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8割の子が間違っている!?えんぴつの正しい持ち方とトレーニング【専門家が解説】

8割の子が間違っている!?えんぴつの正しい持ち方とトレーニング【専門家が解説】

机に向かう我が子がため息をついている。なんとなく集中できていない……。そんなとき、「えんぴつの持ち方でつまずいていないかどうかも確認してほしい」と、話すのは作業療法士でEテレにも番組出演する、神奈川県立保健福祉大学の笹田哲先生。

今回は実践編として、えんぴつの正しい持ち方と、書く力を支える力を育てるえんぴつ体操について教えてもらいました。

正しいえんぴつの持ち方は、親指・人差し指・中指がカギ!

「子どもたちのえんぴつの持ち方をこれまで観察・研究してきましたが、意外と多くの子どもたちが間違った持ち方をしています。だいたい40人クラスで32人くらいの子どもが、正しい持ち方ができていないという印象です。

えんぴつは、親指、人差し指、中指の3本の指で支えますが、親指が人差し指にくっついてしまっていたり、人差し指の第一関節部が、“逆くの字”のように曲がってしまっていたりしている子が多いかもしれません。

間違った持ち方でも字が書けてしまうという点がやっかいなのですが、正しいえんぴつの持ち方は、親指が出っ張ったり、人差し指が“くの字”に曲がったりしません」(笹田先生)

えんぴつの正しい持ち方と角度(引き)学研キッズネット
えんぴつの角度の目安は60度くらい。3本の指で無理なく支えるのがポイント

また、最近の子どもたちは、芯先近くを持ちたがる傾向があると笹田先生。体を斜めにしないと自分が書いている字が見えないので、物理的に姿勢が崩れてしまうと言います。

「姿勢が悪い場合は、えんぴつの持ち方を見直すのもひとつの方法です。子どもたちにはよく『正しい位置の目安は、芯先から指1本分(第一関節程度の長さ)のところだよ』と伝えています。

とはいえ勉強に集中していると、なかなか意識が持続しないこともありますよね。そこで便利なのは、輪ゴムを巻きつけてストッパーにする方法です。えんぴつを持つ指の位置が先端にすべっていかないので字も書きやすくなります」 (笹田先生)

えんぴつに輪ゴムを巻くと指が前にすべらない
指が前にすべらす、握る位置が適切になることで、力が入りすぎず疲れない書き方も身につく
えんぴつの正しい持ち方と姿勢
正しいえんぴつの持ち方をすると、横から覗き込むようにしなくても書いている字が見えるため、姿勢も自然と改善される

えんぴつが持ちやすくなる!簡単にできる3つの「えんぴつ体操」

えんぴつを正しく持つには、指先1本ずつを独立して動かせるようになることが大事だと笹田先生。遊びとしても楽しめるトレーニングを教えてもらいました。

『えんぴつ頭隠し』で親指の動きがスムーズに

簡単なのは、『えんぴつ頭隠し』という遊びです。

①えんぴつをまず縦(垂直)にして、親指以外の4本の指でえんぴつを握ります。このとき、少しだけえんぴつの頭が飛び出るくらいに握りましょう。

えんぴつ頭隠し体操①

②次に、親指の腹の部分をえんぴつの頭にくっつけてから、第一関節を使って動かして、えんぴつを下に押します。

えんぴつ頭隠し体操②

③えんぴつが下がりきったら、また持ち直して上に戻して繰り返します。

「親指の腹でえんぴつの頭部分が隠れるように押す動きによって、えんぴつを持つときの親指の支える力が育ちます」(笹田先生)

持ち方上手になれる『えんぴつぱちぱちコロコロ体操』

次にご紹介するのは、未就学児でもできる『えんぴつコロコロ体操』です。

①えんぴつが落ちないように反対の手のひらで下を支え、縦(垂直)にしたえんぴつの真ん中付近を親指と人差し指をリング状にして軽く持ちます。

えんぴつぱちぱちコロコロ体操①

②えんぴつを離してつまむ動作を2回繰り返します。

えんぴつぱちぱちコロコロ体操②

③持ち手のほうの親指と人差し指の指紋部を使って、横にずらす感じでコロコロと動かしていきます。

えんぴつぱちぱちコロコロ体操③

「親指と人差し指の力が弱いと、転がしている最中にえんぴつが落ちてしまうこともあるかもしれません。上手にできるようになると、えんぴつを支える親指のフィッティング力が高まり、えんぴつを支える指先が安定します」(笹田先生)

『尺取り虫体操』で指の運びがスムーズに!

最後にご紹介するのは、少し難易度がアップする『尺取り虫体操』です。これは「小学校に入ってからの応用編」と笹田先生は言います。

①字を書くときのように、えんぴつの真ん中あたりを3本指(親指、人差し指、中指)で持ち、えんぴつを寝かせるようにして軽めの力で持ちます。

えんぴつ尺取り虫体操①

②3本指を同時に、内側に引くようにクイックイッと動かしながら、「尺取り虫」が移動するように、えんぴつをもつ指先をえんぴつの先端に近づけていきます。

えんぴつ尺取り虫体操②

「このとき、強く握りすぎていたらえんぴつは動かないのでうまく進むことができません。前にスムーズに動かせるようになったら、今後は逆にえんぴつの頭のほうへ3本指を押し返すように動かしましょう」(笹田先生)

正しい持ち方で字を書く楽しさを知ろう

えんぴつ体操を取り入れると、えんぴつの持ち方や握ったときの力加減が自然と身につき、手指が自由に動かせることで、スムーズに字を書けるようになると笹田先生。

「子どもの発達段階で言うと、3〜4歳くらいの頃は何かを持ったり握ったりするとき、複数の指が一緒に曲がってしまい、1本だけ伸ばすのが難しいことがあります。

成長にともない少しずつ指の『分離機能』が育っていくのですが、えんぴつを握るときは、3本指(親指、人差し指、中指)で支える必要があり、そのためには指先の分離機能を育てる必要があるんですね。

お子さんのえんぴつの持ち方が安定しなかったり、書くとき疲れやすかったりする場合は、えんぴつを使った簡単な遊びやトレーニングをするだけでも、自由自在に芯先を動かすことができる運筆力が身につきます。

文字がゆがみにくく安定して書けるので、子どもが自分の書く字に自信が持てるようになり、ひいては学習意欲につながっていくんです。

苦手意識を持ちがちな“書く”ことが、ほんの少しの工夫によってより楽しくポジティブな体験になるとうれしいです」(笹田先生)

 

取材・文/西村智宏 編集/石橋沙織 撮影/鈴木謙介 撮影協力/耕造さん(探Qキッズ)

笹田 哲(ささだ さとし)さん

笹田 哲(ささだ さとし)さん

笹田 哲(ささだ さとし)さん

神奈川県立保健福祉大学 リハビリテーション学科学科長。作業療法学専攻 教授。作業療法士。博士(保健学)・修士(心理学)。作業療法と学校・園の連携を研究テーマとし、これまで学校・園を数多く訪問して、子どもたちの発達支援に取り組んできた。「書字指導アラカルト」(中央法規出版)をはじめ、著書多数。NHK「ストレッチマン」の番組企画委員も務める。

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