登下校や外出時…犯罪から子どもを守る方法【専門家に聞く防犯対策】
子どもだけでの登下校や、お友だちと遠くの公園へ遊びに行くとき、保護者が気になるのは、子どもが巻き込まれる犯罪です。
「日本は海外に比べて治安がよいと思われがちですが、そんなことはありません。一人ひとりの防犯知識が低いため、じつは犯罪に巻き込まれやすい現状にあります」と警鐘を鳴らすのは、犯罪学の専門家であり、子どもの防犯にも力を入れている小宮信夫さん。
子どもを危険な犯罪から守るための方法を教えてもらいました。
「不審者に気をつけて!」では子どもは守れない
幼稚園や保育園、小学校では、定期的に「防犯教室」などが行われています。「不審者には気をつけて」「絶対についていかないこと」とお子さんに声がけしている家庭も多いのではないでしょうか。
ところが、この「不審者」という定義が曖昧であるからこそ、私たちの犯罪に対する危険予測能力が脅かされている、と小宮先生。
「『不審者』というと、誰もが思い浮かべるのが、黒づくめの服装にマスク、サングラスという人物像ではないでしょうか。
けれども、じつは『不審者』という言葉自体、国語辞典に載っていない。明確な定義がないのに、ステレオタイプのイメージ像だけが広まっています。
海外ドラマなどでは、『suspect:容疑者』や『stranger:知らない人』という言葉が使われていますが、日本語訳になると『不審者』になってしまう(苦笑)。このような事態が、日本の犯罪者の実態をあやふやにしてしまっているのでしょう」(小宮先生)
危険な人かどうかは見た目ではわからないと、小宮先生。近年の事件を見ても明らかで、一見やさしそうな人、普段から子どもたちに挨拶してくれるような明るい人が犯人だった……というケースも少なくないといいます。
「人の心の中は見えませんし、犯罪者は、できるだけ怪しまれないように振る舞うはずですよね。
子どもの誘拐事件の8割は、連れ去りではなく、騙されて連れて行かれています。ほとんどのケースが、犯罪者がニコニコしながら近づき、言葉巧みに子どもたちを誘導して、子ども自らついて行ったり、車に乗ってしまったりするんです。
防犯ブザーや“走って逃げる”といった対策は、襲われた後の話なので、まずは、襲われないように、危険を予測する能力を身につけることが重要です」(小宮先生)
「人」ではなく「景色」「場所」を見て危険を予測する
では、どのように危険を予測したらよいのでしょうか。
「人と違って、景色は嘘をつきません。不審者という言葉のイメージで安易に判断したり、相手の心理を想像して防犯に努めたりするよりも、場所や景色を見て判断するほうが、ずっと合理的な防犯の方法です。
海外の犯罪学では、人に注目する『犯罪原因論』と合わせて、場所に注目する『犯罪機会論』の研究が進んでいます。しかし、日本では『犯罪機会論』を専門としている人は1割もおらず、犯罪の機会をできるだけ最小限にするという対策が他国と比べて大きく遅れています」(小宮先生)
それ以外にも、治安がよいという安心感から、防犯に意識が向きにくい日本ならではの背景があるそう。どのような場所で犯罪が起こりやすいかという視点、つまり、犯罪者が犯罪を成功しやすい場所かどうかという認識が全体的に低いと小宮先生は指摘します。
「海外の膨大な研究結果から、犯罪者に好まれる場所は、『入りやすく、見えにくい』ということが導き出されています。怪しい人かどうかではなく、『ここは危険か、安全か』を景色を見て合理的に判断する。
統計的に犯罪が起こりやすい場所を知ることによって、犯罪の機会を少なくすることができるのです」(小宮先生)
子どもに伝えておきたい3つの危険なポイント
ここからは、具体的に危険なポイントの見極め方を教えてもらいました。
「ガードレールがない道路」は誘拐が起こりやすい
