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睡眠と学力の関係は? 子どもの成長にも影響する睡眠の働き【睡眠研究の専門家に聞く】

睡眠と学力の関係は? 子どもの成長にも影響する睡眠の働き【睡眠研究の専門家に聞く】

画像は「SewCream/shutterstock.com」より

コロナ禍で生活リズムが崩れ睡眠が思うようにとれなくなり、日中も授業に集中できないといった相談が増えているようです。

睡眠がしっかりとれていないと、子どもたちにどのような悪影響が及ぶのでしょうか? 今回は、子どもの睡眠と学力との関係や、睡眠への向き合い方について、睡眠研究の第一人者であるスタンフォード大学医学部精神科教授の西野精治先生にお話を伺いました。

睡眠と学力との関係は?

「子どもの成績には様々な要素が絡んできますから、睡眠と学力を直接結びつけるような実証的なデータというのはありません。

ですが、質の良い睡眠を適切にとることは、その人のベストなパフォーマンスを発揮するために不可欠であることがさまざまな研究によってわかっています。

たとえばプロのアスリートに協力して行った実験では、適切な睡眠をとることで集中力や意欲が著しく上昇するというデータがとれました。

スポーツの世界でも、“睡眠こそがすべての基礎である”という認識に変わっていますから、子どもの学習に対する集中力やパフォーマンスにも関わる部分があるといえるでしょう」(西野先生)

小学校で学ぶ子どもたち
画像は「milatas/shutterstock.com」より

西野先生によると、最近では、子どもにとっての睡眠の大切さに着目し、学校や自治体で睡眠に取り組んでいる事例も多いといいます。

「たとえば大阪市淀川区は『ヨドネル』という睡眠習慣改善に取り組んでいて、睡眠習慣のついた子どもの方が学力テストの正答率が高かったというデータ(1)を発表しています。

「よどがわ睡眠白書」より(画像提供/淀川区役所)
「よどがわ睡眠白書」より(画像提供/淀川区役所)

また、九州の東久留米市の学校では『睡眠教育』いわゆる『眠育』を実践しており、その一環で日々の習慣に昼寝を取り入れたところ、生徒たちの成績が向上したという結果も出ています」(西野先生)

親の“睡眠負債”が子どもに影響も

ところが今の日本は、大人も子どもも、全体的に夜ふかしする傾向にあり、短時間睡眠が習慣化していると、西野先生。

「子どもは大人の生活習慣に影響を受けますから、今の日本の子どもの睡眠時間は欧米の推奨ラインである9~11時間に達していない家庭も多いのではないでしょうか。

実際に親の睡眠負債と子どもの睡眠負債との関連を調べたところ、因果関係があることがわかっています(2)

親の睡眠負債が子供の睡眠負債に影響?
「睡眠偏差値kids 2021」より(画像提供/ブレインスリープ)

日本はもともと他国と比較しても睡眠時間が短く、平均時間は6.5時間と言われています。

これは、東京の睡眠偏差値(下図参照)を見ても明白。毎年行っているブレインスリープの調査では、最近1~2年で、やや睡眠時間が改善されているものの、まだまだ世界的に見ると短いという状況に変わりありません。

東京の睡眠偏差値は最低
『スタンフフォード式 最高の睡眠』より(西野精治著/サンマーク出版)

おもしろいことに、本来1%に満たないショートスリーパー(※)だと自認している方がとても多いんですよ。ですが実際は、睡眠時間がたりていない状態という方がほとんどです(3)

自身がショートスリーパーであると回答した人は23%
「睡眠偏差値BIZ 2022」より(画像提供/ブレインスリープ)

そういう意味でも、まずは子どもの睡眠以前に、親である大人自身が『睡眠がたりていない』と認識することがスタートラインになると思います」(西野先生)

※睡眠時間が4時間程度以下でも、日中の眠気を感じることがなく、長期的に見ても心身ともに何ら支障をきたさない人

くわえて、放課後の塾通いや習い事など、慌ただしい環境によって睡眠時間が短くなりがちな子どもたち。あまり短時間睡眠が続くと、子どもにさまざまなデメリットが生じる危険性があると、西野先生は警鐘を鳴らします。

「実際に、睡眠の状態が良くないと体調不良や睡眠障害などさまざまな健康面での弊害を起こすリスクが高くなることがわかっています(2)

