子どもの「書く力」を伸ばすには?言語学者 金田一先生のアドバイス
小学校に入学後、ひらがなやカタカナ、漢字などの文字を書いたり読んだりする機会が格段に増える子どもたち。
読むのが苦手、書くのが苦手という子どもが国語力を伸ばすコツはあるのでしょうか。言語学者の金田一秀穂先生にお話を伺いました。
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小学校入学後の「読み書き」サポートはどうする?
学研教育総合研究所が2019年に行った「幼児白書 入学前に身につけさせたいこと」の調査によると、入学前に保護者が子どもに一番身につけておいて欲しいのが、「ひらがなが読める」(70.8%)。次いで「ひらがなを書ける」(66.9%)という結果になっています。
小学校に入学すると、国語の時間にひらがなの読み書きがスタートするほか、ノートや連絡帳の記入など、文字で情報をやり取りする生活が始まります。
親としては早く読み書きを習得して欲しいと焦ってしまいますが、「まずは、子どもの興味や関心を大切にしてほしい」と金田一先生は語ります。
「いつ、どんなことが文字が好きになるきっかけになるかは誰にもわかりません。大切なのは子ども自身が文字に興味を持つことです。
たとえば、小学校ではまず自分の名前を書く機会があると思いますが、そこで『自分の名前を書きたい!』という思いが湧いたとしたら、大きなチャンスです。
保護者の方にはぜひ、子どもの『好き』や『楽しい』の対象から、自然と文字に興味を持つプロセスを大切にしてほしいですね。自分の名前以外にも、好きな電車やヒーロー、プリンセス、なんだっていいと思います」
また、金田一先生によると、日本語にはユニークな特性があるのだとか。
「日本語(ひらがな)は、文字と音が一致さえすれば、実は書くのは簡単で、文字化しやすいという特徴があります。
どういうことかというと、英語の場合、文字の組み合わせによって何通りもの発音があるのに対して、日本語はどんな音にも、その音に対応する文字がひとつしかありません。そういう意味で、とてもシンプルな言語なのです」
親子の会話で「語彙力」がアップ
とはいえ親として、読み書きに苦手意識のある子どもの国語力を上げる方法は知りたいところです。家庭で子どもの国語力を磨いていくには、どうすればいいのでしょうか?
「まず、語彙力を増やす簡単な方法としては、親子でどんどん喋ることが効果的でしょう。どう思ったとか、面白かったかとか、つまらなかったかとか、楽しかったとか…言葉を一生懸命使ってお互いの話をしていれば、自然と語彙力も増えます。
映画の感想でも読んだ本の感想でもなんでもいいんです。子どもの拙い言葉も理解してあげられるのは親しかいません。否定せずに受け止めましょう。
子どもの心の中に、伝え合うことに対する『楽しい』『嬉しい』という成功体験がたまっていく。その積み重ねが大切なんだと思います」
「手紙」はポジティブな読み書き体験のチャンス
就学後、文字を習ったはいいけれど、書くことが苦手なお子さんへのサポートとしては、「手紙を書く」というアプローチもあるそうです。
「子どもが学校の作文を苦手に思う理由のひとつには、誰に向けて書くべき文章か、分からなくてうまく書けないということが考えられます。
文章は、伝える相手を意識すると書きやすくなります。ですから、手紙は頭の中で言語化したことを文字化するいい練習になると思います。
遠方に住む祖父母に向けたお手紙は、きっと喜んでもらえるでしょう。読み書きのポジティブな経験を積んでいくいい機会になるかもしれません」
「本」に触れる機会も大切にしよう
また、国語力のベースになる読書を深めていくことも大切だと、金田一先生は続けます。
「デジタル化が進んで、子どもが紙の本に触れる機会が以前より減っているかも知れません。そんななか、親が本に触れなければ、子どもも当然触れることはないですよね。
ですから、子どもに『読書をしなさい』という前に、親自身が本を読む姿を見せるということも大切。その姿が楽しそうであればあるほど、子どもは興味を持つものです」
本を選ぶ際は、大人が見ても美しいな、素敵だな、と心を動かされる作品を選ぶのがポイントなのだとか。
「『飛ぶ教室』や『十五少年漂流記』など、長く読み継がれているような作品を読むのもいいですね。
僕が好きな本は、井伏鱒二先生が翻訳している『ドリトル先生』。それからスヌーピーやチャーリーブラウンが出てくる『ピーナッツ』のシリーズは漫画ですが、実は谷川俊太郎さんが翻訳しています。
素敵な日本語に触れられる本に出会えると、より深い読書体験になるのではないでしょうか。ぜひ子どもの頃から質の高いもの、良いものに触れてもらえたら嬉しいです」
取材・文/諸橋久美子 編集/石橋沙織