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えんぴつの持ち方で学習意欲が変わる!?運筆力の伸ばし方【専門家が解説】

えんぴつの持ち方で学習意欲が変わる!?運筆力の伸ばし方【専門家が解説】

小学校に上がって勉強が嫌いになるのは、授業が“わからない”や“集中できない”からだけではありません。

じつは、「字がうまく書けないことが原因で、勉強が苦手になる子どもがいる」と話すのは、作業療法士でEテレにも番組出演する、神奈川県立保健福祉大学の笹田哲先生。

どうすれば、自分の思いのまま、えんぴつを使いこなし、楽しく勉強できるようになれるのでしょうか。運筆力が大切な理由や持ち方のコツについて話を聞きました。

きれいに書く練習より「運筆力」向上が大事な理由

ほどよい力で指を動かして、自由自在にえんぴつを走らせる“運筆(うんぴつ)力”。きれいに字を書くよりも、まずは運筆力を身につけることが重要だと笹田先生は言います。

「漢字やひらがな練習で、思うようにえんぴつを動かせなかったり、筆記テストでスラスラと字を書けずに時間がたりなかったり……書くことに対する苦手意識から、勉強嫌いになってしまう子どもは少なくありません。

文部科学省が掲げるGIGAスクール構想では、1人1台の端末と高速大容量のネットワークを活用した学びが推進されていますが、字を書く機会はなくなりません。子どものライフステージを考えると今後も続いていくものです。

学校のテストや作文などがそう。小学校だとひらがなや漢字の練習などもワークやノートを使うことがほとんどではないでしょうか。

また、手指を使って書くことで、記憶力が定着するという研究結果も出ています。それくらい書くことは大事なのです」(笹田先生)

運筆力は、文字を認知して書くことよりも、線をなぞったり、曲線を動かしたりするほうがよく身につくと笹田先生。

ノートの字

「小さなマス目の中に正確に字を書くより、三角の形やうずまきなどを大きく書いたり、迷路ブックをやったりするほうがずっと効果的です。キャンパスの上を思いっきり自由に、外へ外へと大きく描いていく。体全体を動かすことが、運筆力のベースになるのです。

加えて正しいえんぴつの持ち方ができると、手指の可動域が広がります。筆圧も安定しますし、書くときに疲れにくい。字形も整いやすくなるんですね。自信がつくと、子どもの学習意欲も高まっていくので、いいことばかりなんですよ」(笹田先生)

幼児期に取り入れたい「運筆力」を育む遊び

意外と見落としがち!「目」と「姿勢」と「持ち方」

字を書くという行動には、複雑な工程がある、と笹田先生。字がきれいに書けない理由に、目や姿勢の悪さなども関係しているというから驚きです。

「わたしたちが字を書くとき、文字を目で見て認識します。意外と字が整わない理由に、近視や乱視、斜視といった病気が潜んでいる可能性もあるので注意しましょう。

次に、姿勢です。スマホやタブレットの影響もあって、つい猫背になったり、寄りかかったりする子どもが増えています。姿勢の崩れは、体に偏った負担がかかり、疲れやすくなるばかりか、字の歪みにもつながっているんですよ。

それだけではありません。姿勢は、えんぴつの持ち方にも左右されます。たとえば、最近の子どもたちによく見られる、えんぴつの芯先近くを持つ『先っぽ持ち』は、えんぴつの角度が直角になりやすいんですね。

芯先が見にくくなるので、横から覗き込むような姿勢をしなければ、自分が書いている字が見えません。えんぴつの可動範囲も狭まるので悪循環です」(笹田先生)

えんぴつの先端近くを持つと、芯先が見えないため姿勢が悪くなってしまう

ほかにも、親指の指紋部分がえんぴつに当たらず出っぱってしまう持ち方や、人さし指が“くの字”のように反り返っているような持ち方は、力が入りすぎてしまって疲れやすいのだとか。

「指先に力が入りすぎても、力がうまくえんぴつに伝わらなくても、効率よく動かすことができない。だから、字が書きづらくなってしまうわけです」(笹田先生)

正しいえんぴつの持ち方は、親指と人差し指と中指で支える。親指が出っ張ったり、人差し指が“くの字”に曲がったりしない

えんぴつの「持ちやすさ」は「書きやすさ」につながる

もう1つ注目してほしいのが、えんぴつ選び。持ちやすさを少し工夫するだけでも字が書きやすくなるといいます。

「まず、使うえんぴつを子どもの指になじんだものに変えるだけでも書きやすくなります。

えんぴつは3本指で支えるので、三角形のえんぴつは、人間工学的に考えても持ちやすい構造になっているんですよ。特に小さいお子さんは、太めのタイプを選ぶと指にもフィットして持ちやすくなると思います。

三角えんぴつは親指、人差し指、中指にフィットして持ちやすい

あとは、えんぴつを持つ指が滑りやすいと感じたら、輪ゴムを使うのもひとつの方法です。芯先から指の第一関節の分だけ離したところに、輪ゴムを巻いてあげれば、滑らないようなストッパーになってくれる。字だけでなく姿勢の改善にもつながるのでおすすめです」(笹田先生)

えんぴつの先端から指1本分のところに輪ゴムを巻くと、指が前にすべりにくくなる

持ち方といえば、えんぴつを持つ手が「左利き」「右利き」で字を書くときに違いはあるのでしょうか。

「左利きだと、“はね”、“はらい”、“止め”などの字を書く際にえんぴつを持った指先が内側に食い込んできて、書きにくい面が出てきます。

実際に、ひらがなの“あ”を左手で書いてみるとその難しさがよくわかります。算数などの数式を横書きで左から右へと書く際も、書いた字の上に手が乗っかってしまうということが起こります。

だからといって、子どもの気持ちを尊重せずに無理に矯正しようとすると、書く意欲が落ちてしまうことも。本人に右利きで書くことも試してもらいつつ、どちらが書きやすいか選択してもらうのがいいと思います」(笹田先生)

「書く」を「欠く」にしない。子どもの楽しいを大切に

子どもに「書くこと」に対する不安や不満が見え隠れしたら、運筆力やえんぴつを持つことにつまづいていないか、ケアをしてほしいと笹田先生。

「大事なのは、えんぴつで書くフォームをよくすることや、字が上手に書けるという点だけを目的にしないこと。字を書くことは表現であり、コミュニケーションでもありますから。

字の練習をする親子

たとえば、お友だちに手紙を書いて渡すなど、字を書く楽しさって、自分を表現したりアピールしたりするところにもあると思うんです。本来、文字って個性があっていいもの。多様でいいんです。

減点方式で子どもの書いた字をジャッジするのではなく、『こうしたら書きやすくなるよ』『すてきな字だね』と声をかけられるといいですね。子どもたちには、文字を書くことが自分の“欠く”でなく、書く楽しさを“獲”得してほしいと思います」(笹田先生)

 

取材・文/西村智宏 編集/石橋沙織 撮影/鈴木謙介 撮影協力/耕造さん(探Qキッズ)

笹田 哲(ささだ さとし)さん

笹田 哲(ささだ さとし)さん

笹田 哲(ささだ さとし)さん

神奈川県立保健福祉大学 リハビリテーション学科学科長。作業療法学専攻 教授。作業療法士。博士(保健学)・修士(心理学)。作業療法と学校・園の連携を研究テーマとし、これまで学校・園を数多く訪問して、子どもたちの発達支援に取り組んできた。「書字指導アラカルト」(中央法規出版)をはじめ、著書多数。NHK「ストレッチマン」の番組企画委員も務める。

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