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感染症の予防や免疫力アップにつながる“睡眠”の法則【睡眠研究の専門家に聞く】

感染症の予防や免疫力アップにつながる“睡眠”の法則【睡眠研究の専門家に聞く】

「慢性的な寝不足によっては、風邪を引きやすくなったり、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症にかかりやすくなったりするので注意が必要です」

そう語るのは、睡眠研究の第一人者であるスタンフォード大学医学部精神科教授の西野精治先生。子どもの免疫力を最大限に生かす睡眠のメカニズムについて伺いました。

睡眠の質が悪いと感染症にかかりやすい理由

「睡眠と免疫の関係は実はとても深いんです。睡眠の大切な役割のひとつに、脳とカラダに休息を与えるというミッションがありますが、最近の研究では、免疫細胞を活性化させる働きを持つホルモンが睡眠時に出ていることが解明されました。

睡眠が不十分だと免疫細胞の働きが低下するので、慢性的に感染症のリスクが高くなります。実際に、睡眠が乱れていると、予防接種の効果が弱まる可能性があるというデータもあるほどです。

予防接種を打つ子ども

とくに、睡眠時無呼吸症候群といった深刻な睡眠障害の症状がある場合は、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症にかかるリスクが、健康な人の10倍以上高いこともわかっています。

そのため、感染症予防においては、睡眠の質が極めて重要です。ただ単にたくさん眠ればいいということではなく、生活習慣や運動も含めて理想的なライフサイクルが、免疫の向上や健康的な生活を送るためのベースになるのです」(西野先生)

免疫力向上に関わるホルモンは「ノンレム睡眠」で分泌される

睡眠には眠りの浅い「レム睡眠」と眠りの深い「ノンレム睡眠」の2種類があると西野先生。とくに、免疫力をアップさせる活性化ホルモンは、眠りの深い「ノンレム睡眠」のときに分泌が活発になるといいます。

「人は、眠りにつくとすぐにノンレム睡眠に入り、一回の睡眠の中で最も深い眠りが、約90分程度続きます。

この眠り始めの90分がいわゆる『ゴールデンタイム』。免疫力向上に関わるホルモンをはじめ、成長ホルモンも多く分泌されるので、子どもにとって大切な時間といえるでしょう。

ベッドで眠る子ども

成長ホルモンには、細胞の修復や再生をするという働きもあるんですよ。たとえば風邪を引いたら寝れば治るというのは本当で、自然治癒力を高める働きもあります。

最初の90分間でしっかり眠ることができると、その後のレム睡眠やノンレム睡眠のリズムが整い、脳や身体のコンディションがよくなります。朝もスッキリ目覚めることができるので、翌日のパフォーマンスも上がるというわけです」(西野先生)

実際に、子どもの体調不良と睡眠習慣の因果関係がわかるデータ(1)もあり、睡眠の状態が悪い児童は、頭痛、吐き気や下痢などの体の不定愁訴だけでなく、欠席頻度も高いといった傾向が見られるそうです。

頭痛や風邪をよくひくといった様子がみられる場合は、日々の睡眠を見直してみるのもひとつの方法だと教えてくれました。

縦軸の睡眠週間スコアは数値が大きいほど睡眠の質が良いことを示している「睡眠偏差値kids 2021」より(画像提供/ブレインスリープ)

誰もが予備軍に。子どもの「睡眠障害」に注意

睡眠に関してのさまざまな症例を見てきた西野先生。子どもの場合は、学童期特有の睡眠障害が起こりやすい、と指摘します。

「睡眠時に何度も呼吸が止まってしまう『睡眠時無呼吸症候群』も、扁桃腺肥大等の要因で子どもでも高頻度で起こります。また、『睡眠時随伴症状』と呼ばれる、ねぼけや歯ぎしり、夜驚症などは、むしろ子どもに多い睡眠障害です。

最近は、『概日リズム睡眠障害』という、本来子どもに備わっているはずの体内時計が狂って日常生活に影響をきたしてしまう睡眠障害もあります。そう考えると誰もが睡眠障害予備軍になり得るので注意が必要です。

睡眠習慣のイメージ

睡眠障害によって夜眠ることができないと、免疫が著しく低下する危険性があるばかりか、学校での勉強に集中できなかったり感情が不安定になったりと、日常生活にも影響が及びます。気になる症状がある場合は早めに専門医の診察を受けましょう」(西野先生)

『寝る子は育つ』ということわざ通り、睡眠障害を放っておくと、本来成長するはずだった身長が伸びないといった悪影響も出てしまうのだとか。

「子どもは症状をうまく言葉にできないこともあるので、大人がしっかりと観察し、サポートする必要性を強く感じています」(西野先生)

子どもの成長や学力にも関わる「睡眠」のメカニズムとは?

‟グッドスリープ”で病気に負けないカラダづくりを

免疫力を高め、子どもの成長に必要なホルモンを分泌する睡眠をとるためには、生活リズムを見直すことも忘れてはいけません。

「コロナ禍で生活スタイルが変わり、ライフサイクルが崩れてしまったという家庭も多いのではないでしょうか。

子どもの睡眠や生活リズムは、保護者の生活に左右されますから、『早く寝なさい』と声をかけて促すだけではなく、ぜひ一緒に見直してみてください。

質のよい睡眠に直結する“夜更かしをしない”、“朝起きたら太陽の光を浴びる”といった生活習慣は、自分の意識ですぐに改善できるという点もポイントです。

1日24時間の内の3分の1を占める睡眠を、味方にするか、敵にするかで人生が大きく変わるということを、膨大な数の睡眠の悩みや研究と向き合う中で実感してきました。

あんまり難しく考えず、ちょっと意識してみるくらいの感覚でいいんです。家族の睡眠の質が向上すれば、免疫力もアップします。自ずと感染症予防や病気に負けないカラダづくりにつながっていくはずです」(西野先生)

 

取材・文/諸橋久美子 編集/石橋沙織

1)睡眠偏差値(kids)調査研究発表 2021株式会社ブレインスリープ
https://brain-sleep.com/service/sleepdeviationvalue/research2021kids/

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西野 精治(にしの せいじ)さん

西野 精治(にしの せいじ)さん

西野 精治(にしの せいじ)さん

スタンフォード大学医学部精神科教授。同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長。医師。医学博士。株式会社ブレインスリープ 創業者兼最高研究顧問。認定資格は精神保健指定医、日本睡眠学会専門医、産業医。2017(平成29)年に出版した啓蒙本『スタンフォード式 最高の睡眠』が33万部を超えるベストセラーとなり、書籍で取り上げた「睡眠負債」が流行語大賞トップ10に選出される。

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