「円安」という言葉を、聞いたことがありませんか? 2022年10月に、よくニュースになったワードです。「32年ぶりの1ドル150円台」とか、「政府が歯止めをかけようと対策している」とか。文字通り、日本の「円」が「安い」という意味ですが、お金自体が安くなったり高くなったりするというのは、どういうことでしょう? わたしたちの生活に影響があるのでしょうか? 円安の反対、「円高」と合わせて紹介します。
いつも変わり続けるお金の価値
国によって違うお金の単位
まず、国によって、お金の単位は違います。
日本のお金の単位は「円」ですが、アメリカは「ドル」、ヨーロッパの欧州連合(EU)加盟国では「ユーロ」、韓国は「ウォン」、インドは「ルピー」などです。
日本で生活するには円だけで大丈夫ですが、企業などが国をまたいでモノを買ったり売ったりするときは、お金の単位をそろえる必要があります。世界ではアメリカのドルが使われることが多く、日本の企業なども日々、円とドルを交換しています。
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いくらと、いくらで交換するの?
このとき、いくらの円と、いくらのドルを交換するのかを決めているのが「為替レート」といいます。ニュースなどで「1ドル=〇円」と言われるものです。
為替レートはいつも変わり続けています。
少し難しい言葉でいうと、「需要」と「供給」の関係で決まります。
需要は、そのモノを買いたい人がどれくらいいるか、です。買いたい人がたくさんいたり増えたりするとモノの価格は上がります。買いたい人が少なかったり減ったりするとモノの価格は下がります。
供給は、そのモノがどれくらい売られているか、です。量が少なかったり減ったりするとモノの価格は上がり、たくさんあったり増えたりするとモノの価格が下がります。
それは、円とドルというお金自体についてもあてはまります。ほしい人がどれくらいいて、交換できる量がどれくらいあるかによって、それぞれの価値が上がったり下がったりします。
いま円安になっているということは、円の価値が下がっているということで、円をほしい人が少なくて、反対にドルをほしい人がたくさんいるということです。
「1ドル=100円」と「1ドル=200円」 どっちが円安?
では為替レートが「1ドル=100円」(1ドルと100円を交換)と、「1ドル=200円」(1ドルと200円を交換)では、どちらが円安で、どちらが円高でしょう。
「交換」を「売り買い」という言葉に置き換えてみると「安い」と「高い」のイメージがしやすいかもしれません。
1ドルで100個しか買えないモノ(円)と、200個も買えるモノ(円)だと、どちらが安いモノ(円)でしょうか。
つまり「1ドル=200円」の方が円の価値が低い、円安です。「1ドル=〇円」という表し方だと、円の数字が大きくなることが、円安です。反対に円の数字が小さくなることが、円高です。
円安と円高、どっちがよいの?
円安と円高それぞれに、うれしいこと、うれしくないことの両方があり、どちらがよいということはありません。日常生活においては、輸入品などの価格が上がったり下がったりする影響を受けやすいです。
円安の場合、海外へモノを売る輸出にはうれしいです。ドルでの売り上げをより多くの円と交換できたり、輸出するモノのドルでの価格を低くすることができたりします。
また、海外からモノを買う輸入にはうれしくありません。同じモノを買うにしても、これまでより多くの円を払わなければなりません。
日常生活においては、輸入品の値上げがされる場合もあり、エネルギー資源や食料品などの価格が上がる影響を感じられるかもしれません。また、外国産のお菓子とか、お肉といった、商品そのものの値上げ以外でも、輸入の飼料を使っている畜産物など、それをつくるのに輸入した材料や燃料を必要としている国内産のモノも値上げされるかもしれません。
円高の場合は、円安と反対のことが起こります。輸出は、売り上げが少なくなったり、ドルでの価格が高くなったりして、うれしくないです。輸入は、支払う円が少なくてすみ、うれしいです。日常生活においては、輸入品そのものや、輸入した飼料や材料、燃料をつかってつくる国内産のモノが値下げされる場合もあります。
なぜ今、円安になっているの?
いま大きなニュースになるほど円安になっているのは、日本とアメリカのお金をめぐる政策の違いが主な理由です。
「金利」という指標が、日本が低く、アメリカが高いため、お金を貸したり預けたりしたときに有利なアメリカのドルが人気なのです。2022年1月は、1ドル=115円台だったので、2022年10月までの10か月で35円ほどの円安になっています。
日本は、食料品や、石油・天然ガスなどエネルギー資源をたくさん輸入しているので、急に円安になることは、日常生活の上では決してうれしくありません。日本は、急な円安に歯止めをかけようと、自分が「円をほしい人」になり、ドルで円を買って、円の人気を支えるなど対応していますが、なかなかうまくいっていません。
監修:泉美智子
株式会社六次元(子どもの環境・経済教育研究室代表)。京都大学経済研究所東京分室、公立鳥取環境大学経営学部准教授を経て現職。全国各地で「女性のためのコーヒータイムの経済学」や「親子経済教室」などの講演活動。テレビ、ラジオ出演も。近著に『12歳の少女が見つけたお金のしくみ』(宝島社)、監修に『今さら聞けないお金の超基本』がある。日本FP学会会員、日本児童文学者協会会員。