必修化が決定した、小学生向けプログラミング教育とは?/シリーズ「専門家に聞く!」【第1回】
サイバーエージェントグループで小学生向けのプログラミング教育事業を展開する株式会社CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏に、小学生向けプログラミング教育と、プログラミング教育必修化にともなう展望についてお話をうかがいました。
小学生向けプログラミング教室を運営する、上野朝大社長(株式会社CA Tech Kids)に聞いてみました
――CA Tech Kidsではどのようなプログラミング教育を実施しているのですか?
小学生を対象にしたプログラミング教育を2つの形でおこなっています。
一つはプログラミングの楽しさ・面白さを伝える単発のワークショップ「Tech Kids CAMP」で、もう一つは継続的に学べるスクール「Tech Kids School」です。今年の夏のワークショップには約1600人が参加し、スクールは現在8教室で約1000人が学んでいます。
スクールでは教材に沿ってプログラミングを学ぶだけではなくて、自分のオリジナルの作品も開発していきます。
――どういう能力を持った子どもに育って欲しいと考えているのですか?
IT技術を使ってアイディアを実現する力を身につけてほしいと考えています。
具体的には、自分のアイディアをどうやったら実現できるのかを主体的に考え、計画や企画をたてて実行に移し、トライ・アンド・エラーで検証して実現する。そしてそれを世の中に自分の成果物として示していくことができる、という人物像をイメージしています。
単にIT技術を身につけている、プログラミングができる、というだけでなく、その力を使って自分でなにか新しい価値を生み出そうとする姿勢を養ってほしいと考えています。
――2020年のプログラミング教育必修化について、こうなって欲しいというイメージはありますか?
今のところの国の方針としては、なにをどう教えるかは各学校で決めることになっています。
個人的には、まず小学校中学年の総合的な学習の時間や図工の時間のなかで、Scratch(スクラッチ)※1等を用いて、プログラミングの考え方や、それを駆使した作品づくりをひととおり経験・理解するのが良いのではないかと考えています。そして高学年では、中学年で学んだことを各教科の学習に応用的にいかすのがいいのではないでしょうか。
たとえば、社会科の授業で調べ学習などをするときも、その発表を模造紙でなくプログラミングで視覚的に表現してみる、といったことです。
――小学生向けプログラミング教室を運営してきた経験で、プログラミング教育必修化について見えてきた課題があれば聞かせてください。
こういうゴール設定、内容、体制、指導方法でやりましょうというフォーマットがないと絵に描いたもちになるのではないか、各学校の裁量として背負うのはなかなか難しいのではないか、という危惧はあります。
もちろん、明るい光もあります。
わたしたちは愛知教育大学と共同で、愛知県のある公立小の6年生に6コマ、Scratchを使った授業をおこないました。ゲーム開発を通じて、身のまわりのいろいろなものがプログラミングで動いていることを理解するのがゴールでした。ここで、非常に高いレベルのアウトプットが出てきたんです。子どもどうしが友だちなので、学び合いが非常に活発におきるんですね。わたしたちの想像以上でした。
学校という環境のなか、一定の規律のもとで、友だちのいるなかで学ぶというのは、良い面がすごくあるんです。
――なるほど。しかしながら、こういった新しいことを学校でおこなうことに不安を持たれる方もいるかと思います。そういう方に対して、メッセージをお願いします。
10年後20年後、いまある職業がなくなるかもしれないといわれています。お子さんが成長して社会に出るときには、ITの重要性が今よりももっと高まっていることは間違いありません。そのために、今からしっかり学んでいこうというのがプログラミング教育必修化の背景です。
ITを自分の将来にどういかすか、子どもたちは大人よりもずっと柔軟に発想しています。わたしたちの教室でも、スポーツのトレーナーになりたいが、そのシミュレーションをプログラミングでやりたいとか、パティシエになりたいけれど3Dプリンタを使いたいとか、子どもたちは当たり前のようにいっています。
新しいことへの不安もあると思いますが、ぜひ期待を持っていただきたいと思います。
――ありがとうございました。
(聞き手:渡邉純子)
※1 Scratch(スクラッチ):
米国マサチューセッツ工科大学が開発した子ども向けプログラミング学習ツール。