手紙で身につく!子どもの文章力・思考力・語彙力の磨き方【ことばのプロに聞く】
SNSやメッセージアプリでのコミュニケーションが主流となりつつある、現代の子どもたち。気軽にやりとりができる一方で、相手に伝えたいことを正しく書く力や、文章力の伸び悩みが不安視されています。
「手紙には、子どものさまざまな力をのばす種がある」と語るのは、ことばを使うコミュニケーショントレーニングの教室「ことばキャンプ」を主宰する高取しづかさん。手紙が持つ力について詳しく聞きました。
短い文章しか書けない子どもが増えている!?
「SNSやメッセージのやりとりは短文が主流で、主語や述語がありません。
感覚的な言葉を使った短い言葉のやりとりに慣れてしまうと、論理的な文章や長い文章を書けなくなる恐れがあります。
たとえば
A『昨日の、見た?』
B『見た。ヤバくない?』
A『マジ、ヤバイよね。終わったんだけど』
といったやり取り。
友だち同士のやりとりでは会話が成立していますが、この内容を第三者が聞いたときはどうでしょうか。『昨日何を見たのか』『何が終わったのか?』という主語がありませんよね。そもそも『ヤバイとはどんな心境なのか』『どう感じたのか』が、これだけでは伝わりません。
仲間内以外の人と情報や感情を共有したり伝えたりするときには、より具体的で丁寧に言葉を紡ぐ必要があります。情報や感情を言語化するトレーニングによって、相手に伝わりやすい表現力がつくのです。
それから、文章力をつけるためには、ある程度の長さの文章を書くという経験も大切です。手紙は、作文や感想文などと比べて伝える相手が明確なので、書きやすいというのが魅力のひとつ。文章を書く練習としてピッタリなんです」(高取さん)
「書く」ことは「考えを深める」こと
言葉には2つの大きな役割がある、と高取さん。
「ひとつは、対人関係の基盤としての役割です。私たちは主に言葉によって情報や感情を伝達します。メールにしても電話にしても、人とコミュニケーションするときに大切な役割を果たしています。
もうひとつは、知的活動の基盤としての役割です。言葉は思考の道具としての機能があります。
たとえば、『今日中に銀行に行かなくちゃ』とか『ちょっと寒い……風邪ひいちゃたかな』というひとり言は、誰かに伝えるためではなく、言葉を使って考えたり、言葉を使って感じたりしています。人間は、言葉がなければ考えることができないのです」(高取さん)
言葉を使って考える際に、カギになるのが語彙力です。語彙が増えれば増えるほど、考えたり感じたりするツールが多くなり、思考や感性が豊かに深まっていくのだそう。
「何かを見て心が動いたときに、『かわいい』『ヤバイ』という言葉しか出てこないのはさみしいですよね。人に伝えるときにも、言葉を多く知っていると『どうかわいいのか』『どのように感じたのか』を豊かに表現することができます。
さらに、『書く』ことによって、話し言葉よりもじっくり時間をかけて考えたり、適切な言葉を選び表現したりすることができます。丁寧に詳細に伝えようと思えば思うほど、言葉を使って考え、推敲していくことも必要です。
文章は、口語とは違い、何度も書き直し、言葉や表現を変えながら組み立てていきます。この試行錯誤の過程によって、思考が磨かれていく。そういう意味でも、自分の気持ちを言葉で相手に伝える手紙は、語彙を増やし、思考を深める絶好の機会になると思います」(高取さん)
語彙力が増えると、表現力・理解力が深まる
自分の気持ちを相手に伝えるために、どの言葉を使えばいいか、どのような表現が適切かを考えたあと、文章にするためには、アウトプットが必要です。
言葉がなかなか出てこない子どもの場合は、普段からリビングなどすぐ手が届く場所に辞書を置くのもひとつの方法だといいます。
「疑問に思った言葉を自分で調べる。そういった辞書をひく習慣がつくとすごくいいですよね。国語辞典はもちろん、言い換え辞典などもおもしろいと思います。
しりとりなどの言葉遊びやクロスワードパズルなども、楽しみながら語彙力を増やすことができるのでおすすめです。
語彙力がアップすると、文章に対する理解力が深まります。書く力だけでなく、読み解く力も身につくため、自然と学力向上にもつながっていくのです」(高取さん)
思いをつなぐ手紙は社会性を学ぶ機会に
さらに、手紙を書くことは、社会性を育むことにもつながると、高取さん。
「離れて暮らしているおじいちゃんおばあちゃんや、お世話になった先生など、手紙は異年齢の人、家族以外の人とコミュニケーションをとるきっかけになります。
季節の挨拶などのマナー、敬語の使い方をはじめ、便箋や封筒の使い方、切手の貼り方、送り方まで学べるところも手紙の魅力です。いずれも、大人になってから必要になることばかりですから。
子どもが手紙を書くことに前向きでない場合は、サンキューカードをうまく取り入れるのもいいかもしれません」(高取さん)
海外では、イベントに誘ってもらったり、頂き物をしたりする際に「ありがとう」の気持ちを贈り合うのが盛んなのだそう。
「相手に何かしてもらったとき、感謝の気持ちを伝えることは、社会に出てからも大切なことですよね。
手紙は、普段接することが少ない人ともつながることができるコミュニケーション。だからこそ、どんなにデジタル化が進んでも、手紙は廃れない。ずっと残り続けるものだと思います」(高取さん)
子どもが自ら「手紙を書きたい!」と思えるようなサポートを
いくら手紙が子どもの能力を育むからといって、強制的に書かせるのはNG。あくまでも子どもの気持ちを尊重することが大切です。
「『手紙を送りたい!』『書きたい!』という気持ちがいちばん。何事もそうですが、嫌々やっても、よいことはありません。
親子でレターセットを買いに行き、書きたい気持ちを盛り上げたり、グリーティングカードに家族みんなでメッセージを書きあったりするのもいいですね。
まずは、書くことを楽しむという意味で、イラストや一言メッセージから手紙に親しむきっかけをつくってみるのもいいと思います。
手紙を送るときのワクワク感や、お返事を待っているときのドキドキする気持ち、受け取ったときの喜びなど……手紙にしか味わえない、心が動かされるような素敵な感情がたくさんあります。
お誕生日や季節のイベントは、手紙やカードを書く絶好のチャンスです。ぜひ親子で手紙を書いて、楽しみながら子どもの力を引き出してみてはいかがでしょうか」(高取さん)
取材・文/水谷映美 編集/石橋沙織