クイズバトルで道場破り!?高校生クイズ王になるための“行動力”と“チームワーク”【伊沢拓司さん】
大学在学中に「QuizKnock」を立ち上げ、現在では動画配信、書籍の執筆、イベントと、多忙な日々を送る伊沢拓司さん。
全国の中学校・高校を訪問するプロジェクト「QK GO」にも精力的に取り組み、活躍の場はますます広がるばかり。
そんな彼が人生の転機となったと語る“高校生クイズ”は、どのようなものだったのでしょうか。何を学び、今につながっているのか、お話を伺いました。
「知力の甲子園で勝ちたい!」人生の転機となった高校生クイズ
クイズ研究部といえば「高校生クイズ」で優勝を目指すのが自然な流れと思いがちですが、当時の心境は少し異なっていたと伊沢さんは語ります。
「中学2年生の頃に、高校生クイズの方針が“知力の甲子園”路線へと変わったんです。
それまではどちらかというとアドベンチャーっぽい路線だったのが、ガチンコの“知識&早押しバトル”ということになったので、クイズ研究部の普段の活動ともマッチして、これは俄然優勝したいなとなりまして。
優勝するためには、クイズの知識を増やすことも大事だけれど、どんなメンバーで臨むかも考える必要があるな、と」(伊沢さん)
それからは来るべき日に備え、予選会場で漏れてくる音を聞いて対策を練る、大会に出た先輩たちにインタビューをする、道場破りと称して強豪校に一人で向かいクイズを挑むなど、体当たりでクイズと向き合う日々を過ごしたそう。
これら全てを中学3年生の時に行っていたというから驚きです。
「高校生クイズをハックする気満々だったんです(笑)。本当にクイズで勝ちたくてしかたなかった。
当時はネットでクイズができるほどではかったので、大会で仲良くなった人とSNSや電話、メールを通じて部活を見てみたいと連絡して、開成のクイズ研究部や、強豪校の浦和高校や早稲田高校などいろんな人に会いました。
僕はある程度クイズで結果を出していたので、『面白い中学生がいるぞ』と、社会人サークルの人もすんなりと受け入れてくれて。
その頃はクイズがマイナー競技だったからこそ、周りの大人がすごく寛容でしたね。“教える”という気概が彼らにあったからこそ、たくさんのことを学びましたし、僕自身そういう大人でありたいと思っています」(伊沢さん)
“足る”を知り“誰かに頼る”全て高校生クイズが教えてくれた
高校へ進学後も、引き続きクイズ研究部に所属していた伊沢さん。
偉大な先輩方から教えをもらい、クイズに対する入念なリサーチや行動力がある一方で、高校生クイズでは新たな課題にぶつかり、それを乗り越える力を身につけていったそう。
「早押しとか雑学はなんとかなっても、学校でやるような勉強の問題が出るラウンドがあって、それは高1だと全然対応できないわけです。
そもそも『習ってないことがあるだろうな』という状態って、自分のやり方があっているのか不安になるんですよね。
『知らない方法があるのかな?』ってなる。これじゃあ戦えません」(伊沢さん)
「自分にとって未ジャンルを埋めていかなければいけないのに、僕1人だけのリソースで今から積み上げるのは不可能に近いなと感じましたね。
そこで、部活の先輩2人にお声がけをしてチームを組みました。リーダーの田村さんは理系で高3、まさに“一通り習っている”状態でしたから僕にあるような不安はありません。
もうひとりのチームメイトである大場さんは高2でしたが、歴史の知識は高3レベルを超えていたのでこちらも安心。
となると僕に残された任務は、ひたすらに過去の傾向を分析して対策すること。
過去の出演時のデータはそろっているので、力を入れるべきところと普段通りやるところの強弱を分析し、とことん勉強に打ち込みました。
じつは、僕は早押しが苦手だったんです。その対策として社会人のサークルに2つ入って、周りに揉まれながらひたすら特訓!という感じでした」(伊沢さん)
そんな努力も重なり大会にエントリーした時点で「優勝できる!」と確信した伊沢さんは、高校生クイズで前人未踏の2連覇という快挙を成し遂げます。
「チーム戦であったからこそ、自分に足りないものが明確になったというのが大きな財産でしたね。
