集中力もアップ!文房具選びで変わる学習パフォーマンス【脳科学者が解説】
子どもが夢中になるカワイイ&カッコイイものから、親子で楽しめる便利な機能がついたものまで、進化し続ける文房具。なかには、「お気に入りの文房具を使うと、勉強のやる気が出る!」と、自分で選ぶ楽しさを感じている子どももいるのではないでしょうか。
じつは、脳科学的な視点で見ても、「好きな文房具やこだわりの文房具を使うと、学習にもプラスになる」と話すのは、脳科学者の瀧靖之先生。文房具選びと学習効果の関係についてお話を聞きました。
お気に入り文房具で「勉強に集中する」モードにスイッチ!
勉強するときの“相棒”とも言える文房具ですが、気に入っているものを使うことは勉強にもよい影響があるのだとか。その理由は、ポジティブな感情と学習効果の関係にあると瀧先生は語ります。
「脳のしくみでいうと、感情をつかさどる扁桃体と、記憶をつかさどる海馬は近いところにあります。
そのため、感情と記憶は深く関わっていて、『好き』『楽しい』といった感情を持ちながら机に向かうほうが、『嫌だ』『つらい』と思いながら勉強するよりも、学んだことを習得しやすい効果が期待できるのです」(瀧先生)
ということは、子どもがちょっと苦手な教科に取り組むとき、憂うつな気分のまま勉強を進めるよりも、好きな文房具を使って「書いたり暗記したりするのが楽しい!」と気分を盛り上げていくほうが、勉強も進みやすい、といったことが期待できそうですが……。
「もちろん、最終的には勉強する内容に興味を持ち、それを学ぶことが楽しいと思えるのがベストかもしれませんが、その1歩目として、文房具や学習環境から、“楽しく取り組める、ワクワクしながら勉強できる”ように、気分を盛り上げていくのもいい方法だと思いますね。
実際に、勉強が好きな子って知的好奇心が高いので、文房具にも興味を持って探究している姿が多く見受けられます。
たとえば、このシャーペンは自動で芯が出るので、よりスピーディーに字を書けるから計算のスピードが上がるとか(笑)。そんな風に考えたり気づいたりすることも、学習のモチベーションアップにつながりますよね」(瀧先生)
勉強の習慣づくりに役立つマイルールと脳のしくみ
また、いつも使う「お気に入りの文房具」があると、勉強の習慣化にも役立つことがあると瀧先生。そこには、脳のある機能が関係しているのだそうです。
「脳には『現状維持バイアス』があり、新しいことを始めようとするとき、反射的に避けようとします。たとえば、勉強の習慣をつけたいと思ってもなかなか定着しないのもその理由のひとつ。
ただ一方で、毎回決まったやり方で何かを始めると、習慣化につながりやすいということもある。ですから、勉強する際に『お気に入りの文房具』を使うというマイルールがあると、気持ちが少し落ち着き、集中モードに入りやすいかもしれません」(瀧先生)
ちなみに瀧先生ご自身にも、受験勉強をしていたときに、勉強を始める前の決まったルーティーンがあったのだとか。
「大学受験の頃はカッターナイフで鉛筆を削ってから、勉強を始めていました。削る間に気持ちが整うのか、今から勉強に向かうぞという姿勢にスイッチしやすかったんですね。
最近はわざわざカッターで削ることはあまりなくて、鉛筆削りを使っていますが(笑)」(瀧先生)
記憶の定着に役立つ!?文房具の意外な役割
デジタル機器を活用するICT教育が普及する一方で、アナログな紙の教科書やノート、鉛筆などを使って学習することは、記憶の定着にも役立つと瀧先生は言います。
「人間が何かを覚えるとき、覚えたい情報そのものだけではなく、ほかの情報などを関連づけて覚えたほうが、思い出しやすいということがあります。
たとえば、歴史の年号を語呂合わせで覚えるというのもそう。これを『連合記憶』と言うのですが、紙のノートや鉛筆などを使って勉強することによっても、効果を発揮するんですよ。
ノートの書き込みの位置関係といった視覚情報や、ノートを手に持ったときの触覚情報などの要素があるほうが、記憶として定着しやすかったりするんです。
思い出すときの手がかりを多くつくるという意味では、タブレットを使った学習よりも、ノートなどの道具を変えることのメリットは大きいのではないでしょうか。
とはいえ、タブレットには持ち運びしやすいといったよさがありますから、学習の目的や状況に応じて、デジタルとアナログをうまく使い分けていくことが大切だと思います」(瀧先生)
最近では書店に併設されている文房具売り場も多いですが、文房具を見に行くついでに書店も通りかかることで、本にも親しみを持てるといった効果も期待できるそう。
「繰り返し接することで親しみを感じる『単純接触効果』というものがあります。その影響かはわかりませんが、本が好きなお子さんには文房具好きな子が多いような印象があります」(瀧先生)
「一芸に秀でる者は多芸に通ず」文房具を究めるのもアリ
ほかにも、文房具が大好きな子どもの“文房具への興味”そのものが、さまざまな学びにつながっていく可能性があるそう。
「『文房具についてもっと知りたい!』と夢中になっている子どもたちは、まさに知的好奇心を育んでいる状態です。自分から文房具について調べ始めて、気づいたら親よりも詳しくなっている。
大人の世界を見渡してみると、『一芸に秀でる者は多芸に通ず』――つまり何かひとつのことで優れている人は、ほかほかの分野でも優れた結果を残したり、すぐいろんなことができるようになったりしているでしょう。
それはつまり、ひとつのことについて知的好奇心を発揮し、究めたことのある人は、別の分野の学びでも同じように知的好奇心を持って取り組むことができる、ということだと思うんですね。
知的好奇心を伸ばすことは、脳の究極のエンジンを育むこと。子どもたちの文房具へのワクワクする気持ちや、好きな気持ちが、今後の学びにつながっていくかもしれません。どんどん探究していってほしいですね」(瀧先生)
取材・文/塚田智恵美 編集/石橋沙織