親のミスで子どもが成長! 夏休みの旅行中“大失敗”から学んだこと【コソダテのヒント】
元保育園園長で、現在子育てや教育関連の講演会を配信している「花まる子育てカレッジ」ディレクター井坂敦子さんによる連載です。音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の「子育てが楽しくなる小さなヒント」を読みやすく記事化しております。ぜひお楽しみください。
旅先であり得ないミス
今回は、「親は完璧でなくていい」「失敗してもいい」という話をしたいと思います。
私自身、恥ずかしい失敗は数々ありますが、特に大きかったものは、娘が小3の夏休みのこと。ジンベイザメと泳ぐために、フィリピンのセブ島に旅行に出かけたときのことでした。
申し込んだ「ジンベイザメと泳ぐ」オプションツアーは、朝早くロビーに集合して、バスで現地に向かうというもの。しかも、迎えのバスは朝の4時に来るというのです。
さすがに前の晩は準備もして早く寝ましたが、目覚ましをセットしたはずなのに気づかず、パッと目が覚めたときには、集合時間の5分前。
慌てて、準備していた荷物をひっつかみ、娘をたたき起こしてロビーまで走り、なんとかバスに乗り込むことができました。
バスは、いろいろなホテルを回ってツアーの参加者をピックアップしていきます。ホテルを回り終わって高速道路に入った辺りで、はたと「肝心の水着を持ってきていない」ことに気がつきました。
しかも、オプションツアーなのでお金もほとんど使わないと思い、日本円にして1000円ぐらいしか持っていない状況です。
今着ている服で泳ごうかと思ったのですが、帰りのバスに濡れたまま乗るわけにもいきません。「どうしよう」と焦りながら、まだ寝ぼけまなこの娘に、「ごめん、お母さん水着干したままで来ちゃった。タオルは持ってきたけど、水着がない」と伝えました。
娘は半分寝ぼけていたので、「ん?そうなの?」くらいの反応。
その後どうしたかというと、着ていた服にライフジャケットをつけて胸元を隠し、下着は濡れないように保管して泳ぐことに。お土産売り場で、なけなしの1000円でTシャツを2枚買えたので、帰りはそれと、持っていたラッシュガードのようなパーカーをスカート代わりにしてバスに乗ることができました。
失敗の思いがけない“効用”
そのジンベイザメとの遊泳は大変素晴らしく、今でもその水中で撮った写真をいろいろな人に見てもらう機会があります(Tシャツと短パンにライフジャケット、という不思議な恰好でジンベイザメと泳ぐ、少しおかしな写真ではありますが)。
いずれにせよ、苦肉の策で何とかしのぎ、旅の最大の目的を果たせて、楽しい経験ができました。
ただ、その経験によって娘には、「お母さんを信用してはいけない」「お母さんは、ここぞというときにやらかす」という思いが、強く心に刻まれたようです。
それまでは、ひとりっ子なのもあり、準備などを娘ひとりに任せるのは心配で私も手を出してしまうことが多かったのですが、そこからは娘自身が用心深くなり、「お母さんはいいから。私やれるから」という感じで、いろいろなことを自分でやってくれるようになったのです。
これは期せずしてよかったことなので、わざとやると子どもに見透かされてしまいます。やろうと思ってできることではありませんが、そこから「自分のことは自分で用意する」ことを身につけてくれたので、こうした失敗も悪いことばかりではないのだな、と気づきました。
失敗癖が娘にも遺伝?
失敗やケアレスミスは、気をつけていても起きてしまいます。私もその後、何度繰り返したか知りません。
しかも残念なことに、娘にもそれが遺伝してしまったようで、こんなことがありました。
バイオリンを習っていたのですが、お稽古に行くのに、バイオリンを置いて、楽譜だけ持っていってしまう……。
それも、一度ならず二度三度。しかも、私が車で送迎しているときなので、親子共々気づいていないんですね。
それで、教室にもう着くというときになって気づくので、引き返すこともできません。ここまで来たら先生も待ってくださっているので、あいさつだけして帰ってきましょう、と楽譜だけ持っていきました。
すると、そのバイオリンの先生がとてもやさしい先生で、「すみません。今日はバイオリンを忘れてしまいました」と伝えると、「それはちょうどよかった。バイオリンなしで楽譜の勉強をしたいと思っていたけど、いつもはバイオリンがあるので、できなかったの。今日はそれができるので、なんてありがたいのかしら」なんて言ってくれるような先生でした。
うっかりミスの多いわが子ですが、責めたり怒ったりしない先生だったので、バイオリンも続けることができたのかなと思います。
ミスを気にするより、大事なこと
こんなふうに、ミスは誰でも、子どもも大人もしますよね。
そんなときに責め合うのではなく、「お互い、そういうこともあるよね」と許し合って、笑いながら「今度気をつけようね」とフォローし合う、みたいなことができるといいなと思っています。
水着を忘れた私の失敗も、結果的には娘の成長につながりました。「親だから完璧に」「ミスしてはいけない」と気負うのではなく、ゆったり構えてもいいのかもしれません。
そうした失敗やミスも、今になれば笑い話です。
子育て中に、いろいろ子どもを叱責した場面も、あとから「あんなことあったね」と思い出になったり、ひょっとしたら「宝物みたいな時間だったな」と思うこともあるので、お互いに怒ってしまったり、失敗をして情けなくなったりしながらも、そうしたことすべてが愛おしい時間なんだと思って過ごしていただけたらうれしいです。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
井坂 敦子(いさか あつこ)さん
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範
慶應義塾大学卒業→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。Instagramやブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母