これまでは個人戦が主で、誰かに頼るということができなかったんですが、チームという前提を置けば、自分でなんとかしなくても人の力を借りればいいと、気持ちが変わっていった。
高校生クイズが、世渡りしていく上でのスタンダードな戦い方はもちろん、己の不足と足るを知ること、そして誰かを頼る心を教えてくれた気がします」(伊沢さん)
「QuizKnock」成功の秘訣は、詰めすぎない適度な距離感
大学入学後は東大クイズ研究会に入部し、2016年にはウェブメディア「QuizKnock」を発足。
当時は、東大クイズ研究会だけでなく、ギターサークルも兼部する大学生活を送っていたと語ります。
「ギターサークルでは副会長をやっていたので、主軸は完全にこっち(笑)。じつはクイズ研究部にはあまり行けてなくて。
そんな環境と周りの人達の優しさで、クイズ研究会のみんなとは適度に仲が良く、なあなあになりすぎない仲間関係を意図せず築けていたのが幸運だったな、と。
QuizKnockの立ち上げメンバーは、この頃出会った仲間が中心なんです。
過去に、東大クイズ研究会の本を作るプロジェクトをやっていたのですが、最初にQuizKnockに誘った河村さんはプロジェクトのメンバーの1人で、川上はバイト先の後輩。
2人ともシンプルな先輩後輩じゃなくて、一緒に働いたことがあるからこそ、『この人たちはちゃんとしてるし、仕事上信頼ができるな』と思って。
だから、QuizKnockを始める前から“仕事を一緒にやったことがある仲間”という感じだったんですよね。ライバルというよりは、仲間だけど仕事相手でもある、みたいな」(伊沢さん)
「僕は推進力、行動の手数で勝負するタイプだったのですが、川上は冷静で俯瞰的、河村さんは爆発力があり、ふくらさんもコンテンツの知識を抽象化して還元する力に長けていた。
他のメンバーも挙げたらきりがありません。
突出した才能を持つメンバーから自分に持っていないものを知ることができたし、お互いによい刺激をもらえるような関係性があるからこそ、今も続けることができているんだと思います。
これがベッタリした友達関係だったら、おそらく失敗していたんじゃないかな。適度な距離感がちょうどよかったんでしょうね」(伊沢さん)
メディアの仕事も挑戦のひとつ。失敗のたびに学ぶから成長できる
2017年にスタートしたクイズ番組「東大王」ではレギュラー出演を果たし、今では報道番組のコメンテーターなど、さまざまなメディアに出演している伊沢さん。
当時いちばん意識していたのは「QuizKnock」の宣伝だったという点も、伊沢さんならではの行動力からくるエピソード。
「とにかく顔を売らなければ!という気持ちで、『東大王』をはじめとしてガンガンメディアでの活動を増やしていきました。2019年から2020年ぐらいは特に手数を重視してやってましたね。
YouTubeもふくめていろんな経験がたまってきたからこそ実感しますが、おもしろい番組になるときって、“僕がやりたいことをやる”というよりも、出演者の個性や掛け合わせが生きるとき。
テレビ番組は、企画を考えているディレクターさんなどがじつはクリエイティブの主軸だったりするわけで、“チームでひとつのものを作る”という構造を感じながら、番組に出演できていたことは非常に意味があるものでした」(伊沢さん)
「番組で失敗をしたことももちろんたくさんありますよ(笑)。
それはどこかで仕事をしなきゃと思っているときが多いかな。仕事の方を見て人を見ていないからうまく回らなくなってしまう。
求められる役割とか、この場面では何を聞かなきゃとか、そういうことだけを見て相手の状態を把握できてないときとかに、『あ、今じゃなかった』『いや、この言葉選びは良くなかった』ってなります。
場況と任務、両方を視野に入れられているときが一番いい仕事ができますね。
目の前にいる人とコミュニケーションをとることに集中する。そういうスイッチの入れ方は、現場を重ねていくごとにできるようになってきたのかもしれません」(伊沢さん)
取材・文/末永陽子 編集/石橋沙織 写真/鈴木謙介