プログラミング教育は未来への扉/シリーズ「専門家に聞く!」【第2回・前編】
プログラマー的思考をはぐくむ知育絵本『ルビィのぼうけん』の著者、リンダ・リウカス氏インタビュー
プログラマー的思考をはぐくむ知育絵本『ルビィのぼうけん』の著者、 リンダ・リウカス氏インタビュー
――子ども向けにプログラミングの考え方を伝える絵本を作ろうと思ったきっかけを教えてください
わたしがプログラミングを学びはじめたとき、わからない専門用語がたくさんあったんです。そんな難しい言葉に遭遇したときに、わたしは、小さい女の子だったらこの言葉や概念をどうやって説明するのかな、と考えるようになりました。そしてこれを物語にしたらどうだろうかとひらめき、この絵本にあるようなキャラクターとストーリーを発想したのです。
また前半の物語だけを読むのではなく、後半の練習問題を使って物語で語られているプログラミングの概念を習得して欲しいと考えました。
――プログラミング教育というとプログラミングのコードを書くことを連想しますが、この絵本には一切そういったことが描かれていません。どうしてこのような内容にしようと思ったのですか?
わたしは、プログラミング教育は、数字に強くて論理的に考えることができて、本をいっぱい読む……というようなタイプの子どもだけが受けるものでなく、いろいろなタイプの子どもに開かれたものであるべきだと思っています。
プログラミング言語(コンピューターのプログラムを記述するために用いる言語)は時とともに変わっていきます。いまRuby(ルビー)とかJavascript(ジャバスクリプト)とかPython(パイソン)などの言語がありますが、20年後にこれらの言語でプログラミングすることはおそらくないでしょう。
しかし言語が将来的に変わっても、その根底にあるプログラマー的な考え方、たとえばループ(同じことを繰り返し続ける処理)、アルゴリズム(問題を解く手順を定義したもの)、大きな問題を小さな問題に分割するといった考え方は変わらないでしょうから、それを理解する力は引き続き求められていくでしょう。
――その「変わらない部分」を子どもたちに知ってもらうために、この本を出版されたのでしょうか
はい、そのとおりです。
――「ルビィのぼうけん」は世界の19カ国で出版されています。※1リンダさんの目には日本にはどんな課題が見えますか?
日本は間違いをおこさないことが重要とされる文化だなということに気づきました。ただ、プログラミングは間違いから学んでいくので、間違いをおかさないと習得が難しくなってしまいます。
また、ワークショップをしていて気づいたのですが、日本の子どもたちは課題に対して具体的な指示を求める傾向にあります。最初にこれ、次にこれ、と指示を待っているのをみて、わたしは少し残念だなと感じました。
というのも、ポケモン、たまごっちなど、わたしが子どものころに楽しんできたものは、すべて日本からきたものです。技術と創造性をきちんと理解して融合するたぐいまれな力を持っているのが日本人だとわたしは思っているので、これからもその力を失わないでほしいと願っています。
――国際的な調査で子どもの将来について保護者が望むことを調べたところ、調査したほとんどの国で「子どもに幸せになってほしい」という項目が1位になっていました。※2子どもの幸せにとって、プログラミング教育はどういう役割を果たすのでしょうか?
プログラミング教育は生産性のアップとかGDPに貢献するといったような文脈で語られることが多いのですが、もっと大事な側面は、自己表現の手段となることだと思っています。アーティストの表現とか、科学者が知識を広めるというようなことにもっと活用できるということを、もっと子どもたちに示したいですね。
――日本ではプログラミング教育は始まったばかりです。はじめてプログラミング教育にふれる日本の子どもと保護者にメッセージをお願いいたします
お子さんには、テクノロジーを怖いもの、遠いものと思うのではなく、遊びの対象、触って試す対象だと感じてほしいと願っています。
そして保護者の方には、プログラミング教育はすべての子どもをプログラマーやエンジニアにすることではなく、お子さんの将来の可能性を開く一つの扉だと思ってもらいたいと思います。
――ありがとうございました
2016年7月30日 於 Tech Kids School東京渋谷校
(聞き手 渡邉純子)
※1
2016年7月現在
※2
The Value of Education -Learning for life (2015 HSBC)
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