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“子ども扱いナシ”で創造性を育む。神戸市『ちびっこうべ』に見る新しい学び

“子ども扱いナシ”で創造性を育む。神戸市『ちびっこうべ』に見る新しい学び

受験を制して安定した企業に勤めるだけが、人生の正解とは言い切れなくなった今の時代。同時に子どもたちの学びの形も、学び場のあり方も、さまざまに変化しています。

中には学校や塾、家庭だけではなく、地域のさまざまな大人たちを巻き込んで、子どもたちの創造性を育む自治体も。神戸市の施設であるデザイン・クリエイティブセンター神戸(愛称:KIITO/キイト)は、子どもたちの主体的な学びや探究心を育む、ユニークな創造教育プログラムを開発し、地域の学び場となっています。

そんなKIITOで子どもたちが夢中になる体験や学びとは?センター長を務める永田宏和さんに聞きました。

1,500㎡のスペースで、こどもの「ゆめのまち」をつくる

子どもから大人まで、さまざまな世代の創造的学びの拠点になっているKIITO。日々、多くのイベントやワークショッププログラムを提供していますが、中でも特別なのが2年に1度開催される『CREATIVE WORKSHOP ちびっこうべ』です。

子どもたちが、自分たちの思い描く「ゆめのまち」をKIITOの建物内にある約1,500㎡のスペースにつくってしまう、まさにゆめのようなプログラム。建築家やデザイナー、シェフなど、地域のクリエイターたちが、子どもたちの‟ゆめ”を形にするためにサポートします。

「ちびっこうべ」建築家チーム ワークショップの様子(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)

プログラムに取り組む小学校3年~中学校3年の子どもたちの表情は、真剣そのもの。その理由に、一緒に関わる大人の真剣な姿があると語るのは、KIITOのセンター長を務める永田宏和さんです。

「『ちびっこうべ』では、子どもたちに関わるクリエイターたちが、子どもを“子ども扱い”していません。大人側がやることを用意したり、出来上がりのイメージを与えたりしないで、あくまでも子どもたちの発想を形にするほんのちょっとの手助けをするようにしています。

子どもは、大人の真剣さや、自由に考えさせてもらえる余地があるかを、敏感に感じ取るもの。だから子どもを信じて、ここでは子どものやりたいことを本気でやってもらうんです」(永田さん)

“ごっこ遊び”ではない。大人の真剣さが“夢中”をつくる

子どもたちがつくった「ゆめのまち」の中には、さまざまな職種の仕事が体験できるまちの仕事ブースがつくられます。しかし、それがただの体験にとどまらないところが、子どもたちを本気にさせるのだとか。

「ちびっこうべ」ゆめのまち イベントの様子(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)

「2018年のちびっこうべのゆめのまちには、木工家具作家さんと一緒に木で椅子などの家具をつくる『家具工房』がオープンしました。

普通のワークショップなら、子どもがつくった作品は記念に持ち帰ると思うのですが、『工房』なので、まちのショップに商品として卸さなければいけません。

ただ、参加した子どもたちの多くは、自分でつくった椅子を、どうしても持って帰りたい。『売りたくない』という気持ちと『仕事として売る』という気持ちで葛藤する中、泣く泣く手放すという経験をします。

『それなら自分で買う!』と自分のつくった椅子が売られるお店に慌てて向かう子もいますが、間に合わないことも。でも、自分が作ったものが売れるというよろこびを実感しつつ、悲しいようなうれしいような、複雑な表情を浮かべていました。

あえて子ども扱いせず、売れるも売れないも、社会のシビアさを味わってもらうのがKIITOの『ゆめのまち』。意外とそういう経験から、思いがけない‟学び”が生まれているのだと感じています」(永田さん)

「ちびっこうべ」シェフチーム ワークショップの様子(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)
「ちびっこうべ」ゆめのまち イベントで集客をする子どもたち(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)

完全な教育プログラムは、子どもを“客”にする

今、KIITOのような場が必要とされている背景として、永田さんは全国的な人口減少や、地域との関りの希薄化に加え、コロナ禍の影響によるコミュニケーション不足などを指摘します。

「地域に暮らす人たちを『土』とするなら、今、土は枯れている状態。かつてなら、まちのお祭りや季節の行事が自ずと行われていたものの、衰退したコミュニティではなかなか難しくなっています。

