好奇心や独創性を伸ばした子ども時代が、今の自分の大切なルーツ 篠原ともえさん/【特集】小学生・中学生と保護者のための自由研究
タレントとしての活動はもちろん、星空にくわしい宙ガールとしての活動や、松任谷由美さんのステージ衣装を手がけるデザイナーなど、幅広い活躍をみせる篠原ともえさん。マルチな才能を伸ばすきっかけは、篠原さんの個性をのばす幼少期の体験にあったようです。
篠原ともえ
個性的なファッションとキャラクターで「シノラー」として人気者に。現在は、タレント、衣装デザイナー、歌手、女優等、幅広く活動を展開中。2013年、2016年と松任谷由実コンサートツアーの衣装デザイナーに抜擢。近年は天文を愛する”宙(そら)ガール”として学生時代の天文部の知識を生かし、ラジオ番組TFM『東京プラネタリーカフェ』のMCやプラネタリウムでの星空解説やライブを開催。著作に「篠原ともえのハンドメイド ~アクセサリー&ファッション小物77~」(講談社)、「星の教科書」(講談社)など多数。
宙ガールの原点は、母の故郷・青ヶ島で観た星空
母の故郷が青ヶ島という伊豆諸島の最南端の小さい島なんですけど、7歳の夏に家族で旅行したときに、ちょうどお祭りがあって花火を見たんです。花火ははかなく消えてしまうんですけど、消えたあとも花火にも負けないぐらい空には星が輝いていて、子ども心に「なんてきれいなんだろう!」と感動してしまって。
その後、また星が見たいと言ったわたしに、両親が双眼鏡を買ってくれたんです。さっそくのぞいてみたら肉眼では見えない小さな星たちがブワーッと目の前に広がって。そのとき自分が星の秘密を発見してしまったような特別な気持ちになったんですよね。
そこから星には一つひとつ美しい名前があることや、それぞれに色があることも知り、「どうして赤いんだろう?」「あの星はなんていう名前なんだろう」って学校の図書館で調べるようになり、どんどん星に夢中になりました。特に藤井旭先生(イラストレーター、天体写真家)の著作に出会えたのは、星好きになる要素として大きかったと思います。
裁縫好きな母の影響で、ものづくりが大好きに
ミシンとお裁縫箱がいつも近くに置いてある家庭で、わたしが小さいときから母がいろいろなものを手作りしてくれていました。その姿を見ていたからなんでしょうね。10歳のころ、はじめて母の日にポーチを作ってプレゼントしたのをよくおぼえています。母がはかなくなったデニムの裾を活用して子どもなりに工夫しながら一生懸命、手縫いで作ったんですけど、今思うと糸がはみ出していて決してきれいではなく、実際に使える代物だったのかどうか……(笑)。
でも母は「こんな素敵なポーチ、見たことない!」ってすごく喜んでくれて。笑顔ってすごいごほうびですよね。手作りのものってこんなに喜んでもらえるんだって感激して、それからいろいろと作るようになったんです。
ハマったらとにかく没頭するタイプなので、当時大好きだったシルバニアファミリーやリカちゃんのお人形も既成のお洋服は全部脱がせて(笑)、自分で手作りした服をあれこれ着せていましたね。
そうすることで「リボンってこうやって作るんだ」とか「ちょうどいいボタンがないから自分で描いちゃおう」とか「これはシールで代用できるな」とか、いろんなことを覚えられたり、考えたり。それでもわからないときは図書館に行って手芸の本で調べたり。フェルトのステッチなんかは全部図書館の本で覚えました。
本で見たことを家でやってみると、その通りにできるっていうこともすごく面白くて。自分で調べて、覚えて、その作品を母に見せてはほめてもらってうれしくなって。何より自分の好きな世界を自分の手で生み出せる喜び、感動がありましたね。
最も記憶に残っている、自由研究の思い出
小学6年生のときには卸売市場のレポートをしました。わたしの実家がお寿司屋さんなので、休日には市場に連れていってもらってたんですよ。両親が魚の目利きをしている間、子どもたちは近くのおもちゃ屋さんで遊ぶというのが我が家の休日の過ごし方でした。
なのでわたし、市場って日常で気軽に行くものだと思っていたんです(笑)。でも、実際にはそうじゃないとわかってきて、わたしの家が商売をやっていたからだったんですね。せっかく自由に研究するなら自分にしかできないことがやりたかったので、両親からも「市場のレポートとかいいんじゃない?」ってアドバイスをもらったこともあって、卸売市場のレポートを自由研究のテーマに選びました。
自分で市場の写真を撮ったり、大きなキャンバスにびっちりとスケッチをしたり。例えば、お箸が束で売られているとか自分の気づいたことを文章にまとめながら、読み物としても楽しくなるようにページの途中に自分で考えたクイズを入れたり、いろいろ詰め込みました。今思えばツッコミどころ満載なレポートだったんですけど(笑)。
夏休みが終わって、ある日の朝礼で校長先生から、全校児童の中で特に面白かった自由研究が発表されて、そのときにわたしの名前も呼ばれたんです。「うわぁ! 朝礼で校長先生に自由研究をほめてもらえた!」って、それはそれは有頂天でした。
好奇心旺盛かつ独創性豊かな個性を認めてくれていた両親
市場の自由研究のときもそうですが、きっとわたしは、どうやったら人と違うものができるか、どうすれば人と違う自分になれるかっていうことを小さいときからずっとどこかで探していたんですよ。