「狙った子どもの近くに車を停めて声をかける。これが、車を使った誘拐の手口です。このとき、ガードレールがない場所や途切れている場所は、声をかけて連れ去りやすいですよね。現に、私が把握している誘拐事件の100%がガードレールのない場所で起きています。
ガードレールがあると、子どもが車に乗り込みにくい。交通事故だけでなく、連れ去りの抑止力にもなっているんですね。
男女の入口が隣り合わせになっている構造のトイレも、『入りやすい場所』です。犯罪者からすると、周りに怪しまれることなく尾行できるので、非常に危険です」(小宮先生)
周囲の目が届かない「トンネル」「歩道橋」「田んぼ道」
また、物理的に見えにくい場所であるトンネルは、誘拐や痴漢などの犯罪が起こりやすいと小宮先生。
「加えて、屋上や歩道橋は、見晴らしは良いですが、意外と人の目につきにくい場所です。運転をしていても、歩いていても、意識的に上を見るということはなかなかありません。かつて日本中を震撼させた宮崎勤事件も、歩道橋の上で少女に声をかけて連れ去っています。
同様に、田舎の田んぼ道も、民家が数十メートル先にしかない場合は、人の目が届かないので見えにくい場所です。ほかにも、周りに家があったとしても、高い塀があると家の窓から外の様子が見えません。屋根のないトンネル構造になっているので注意しましょう」(小宮先生)
心理的に人の目をすり抜ける「放置自転車」「落書き」「人ごみ」に注意
「アメリカの犯罪学者が提唱した『割れ窓理論』をご存じでしょうか。一枚の割れたガラスをそのままにしていると、割られるガラスがどんどん増えて、いずれ町全体が荒れ果ててしまう、というものです。
たとえば、至るところにゴミが落ちている、放置自転車が多い、壁に落書きされたままといった場所は、たとえ物理的に見えやすくても、人々の関心が向いていない場所です。もしも犯罪が起こっても、見て見ぬふりをされたり、気づいてくれなかったりしてしまうんですね。
ゴミや落書きがなくても、不特定多数の人が集まる場所である駅前やショッピングモールは、怪しい人がいても、誰かが注意するだろう……と傍観者効果で犯罪者がすり抜けてしまいがち。たくさん人がいるから安心ということはないのです」(小宮先生)
“犯罪者の目線”で、通学路や身近な場所をチェックしよう
子どもの犯罪が起こりやすい、「入りやすい・見えにくい」場所。これらが近所や通学路にないか、ぜひ親子で歩きながら確認してほしい、と小宮先生は言います。
「ポイントは、自分が誘拐するとしたら……といった感じで、犯罪者の立場でチェックすること。『この場所は入りやすいかな、入りにくいかな?』と子どもに質問しながら一緒に確認するのも効果的です。
公園にあるベンチや公衆電話は、犯罪者が長時間滞在しても違和感がありませんし、木が生い茂っている場所も、子どもの姿を周囲から見てもらえません。そんな風に、犯罪者だったら、どんな場所で子どもに声をかけるか、どんな場所が連れ去りやすいかを想像してみることが大切です。
そうして見つけた危険な場所には、できるだけ近づかない。どうしても通らなくてはいけないときは、友だちと一緒に行動するなど、とにかく一人きりにはならないよう、お子さんに伝えてくださいね。
ほかにも、サスペンスなどのドラマを見て、『ガードレールがある場所に車を停めているよ。そこから誘拐するのは無理だね』とか、ニュースで犯罪が起こった場所が報じられているのを見て『やっぱり落書きが多い場所だね』と声をかけるなど、日常的な会話からも、危険な場所や景色への解読力が身につきます。
Googleストリートビューを使って、危険な場所をリサーチしてみるのもおもしろいと思います。子どもたちの自由研究にも、もってこいの活動です。
防犯に対する知識の獲得は、一日ではできません。身近なことからコツコツと、防犯知識を高めていってもらえたらうれしいです」(小宮先生)
取材・文/水谷映美 編集/石橋沙織