体調不良症状に睡眠習慣の影響があることが判明!
「睡眠偏差値kids 2021」より(画像提供/ブレインスリープ)

それだけではありません。小さい頃から短時間睡眠の習慣が続くと、脳やカラダの成長にも影響が出るのです」(西野先生)

子どもと大人では大きく違う。睡眠の大切な役割

西野先生によると、子どもの発達における大切な働きが睡眠中には起きているのだそう。

「睡眠には、夢をみるレム睡眠と、深い休息の眠りのノンレム睡眠の2種類あり、どちらも子どもの成長にとって重要な役割を担っています。

新生児の頃はレム睡眠が8割を占めているのですが、実はレム睡眠の間に脳のシナプスをつなげたり、神経回路を形成していったりと脳の成長を促す働きがあるんです」(西野先生)

睡眠中の赤ちゃん
画像は「316pixel/shutterstock.com」より

一方でノンレム睡眠は成長ホルモンの活性化や自律神経を整える役割を果たしているといいます。

「年齢があがっていくにつれ、ノンレム睡眠の比率があがり12歳くらいまでに大人の睡眠サイクルに近づいていきます。

特に学童期は、成長ホルモンの活性化や自律神経を整える役割を果たすノンレム睡眠が重要になる時期です。

子どもの頃に十分な睡眠がとれない小児性疾患にかかり、成長ホルモンが十分に分泌されず体格の成長が遅れるケースもありました。

これは極端な例ですが、子どもの睡眠の影響力がよくわかる例かと思います」(西野先生)

質の良い睡眠をとるのに大切なリズムと環境作り

子どもにとって理想的な睡眠は、「時間と質」にあると西野先生。わたしたちはどのようにサポートすればいいのでしょうか。

「いちばん大切なのは、生活のリズムを整えることでしょう。朝にしっかり太陽の光を浴びて、昼間適度に運動し、夕方以降は光を避けつつ穏やかに過ごすという1日のリズムづくりが非常に大切です。

人間の体内時計は実は24.2時間周期なので、朝、太陽の光でリセットしてあげないと体内リズムが後ろにずれやすいんですよ。

インターネットの普及などで情報化社会の今、朝起きて夜寝るという当たり前のことができなくなってきています。基本ではありますが、改めて見直してほしいポイントです」(西野先生)

リズムを作ってあげることで、スムーズに入眠できるようになり、理想的な睡眠が叶うようになるのだそう。

ベッドで会話をする親子
画像は「polkadot_photo/shutterstock.com」より

また、子どもの場合は「体温調節」も睡眠の質向上に欠かせないといいます。

「入眠する際に人の身体は体内温度を下げて、体外温度を上げようとしますが、子どもは大人の身体に比べて、手足や皮膚から熱が逃げやすく、体温調節が難しいので、寝具などに気を遣ってあげてほしいですね。

また当然明るい光、特にブルーの波長は催眠作用を起こすメラトニンの分泌を阻害するので、眠る前にスマホやタブレットで動画を見たり強い光を浴びるのは避けましょう。

とはいえいろいろなことにあまり神経質になりすぎると、今度は逆にそれがストレスになって睡眠を妨げてしまうので注意が必要です。

まずは睡眠の大切さをご家庭で共有する。改めて家族の睡眠について見つめる機会をつくってみてはいかがでしょうか」(西野先生)

 

取材・文/諸橋久美子 編集/石橋沙織

1)「よどがわ睡眠白書」淀川区役所
https://www.city.osaka.lg.jp/yodogawa/page/0000382865.html

2)睡眠偏差値(kids)調査研究発表 2021株式会社ブレインスリープ
https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/research2021kids/

3)睡眠偏差値 調査研究発表 2022 株式会社ブレインスリープ
https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/research2022/

西野 精治(にしの せいじ)さん

西野 精治(にしの せいじ)さん

西野 精治(にしの せいじ)さん

スタンフォード大学医学部精神科教授。同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長。医師。医学博士。株式会社ブレインスリープ 創業者兼最高研究顧問。認定資格は精神保健指定医、日本睡眠学会専門医、産業医。2017(平成29)年に出版した啓蒙本『スタンフォード式 最高の睡眠』が33万部を超えるベストセラーとなり、書籍で取り上げた「睡眠負債」が流行語大賞トップ10に選出される。

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