スポーツトレーナーに聞く! 子どもの体づくりに大切な”たった1つのこと”
長引く新型コロナウイルス(以下、コロナ)の流行によって、生活スタイルや学校での過ごし方も変わり、子どもたちの体に何か影響はないのかと心配になります。家にいる時間が増えたり、友だちと遊ぶ時間が減ったことによる運動不足もその1つ。家庭で何か「気をつけること」や「できること」はあるのでしょうか? 長年テレビや雑誌などで活躍されているスポーツトレーナー・坂詰真二さんにお話を伺いました。
コロナによる運動不足で子どもの体が危機に!?
コロナの影響による子どもの運動不足が心配なのですが、坂詰さんはどう感じていらっしゃいますか?
「一番は、『重力』を感じる時間が減っていますよね。スポーツ庁の調査(※1)にあるように、コロナ以降、外に出る時間が減った結果、テレビを見たりゲームをしたりする時間が増えたことで、ゴロンっと横になったり、ダラっと椅子に座ったりしている時間が多くなり、自身の体重を感じて体を支えている時間が減っています。
昔の宇宙飛行士が無重力空間から地球に戻ってきたときに、立つことができないくらいフラフラになっている映像を見たことはありませんか? あれと同じで、ちゃんと自分の体重を感じて負荷をかけていないと、筋力はどんどん落ちてしまうんですよ。
筋力や持久力などの体力は、部活などをしていなくても20歳頃までは右肩上がりで伸びていくものですが、コロナによる運動機会の減少で、全体的に伸び率が緩やかになっています。
それに『骨』も心配です。骨密度は若いうちに走ったり跳んだりという刺激を与えることで蓄えることが重要なのですが、休み時間や放課後、友だちとかけっこや鬼ごっこもあまりしなくなり、骨の発達に必要な運動刺激の機会が減っていますよね」(坂詰さん)
運動の前に、まずは正しい姿勢から
では、とにかく体を動かせばいいのでしょうか?
「そう考える親御さんは多いと思いますが、ちょっと待ってほしいんです。『運動不足』と聞くと、『ダッシュ〇本』『ランニング〇km』などと、急にハードな運動を行いがちですが、スポーツ障害(※2)につながりやすく危険です。
成長期の子どもの体は、急激に背(骨)が伸び、筋肉がそれに追いつこうとすることで、炎症を起こしやすく、ケガをしやすい状態にあります。激しい運動をする前に、まずは『正しい姿勢』を覚えることが肝心です。
先ほどの『重力』の話にもつながりますが、実は『正しく立つ』ということができてないお子さんが多いんです。自分の体重をしっかり支える『正しい立ち方』をすることで、ケガもしにくくなりますし、そこから、『歩く』『走る』という動きにもスムーズにつながっていきます。
地味に思えるかもしれませんが、まずは、この『正しい立ち方』を覚えることがとても大切です」(坂詰さん)
普段あまり意識しない「立ち方」ですが、「正しく立つ」とは、一体どういうことなのでしょうか。
※2:スポーツ障害=体の同じ部位に繰り返し力がかかることで引き起こされる障害。野球肘や水泳肩など。
間違った立ち方をしていると・・・
まずは、「立ち方」のよくあるNG例から見ていきましょう。注目すべきは「足元」。3つのチェックポイントを参考に、お子さんの足元をチェックしてみて下さい。
「立ち方」のNG例
3つのチェックポイント
①両足の間隔が広い
②つま先が外側を向いている
③足の外側(小指側)に体重がのっている
腕や脚が上がらない!?
NG例の、何がいけないのでしょうか?
