男子バレー部創設のため市長に直談判!? チームで自由研究に取り組んだ小学生たちの熱い夏!
「何をやろうかな?」とテーマ選びに悩む自由研究。「ひとりでやるもの」「何か作品をつくるもの」というイメージが強いですが、“ひとり”ではなく“チーム”で、「自分たちの目標のために行動した結果」をまとめて、現実の状況を変えようとした子どもたちがいます。
学研キッズネットが毎年夏に開催している「パソコン×自由研究コンテスト」の昨年の受賞者で、「中学に入ってもバレーボールの活動を続けたい」と、男子バレー部創設のための奮闘をホームページにまとめて優秀賞を受賞した、当時小学5年生と6年生の5人組です。
チームでどうやって自由研究を進めたのかや、気になるその後について、取材してきました。
進学予定の中学校に男子バレー部がない!
今回インタビューに答えてくれたのは、中学1年生になった吉田蒼平(よしだそうへい)さん、上嶌克貴(うえしまかつき)さん、小学6年生になった藤田晃(ふじたこう)さん、中上昂(なかがみこう)さん、そして蒼平さんと克貴さんのお母さんです。
1年前、5人は同じ池田ジュニアバレーボールチームで活動していましたが、自分たちの行く予定の中学校のほとんどに男子バレー部がなく、悩んでいました。
中学生になっても「バレーを続けたい」「試合に出たい」と思った5人は、活動を続けられるよう、いろいろ調べてみようと動き出します。そして、調べたことを元に解決策を考え、市長にお願いすることを決めました。
それぞれ、ネットで検索したり直接会ってインタビューしたりして調べ、その内容をコンテスト応募作であるホームページにまとめています。
そこには、こうして調べた内容や自分たちの思いを伝えたいと「市長にFAXを送り、面談を申し込んだ」とあり、結果は書かれていません。
果たして、中学に上がった3人は、バレーボールを続けることができているのでしょうか?
大好きなバレーボールを続けるため、チームで自由研究をすることに
バラバラの小学校に通っていた5人は、同じ試合に出ることも多く、いつも一緒にいる仲良しメンバー。1人を除いてそれぞれの進学予定の中学校に男子バレー部がないので、以前からみんなで「どうしよう」と話し合っていたそう。
「そこで、中学に行ってもバレーボールを続けられるように、親子みんなで相談して、『できることを調べて自由研究にまとめよう』と決めました」(蒼平さん)
「自分たちがバレーボールを続けたいということを、ほかの人にも知ってもらいたいと思いました」(晃さん)
自由研究のテーマを「中学に男子バレー部をつくるために」と決め、作業スタート。チームで行うことに5人はすぐ賛成し、前向きに取り組み始めたそうです。
「離れていてもみんなが見られるように、また自分たちの思いを発信したいという想いで研究結果をホームページにまとめることにしました。そして、せっかくならコンテストに応募してみようということで、デジタル作品ならどんなものでも受け付けている学研キッズネットの『パソコン×自由研究コンテスト』に応募することにしました」(克貴さんのお母さん)
調べる内容が幅広いので、どうやって決めたのか聞いてみると、「練習の合間やファミレスで、ミーティングして決めていきました」と蒼平さん。
それぞれの強みを活かして役割分担
ホームページには、ほかのジュニアバレーボールチームやバレーボール協会理事長などにインタビューした様子が掲載されていますが、どうやって作業を進めたのでしょうか?
「インタビュー相手は、知っているチームにお願いしたり、市のバレーボール協会に所属する自分たちのコーチに頼んで、理事長を紹介してもらったりしました。インタビュー内容は、話し合いで役割分担を決めて、それぞれが質問を考えました」(昂さん)
慣れないインタビューは難しそうですが、感想を聞くと、「練習していったから平気だった」という晃さん、「頑張った」という昂さん。それぞれの性格が出ています。
こうしてインタビューしたりネットで調べたりしたことを、同じ場所に集まって、それぞれが学校提出用に模造紙にまとめていったそう。
「いろいろな人の意見をまとめるのが大変だった」(蒼平さん)、「一気に書いたから手が痛かった」(晃さん)といった感想を話す子どもたちの様子から、みんなで集まって一生懸命つくり上げていった大変さと共に楽しさが伝わってきました。
ホームページの制作についても聞いてみました。
「大人がホームページの大枠をつくってくれたので、あとは模造紙の内容を、僕が1人で打ち込んでいきました」(晃さん)
小5の男の子が1人で入力したのかと驚くと、「速くはないけど、タイピングが好きなので」と晃さん。しかも、自分から入力作業を立候補したそう。
5人で自由研究を進める中で、ケンカや意見の衝突は起きなかったのか聞いてみると、まったくなかったとのこと。理由をたずねると「バレーボールを通して、お互いの性格を知っているから」(晃さん)という答え。
今回のインタビュー中も、「みんなで話し合い」という言葉がよく聞かれ、5人の仲の良さやお互いを信頼している様子が伝わってきました。
市長には会えた? 中学生になった3人のその後は?
