながら、集中して、きっちり4gをはかりとりました。これに水30mlを加えて出汁にして、植物肉と混ぜると、もうおいしそうな香りがしてきます。
最後に入れるのはマヨネーズ。これまでの3つの材料と同じ量を加えるのが、DAIZが考えたおいしいレシピ。なのでマヨネーズは49g! みんなは半端な数字を伝えられ「50gにしてしまわないんだ」と研究開発企業の細やかさに触れて驚いていました。チューブを力強く握りしめて加えて、しっかり混ぜ合わせたら出来上がり! 完成した植物ツナマヨをおにぎりにして、試食しました。みんな「もう完全にツナ」「簡単なのに、お店の商品と同じくらいおいしい」と少し興奮気味。あっという間に完食していました。
続いて、DAIZが大手コンビニチェーンのセブン-イレブンなどと共同開発した、ツナと植物肉を混ぜてつくったツナマヨネーズおにぎり、お肉と植物肉を混ぜた冷凍焼き餃子、冷凍ミートソースパスタも試食。みんな「植物肉が入っていると言われても気づけない」と感動した様子で、箸が止まりませんでした。
植物肉のこれからは? いっしょに考えてみよう!
植物肉はもっと食べてもらえるようになるでしょうか。課題や期待など、探Qキッズと落合さんが、植物肉のこれからについて話し合いました。
子どものころから食べなれることで食文化に
発芽大豆自体がおいしいのに、なぜ手間をかけてお肉に似せるのでしょうか。
日頃の食卓を思い出してみてください。豆料理とお肉料理では、圧倒的にお肉料理が多くありませんか。おいしいとはいえ発芽大豆を豆のように食べてもらうより、植物肉にして、食べなれたお肉に似せた方が、ずっと使い道は多いのです。そして、その分だけ早く社会に広がってもらうことを狙っています。海外では、よりお肉に近づけるために、いろいろな添加物を加えます。日本では「自然な味」が好まれるので、そのままおいしい発芽大豆を使った植物肉の方が広まりやすそうです。
植物肉は、実際の原料代だけなら牛肉の3分の1程度、必要な手間暇もお肉よりはるかに少なくてすみます。しかし、まだ生産量が少ないこと、研究開発や工場建設などの費用が多くかかることから、現状ではお肉と同じ程度の価格です。これから植物肉が社会に広まっていくことで価格もより手ごろなものになっていくと考えられます。
また植物肉のタンパク質は、お肉のタンパク質と比べて、人間にとって消化・吸収しにくいのが課題です。タンパク危機を乗り超えるためには、消化しやすいものへ改良できないか研究を続けていくしかありません。
DAIZの植物肉が食べてみたくなったら
DAIZの植物肉は、座談会で試食したセブン-イレブンのツナマヨネーズおにぎりなどのほか、大手食品メーカーやスーパーの商品へも提供されています。たとえば、伊藤ハムの調理品「まるでお肉!大豆ミートシリーズ」の「ハンバーグ」「肉だんご」「メンチカツ」、ニチレイフーズの冷凍食品「大豆ミートのハンバーグ」に使われています。ぜひ、植物肉をお試しください。
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