「まず『両足の間隔が広い』ことで歩幅が狭くなります。歩くスピードは『歩幅×ピッチ(回転数)』で決まるので、歩幅が狭くなると歩くのも走るのも遅くなり、スピードを維持するためにピッチでかせごうとして、疲れやすさにつながることも。
そして『つま先が外を向いている』と骨盤が後ろに傾くので、脚を後ろに引きにくくなったり、つま先が上がらず、つまずきやすくなったりします。この姿勢のままだとかがむときに背中が丸まります。腕を動かす肩甲骨は骨盤と連動しているので、腕も上げにくくなったりと、弊害が多いのです。大人のギックリ腰や、肩や首のコリも、立ち方が原因となっていることが多いんですよ。
それから、人は歩くときに足の親指とその付け根で地面を押した反動で前に進むので、『足の外側に体重がのっている』外側荷重だと、親指側で地面を押せず、前に進む力も減少します」(坂詰さん)
さまざまな悪影響があるんですね。
「つまずきやすい」「背中が丸まっている」などは、まるでお年寄りのようですが、坂詰先生のお話では、年配の方のこうした悩みも、「立ち方」を見直せば改善できる部分も多いとのこと。おじいちゃん、おばあちゃんに教えてあげたい情報です。
「正しい立ち方」さえできていたら大丈夫
それでは、「正しい立ち方」について見ていきましょう。ぜひ3つのチェックポイントを参考に、お子さんと「正しい立ち方」を練習してみて下さい。
「 正しい立ち方」
3つのチェックポイント
①両足の間隔が狭い
②つま先(人差し指)が前を向いている
③足の内側(親指側)に体重がのっている
素早く動けるように
正しく立てると、どんな効果があるのでしょうか。
「NG例の場合の逆ですよね。『両足の間隔が狭い』ことで歩幅が広くなり、歩くスピードが速くなります。それが、走るスピードにもつながってきます。
『つま先(人差し指)が正面を向いている』と骨盤が正しく前に傾くので、お尻が上がったきれいな姿勢になります。脚も思い切り後ろに引けますし、腕もよく上がるようになる。歩くときや走るときの腕の『振り』もしやすくなりますよね。
『親指側に体重がのっている』内側荷重だと、ひざが正面を向いているので、1歩目の踏み出しが素早くできます。バレーやテニス、サッカー、バスケ、野球など、水中・空中以外ならどんなスポーツでも、1歩目を素早く出せることで、パフォーマンスが上がります。逆にNG例のような外側荷重だと、一旦ひざを正面に向けるワンステップが入るので、その分動きが遅くなってしまいます」(坂詰さん)
いいことずくめの「正しい立ち方」、覚えない手はありません。実際、正しい立ち方を実践されている坂詰さんの姿勢はとても美しく、動作もきれいで無駄がありませんでした。
「正しい立ち方」のレッスン
「正しい立ち方」の3つのチェックポイントを実践してみても、きれいな姿勢にならない場合はどうすればいいでしょうか?
「その場合は、脳に間違った姿勢がインプットされてしまっているので、正しい姿勢を上書きしてあげて下さい。そのためのストレッチをご紹介します」(坂詰さん)
正しい姿勢を覚えるためのストレッチ
(1)
・足を「ㇵ」の字にして、かかとを腰幅に開く
・足の親指側(内側)に体重をのせる
・両手で骨盤を持って、前側に傾ける
(2)
・両腕を広げて後ろに伸ばす
・楽に呼吸をしながら10秒間キープする。一度楽にしてから、あと2回繰り返す。
(回数は、お子さんの様子を見ながら調整して下さい)
親が子どもにしてあげられること
家庭で、親が気をつけるといいことはありますか?
「家に全身が映せる鏡がなければ、姿見を用意してあげるといいでしょう。正面や横向きで全身を映しながら、正しい姿勢ができているか一緒にチェックしてあげて下さい。
それから、ぜひやってほしいのが、『フィードバック』です。子どもが歩いている姿や走っている姿、階段を上っている姿などを見て、『つま先が外を向いていたよ』『もっと足を閉じるといいよ』などと、気づいたことを教えてあげてほしいんです。動画で撮って見せてあげてもいいでしょう。これは、親だからこそできることです。
昔の親はよく、『食事中に食卓に肘をつかないよ』『背中が曲がっているよ』なんて言っていましたよね。実はこれはとても理に適っていて、こうした言葉が『フィードバック』となって、子どもの姿勢が正されていたのだと思います。
そして、お子さんがスポーツをされている方、これからさせようと思っている方、例えばサッカーのシュートや野球のスイング、バレーボールのアタックなど、そうした派手な動きを練習する前に、ぜひこの『正しい立ち方』を最初に教えてあげて下さい。そうすれば、劇的に動きがよくなる可能性がありますよ」(坂詰さん)
運動が苦手なお子さんでも取り組みやすい「立ち方」の改善。道具も使わず、すぐに取り入れられるので、ぜひご家庭で試してみてはいかがでしょうか。
筆者も実際にやってみたところ、NG例では本当に脚が後ろに引けず、腕も上がりにくくなりました。「正しい立ち方」にすると、スムーズに脚や腕が動かせたので、洗濯物を干すときなど、家事の中で腕を上げづらく感じている保護者の方も、足元を気にしてみるといいかもしれません。
お子さんだけでなく、自分自身の身体のケアも忘れずに!!
子どもの体のことも気になりますが、お母さん自身の体のことも気になりますよね。お子さんのことを優先しがちな毎日だと思いますが、自分を労わる時間も持てたら、もっと豊かな暮らしになるはず。女性のヘルシーな毎日を応援するWEBメディア『FYTTE』では、子育て中のお母さんにもおすすめの料理レシピやスキンケア、ダイエットなどの役立つ情報が満載! ぜひ参考にしてみて下さい。
取材・文/清野 直 撮影/我妻慶一 モデル/吉岡澄晴