秋冬に流行する子どもの病気や感染症は?症状や受診の目安を「教えて!ドクター」坂本先生が解説
気温が下がってくると、さまざまな病気が流行るシーズンがやってきます。子どもの体調不良は、親にとっても一大事。夜中に熱が上がることも多いので、慌ててしまう人もいるのではないでしょうか。
今回は、佐久総合病院佐久医療センター小児科医長であり、子どもの病気とおうちケアを発信しているWEBサイト『教えて!ドクター』制作責任者の坂本昌彦先生に、秋から冬にかけて流行る病気について詳しく教えてもらいました。
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2022年の秋冬は「インフルエンザ」の流行に注意!
坂本先生によると、今年2022年の秋冬はインフルエンザの流行に注意が必要とのこと。
「例年、日本よりも一足先に冬を経験する南半球の流行が、その後の日本を含む北半球での流行の目安の一つとなります。
今年のオーストラリアを見ると、4月から10月にかけてのインフルエンザ患者数が過去5年間で最多でした。特に5歳から9歳の罹患率が高く、次いで4歳以下と10代の患者数が多いデータが出ています(※1)。
これは、コロナによって停滞していた社会活動が動き出したこと、過去2年で大きな流行がなかったため、インフルエンザに対する免疫が落ちていることが大きな要因と考えられます。マスクの着用率や習慣の違いなどもあるため必ず流行すると断言はできませんが、注意が必要です。
ちなみに、近年は新型コロナウイルスも流行っているため、インフルエンザと新型コロナの症状の違いが気になるかもしれませんが、正直、医師でも判断が難しいことも少なくありません。どちらも40℃近くまで熱が出ることもありますし、のどの痛みやだるさなどの症状も似ています。
その患者さんの周囲でどの感染症が流行っているか、家族に同じ症状の人がいないかなどの状況から推定したり、抗原検査やPCR検査(新型コロナの場合)を行ったりして診断することになります」(坂本先生)
秋冬に気をつけたい子どもの病気の種類と症状
続いては、秋冬に流行することが多い子どもの病気の特徴と主な症状、注意点を坂本先生に教えてもらいました。
インフルエンザ
インフルエンザの抗原検査は、発熱から12時間以内の場合、必ずしも正確な結果が出ないことがあります。そのため、発熱してすぐに病院で検査をしても正確な結果が得られない可能性があります。
また、治療薬としてタミフルなどの抗ウイルス薬がありますが、これらの薬は特効薬ではありません。発熱48時間以内に服用した場合、1~2日早く熱を下げられるというもので、脳症を予防したり重症化を予防したりする効果は期待できないとされています。
「重症化のリスクを減らす一番の方法は、予防接種です。2020年の研究では、インフルエンザによる入院に対するワクチンの有効率は60%(接種していなければ100人だったインフルエンザによる入院患者が、40人になる)と報告されています(※2)。
ワクチンはいわば、感染症にかかったときどう体が病原体と戦えばいいかを予習する機会。いざ病原体が体の中に入ってきたとき、ワクチンで予習しておけば戦いやすいというわけです。
インフルエンザワクチンは接種して2週間目くらいから効果があらわれ、5か月ほど効果が持続すると言われています。接種後は、微熱が出たり、体がだるくなったりすることがあるため、受験や発表会など大切なイベントの直前ではなく、少し早めの接種を検討することがおすすめです」(坂本先生)
新型コロナウイルス感染症
「オミクロン株の流行により子どもの感染が増え、重症例や死亡例も増加しています。2021年までは10歳未満の死亡例は0、10~19歳は3例だったのが、2022年になってから11歳以下が35例、12~19歳は6例が死亡しています(※3)。
基礎疾患がある子どもだけでなく、健康な子どもでも一定の割合で重症化することは知っておいていただきたいです。冬は特に感染予防に努めましょう」(坂本先生)
RSウイルス
「じつは大人でもかかる病気で、保護者や上の子がRSウイルスに感染し、家族内感染で下の子にうつるケースも多いです。
保護者や上の子は鼻水くらいの症状しか出なかったけれど、下の子(1歳未満)は症状が重くなって入院……というパターンが多いので、乳児がいるご家庭で風邪症状がある場合には手洗いなどの衛生習慣をより心がけてください」(坂本先生)
感染症胃腸炎
ノロウイルスをはじめ胃腸炎の原因となるウイルスの感染力は格段に強く、しかもアルコール消毒が効かない点が要注意です。
「基本的にアルコールは、ウイルスを守っている外側の脂質でできた膜(エンベロープ)を溶かすことでウイルスを無毒化します。しかし、ノロウイルスはそもそもこのエンベロープという膜を持っていないため、アルコールでも無毒化されないのです。
対策としては丁寧な手洗い、そして吐物の処理は次亜塩素酸ナトリウムを必ず使いましょう。じゅうたんなど、次亜塩素酸ナトリウムが使いづらい場所で吐いた場合には、アイロンによる加熱(85度1分以上)も有効です」(坂本先生)
子どもの不調に気づいたら?受診の目安とポイント
どんなに気をつけていても、病気にかかることはあります。子どもの不調に気づいたら、どのような点を意識すればいいでしょうか?
受診の目安は「熱の高さ」ではなく「子どもの様子」
「保護者の方が気になるのは、病院に行く目安ではないでしょうか。『熱が出たらすぐに病院に連れていく』という方もいると思いますが、特別な薬の処方は必要なく自宅安静で問題ない場合も少なくありません。
また、熱が高いほど重症に思えるかもしれませんが、そうではありません。39℃でも元気で水分が摂れている場合と、38℃でぐったりしている場合は、後者の方が重症と言えます。
すぐに受診してほしい目安は、
・ぐったりしている
・呼吸が苦しそう
・水分が摂れない
といったとき。これらのサインを注意深く見ておいていただきたいです」(坂本先生)
アプリやメモなどで記録を残す
「私たち医者が一番知りたいのは、『いつからどんな症状があるか』という情報です。
発熱以外にも、3日前から下痢があり回数が増えてきた、昨日から夜になると咳が目立つなどの症状の経緯が、病名の診断や薬の処方に大きく影響するからです。お子さんの体調に異変が見られたら、ぜひメモを残しておいてください。時系列で症状を記録しておくと、受診の際にとても役立ちます。
手軽なのは、メッセージアプリです。なにか不調が見られたら、自分宛、もしくは家族宛にメッセージを送ると時間も記録されますし、情報共有にもなります。夜中で手元に紙とペンがなくてもスマホは近くにある方は多いので、すぐに打てますし、症状を文字で見返すことで、冷静に子どもの様子を判断できますよ」(坂本先生)
体調を整えて、病気に負けない体を作ろう
流行りの病気にかからないためには、普段から睡眠を十分にとる、温度に応じた服装で体を冷やさないことが大切です。
「加えて、予防接種、手洗い、消毒、マスクなどに努め、体調を整えること。子どもを守るためには大人が家庭にウイルスなどの病原体を持ち込まないことも大切。ですので、今一度感染対策を見直して、まずは予防に努め、もしもかかってしまっても、あわてずに子どもの様子をよく観察してほしいと思います」(坂本先生)
これからますます寒くなりますが、どうか家族みんなで元気に冬を過ごせますように!
取材・文/水谷映美 編集/石橋沙織
参考文献
1.Australian influenza surveillance report. 2022.
2.M K, et al., Influenza vaccine effectiveness against influenza-associated hospitalization in children: A systematic review and meta-analysis. Vaccine, 2020. 38(14): p. 2893-2903.
3.国立感染症研究所. 新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査. 2022.