今回のインタビューのきっかけにもなった、気になる「その後」。ホームページには、「市長に面談を申し込んだ」とありますが、市長には会えたのでしょうか? そして、中学に男子バレー部はできたのでしょうか?
「FAXを送ったあと、電話やメールをしたのですが、まだ返事がなく会えていません」(蒼平さん)
さぞかし落ち込んでいるかと思ったら、そうでもない様子。どういうことなのか、中学生になった3人の現在の状況を聞いてみました。
「僕は3人の中で唯一、男子バレーボール部のある中学に進んだので、そこでバレーボールを続けています」(克貴さん)
インタビュー当日も朝の練習試合をしてきたそうで、日に焼けた顔から、日々の充実ぶりが伺えました。
一方、蒼平さんは今回の自由研究で、市のバレーボール協会の理事長にインタビューしたことをきっかけに、中学生でも入れるバレーボールクラブの発足を知り、そこに所属しているそう。
「自由研究をきっかけにクラブ設立を知ることができてよかったです。中学ではテニス部に入り、両立しながらがんばっています」(蒼平さん)
友だちもできて楽しく活動しているので、もう市長への直談判には興味がないようです(笑)。
今回来られなかった中井祐慎さんとお母さんにも、後日話を伺うことができました。
「学校のバトミントン部に所属しつつ、週1回、地域のバレーボール教室で活動を続けています。バトミントンは動きがバレーボールと似ているところがあるので選びました。高校生になったらまたバレー部に入るかもしれないので、バレーも続けています」(祐慎さん)
「祐慎は、そこまで熱い気持ちを持ち続けられなかったので、クラブチームには入りませんでした。バレー教室やほかの習い事との両立、個人競技への興味などから、本人が考えてバドミントンを選びました。未経験なので不安でしたが、最近は楽しくなってきたようでよかったです」(祐慎さんのお母さん)
中学にバレー部がない場合、クラブチームに入り本格的な活動を続ける蒼平さん、別の部活動に挑戦しながらバレーを続ける祐慎さんのように、選択肢はさまざまなようです。いずれにせよ、3人それぞれがバレーボールを続けることができていて、安心しました。
それにしても、なぜそんなにバレーボールが好きなのか聞いてみると、晃さんからは「自分があげたボールやスパイクしたボールで点が決まったとき、すごくうれしい。だから、練習して上手くなりたい」、蒼平さんと昂さんからは「とにかく楽しい」という回答が。
ひたむきにバレーボールに打ち込む子どもたちの笑顔に、こちらまで楽しい気持ちになりました。
力を合わせることで、楽しさも成果も数倍に!
――今回の自由研究で、楽しかったこと、よかったことは何ですか?
「自由研究は今まで1人でやったことしかなかったけど、初めて複数でやることができ、いろいろな人と関わることができて楽しかったです」(克貴さん)
「応募することで、自分たちの思いをほかの人に伝えられたことがうれしかったです。たくさんの人に協力してもらって、とても楽しかったです」(晃さん)
「池田市の部活の方向性を知ることができ、バレーボールを続けるにあたって、選択肢が明確になってよかったです」(昂さん)
「いろいろな人たちに出会あうことができ、バレーボールクラブの発足も知ることができました。それに、1人ではできないことも、みんなで力を合わせることでやることができ、1人のときより数倍いいものができたと思います」(蒼平さん)
一緒に作業した仲間も含め、インタビューなどたくさんの人に関わったことが、大きな収穫になっているようでした。
――コンテスト応募を通して得られたものはありますか?
「自由研究を発表することで、バレーボールを知らなかったクラスメイトや周りの人が興味を持ってくれました」(蒼平さん)
「いつもは科学系の自由研究ばかりしていたので、インタビューして発表するという経験が初めてできました」(晃さん)
反響も大きく、なんと蒼平さんと晃さんは学校で表彰され、さらには友だちが同じバレーボールジュニアチームに加入してくれるという、うれしい出来事もあったそう。
――お子さんたちを愛情深くサポートされている姿が印象的でしたが、お母さん方は今回の自由研究いかがでしたか?
「子どもたちが力を合わせてやったことが情報発信になり、うれしいです。思い出にもなりましたし、子どもたちの探究心を育てることができ、いい学びになったように思います」(蒼平さんのお母さん)
「子どもたちの自由研究を通して、先生方の長時間労働の問題や、全国的な部活動の地域移行の流れなども知ることができ、親も勉強になりました」(克貴さんのお母さん)
親御さんにとっても、気づきや実りの多い経験だったようです。
最後に、「チームで自由研究をして楽しかったですか?」「またやりたいと思いますか?」と聞くと、全員が大きく「はい!」とうなずいてくれました。
個人でやることの多い自由研究ですが、チームで取り組むことで、こんなにも充実した研究ができること、周りを動かす力があること、友だちや親子の絆を深められることを教えてくれた子どもたち。
そして何より、楽しそう! 今回の「自由研究」で得たもの、深めた絆や学びが、彼らの中でかけがえのない宝物になっているように感じられました。
取材・文/清野直 編集/石橋沙織