例えば今、お洋服を作ったりしていると「上手にできない」とか「失敗しちゃう」っていう声をよく聞きますが、実は上手く作り過ぎないというのを手作りするときには心がけています。手作りは全部、一点物なところがいいんです。ですからアクセサリーにしてもお洋服にしても、あえてちょっと変にする(笑)。少しリボンが長過ぎるとか、左右対称じゃないとか、「ちょっと変」ぐらいが個性になると思っています。
そう思えるようになったのは、人と違っているところも両親が喜んでくれたからじゃないかと思います。不思議なものを作っても「かわいい」って言ってくれたり、ちょっと変なコーディネートをしても「自分で選んだの? 似合ってるね」ってほめてくれたり。だからといって甘やかされて育ったわけではありませんが・・・。怒られるときはしっかり怒られましたし。
ただ、双眼鏡のこともそうですけど、子どもが興味を持ったことを見守りつつも、あまり何でも助けようとしたりせず、ほどよくサポートしてくれる両親だったので、今こういうオリジナルな自分になれているんだなって感謝しています。きっとわたしのありのままを認めてくれていたんでしょうね。
人と違うことは恥ずかしいことじゃない、むしろ素敵なことだって幼少のころから思うことができたのは両親のおかげだなって。人と違うのって良いことなんだって子どものころに学んだことで、そう在るためには何が必要かを考えるようになりました。一方で人と違うってことは他にはないってことだから、他にはないものを生み出すために自分で作ろうっていう発想にたどり着けたんだと思います。
今の自分にたどりついた、祖母からの時を超えた手紙
そうそう、大きくなってから知ったんですが、わたしの祖母は着物のお針子さんだったんですよ。祖母から直接お裁縫を習うことはできなかったんですが、あるとき、生前に祖母が作って着ていた着物を着継ぎでもらえることになって。しつらえ直そうとほどいてみたら、とても運針がていねいで「おばあちゃんはこんなにていねいにものを作る人だったんだ」ってわかったんです。
半襟をほどくと、見えない部分にとてもきれいな生地を使っていたりして。それは着物を縫った祖母と、ほどいたわたししか知ることのできない手づくりならではの体験。もう、見た瞬間、感動で震えました。時間を超えて、「手作りを続けなさい」という手紙を託されたような気持ちになって、本当に感動してしまって。
わたしはタレントをやりながら服飾デザイナーを目指していたのですが、やっぱり無理なのかなってめげてた時期もずいぶんあったんです。そんなときにこの着物に巡り会って「これがわたしのルーツにあるなら、このおばあちゃんのDNAがわたしの中に入っているなら、わたしはものを作る人にならなきゃダメだ」と思ったんです。
そして、「わたしは絶対デザイナーになる!」って。そういう震えるくらいの体験をしたことで、それ以降、ステージ衣装は全部自分で手作りするようになりました。それをきっかけに松任谷正隆さんから声を掛けていただいて、松任谷由実さんの衣装を手がけることにもつながったんですよね。
美しい星々と出会えたのも、実はなかなか行くことができない青ヶ島というルーツが、母を通して自分の中にあったからで、そこでとても自然な形で星を好きになって。手作りを始めたのも母が洋裁をしている背中を見て育ったからです。
実家がお寿司屋さんで常日頃、市場に足を運んでいたのでその面白さを伝えたくなったり、わたしの場合、どれも身近なところから探究が始まっているんですよね。自分にしかないスペシャルを「見つけ」「調べ」「知る」ことの楽しさを探求し続けることは、今のわたしと変わっていないかもしれません。
自分のルーツに目を向けると、全部が今につながっている気がします。
なので身近にあるルーツを大切にすることはとても大事なことだと思います。みなさんの周りに必ずあるものなんですから。
自分の身近にあるルーツをさがそう
今、みなさんにおすすめる自由研究としては、ルーツを形にするというのはどうでしょうか。わたしは自分のルーツにとても助けられているので、みんなにも自分自身の物語を知ってほしいんです。小さなことでもいいと思います。「うちはホント普通の家庭なんで」って思う方もいるかもしれませんが、以前、NHKの『課外授業 ようこそ先輩』という番組で「夢のルーツ」をテーマに授業をしたことがありました。
そこではサッカー選手になりたい子のご両親がお付き合いされるきっかけが、調べてみたら実はサッカーだったり、体操選手になりたい子のおじいちゃんが実は体操選手だったり、その子がまったく知らなかった物語を自分で発見されていて、それってすごいじゃないですか。番組では最終的に、それをTシャツにするという完成品を作りました。子どもたちには、「知らないことを知るって楽しい」「自分のルーツに自信を持つ」というメッセージをお渡しできたと思います。
ひとつの手段として、おじいちゃんやおばあちゃんと何かをいっしょにやってみるのもいいんじゃないかなって思います。それこそおばあちゃんからお裁縫を教わってそれを作品にしたり。わたしには叶わなかったことなので憧れちゃいますね。
今チャンスがある方にはぜひともそういう時間を作っていただきたいなって。特に離れて暮らしていらっしゃる方は夏休みという機会を利用して、ぜひチャレンジしてみてほしいです。