そのような状況で求められるのは、栄養が少ない『土』でもうまく根付き、花を咲かせるような新しい『種』です。KIITOでは、神戸に住む人のつながりやコミュニティとしてたくましく育っていくプログラムを開発し届けています」(永田さん)

地域やコミュニティを豊かに、魅力的に育てるための「種」である活動やプログラムを届ける「風」の役割を担うKIITO。土に寄り添う中間支援的存在の「水」、つまり市役所やNPO、大学といった人たちと協働しながら、地域のコミュニティによる学びを届けているのだそうです。

KIITOの活動理念(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)

「子どもも大人も主体的に参加し、新しい学びが生まれる体験プログラムをつくるうえで大切なことが2つあります。

1つめは『不完全プランニング』。あえてプログラムをつくりすぎないで不完全さを残しておく。工作のキットのように、説明書通り組み立てればできあがるようなものは、作る楽しさや達成感を得られますが、自由な想像・創造力は育ちにくい。

失敗したら、完成しなかったらどうしようと主催者や親がつい不安になってしまうのだけど、子どもを信頼して、子ども自身が主体的になれる余白を用意したほうが、子どもも夢中になれるんですね。

2つめは『+(プラス)クリエイティブ』。やっぱり、楽しくないと誰も夢中になれません。興味関心を持って関わりたいと思ってもらえるように、デザインやクリエイティブの力をプラスして『楽しい』を演出します。

そういう意味では、大人と子どもが一緒にゆめを形にする『ちびっこうべ』は、持続可能なプログラムなのではないでしょうか。

参加者が真剣に、夢中になって取り組みますから、子どもにも大人にも“学び”が生まれる。さらには、参加していた子が大きくなったときに、今度は『サポーター(運営側)』で参加するケースが増えてきています」(永田さん)

「ちびっこうべ」デザイナーチーム ワークショップの様子(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)

子どもの中に眠る「つくりたい」を引き出そう

KIITOでは、プログラムを通じて、地域の人と子どもたちの間に『ナナメの関係』が生まれる、と永田さん。人と人との関わりが、子どもたちの新たな一面を引き出しているといいます。

「保護者の方からよく聞くのは、子どもの変化です。たとえば、『ちびっこうべ』に参加したあと、家で家事の手伝いを始めたとか。これまで口数が少なかった子が、家でよく喋るようになったとか。親子の会話が増えたという家庭もあるようです。

ほかにも、なかなか学校に行けなかった中学生が、数年前『ちびっこうべ』に参加したことがきっかけで変化したという話も。理由を聞くと、プログラムの中で自分の得意な分野を発揮できて、大人が自分を認めてくれたのがうれしかったのだそうです。

学校ではなかなか出せない一面を、学校でもない、家庭でもない、地域の大人の前だったからこそ表現できたのかもしれません」(永田さん)

「ちびっこうべ」建築家チーム ワークショップの様子(画像提供/デザイン・クリエイティブセンター神戸)

学びの場でも、家庭でも、大人が子どもを思うばかりにいろいろ用意しすぎて、子どもを受け身の“客”状態にしてしまうと、その子自身のやる気や意欲は置いていかれてしまいます。

ですが、子どもを信じて“子ども扱いしない”姿勢が、子ども自身の創造性や主体性を伸ばすことにつながるのかもしれません。

「じつは、プログラムに頼らなくったって、家庭の中でも子どものクリエイティビティは十分に育つと思っています。大切なのは、『子どもがつくりたいものを楽しくつくる』という経験ですから。

いまは教育の機会も、“サービス過剰”になってきています。教材を買えば、失敗せずに子どもが学ぶことができてしまう。でも、それだけだと子どもの創造性はなかなか伸びません。

それよりも、もっと気軽に『つくりたいものをつくってみる』機会を、親子で持てるといいですよね。ああでもない、こうでもないと言いながら。一緒につくる豊かさを、たくさん味わってほしいなと思います」(永田さん)

 

取材・文/塚田智恵美 編集/石橋沙織

永田 宏和(ながた ひろかず)さん

永田 宏和(ながた ひろかず)さん

永田 宏和(ながた ひろかず)さん

デザイン・クリエイティブセンター神戸 センター長。1968年兵庫県生まれ。企画・プロデューサー。1993年大阪大学大学院修了後、大手建設会社勤務を経て、2001年「iop都市文化創造研究所」を設立。2006年「NPO法人プラス・アーツ」設立。2012年8月よりデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の副センター長、2021年4月よりセンター長を務める。

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