専業主婦VS働くママの構図はもう古い! 国民的アイドルから学んだ「ハッピーな子育て」【コソダテのヒント】
元保育園園長で、現在子育てや教育関連の講演会を配信している「花まる子育てカレッジ」ディレクター井坂敦子さんによる連載です。音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の「子育てが楽しくなる小さなヒント」を読みやすく記事化しております。ぜひお楽しみください。
30年以上前に論争を巻き起こしたアグネス・チャンさんの子育てとは?
突然ですが、アグネス・チャンさんをご存じでしょうか? 香港出身で、一世を風靡した国民的アイドル歌手。ご自身はアメリカのスタンフォード大学の教育学部博士で、3人の息子さんも全員スタンフォード大学を卒業されているという、ママの大先輩です。
今から30年以上前の1990年代初頭。ご長男が生まれた際に、職場にお子さんを連れて出勤したことが、大きな話題となりました。当時は否定的な風潮で騒がれていましたが、今にして思えば、それは当たり前というか、とても先進的に感じますよね。
私がディレクターを務める「花まる子育てカレッジ」で、代表の高濱正伸とアグネスさんが、アグネスさんの新刊発売を記念して対談講演を行いました。そこで、いくつか感動したお話がありますので、それをお伝えしたいと思います。
ハグが子どもに与える大きな効果
ひとつが、「ハグをして、子どもに安心感を与えましょう」というもの。
アグネスさんは、30歳を越えた息子さんと今でもハグをしているそうです。外国の方だと自然な習慣かと思いますが、日本人の場合、子どもが大きくなると、なんとなくハグは気恥ずかしく、なかなかできない方も多いのではないでしょうか。
ですが、アグネスさんのお話では、ハグをすると、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」が出て、ハグをする側もされる側も、ハッピーになって気持ちが落ち着くということでした。
これは科学的にも証明されていることで、ユニセフでも、「ベビーウェアリング」という方法を推奨しているそうです。これは、裸の赤ちゃんを裸のパパやママが抱いて、その上から洋服を着るというもので、子どもが非常に安心でき、親側もわが子に対して強い結びつきを感じることができるのだそう。
心臓と心臓を合わせ、やわらかい体を感じることで、その小さな命をわが子だと実感し、わが子を守っていきたいと思うようになる。親になったという気持ちを自然に抱くことができるとのこと。
世界には、紛争地域など安心できない場所で過ごしている子どもたちが大勢いますが、そうした子どもたちにとっても、このベビーウェリングのように、子どもと親が直接肌と肌を合わせることは、とてもよい効果があると言われているのだそうです。
教育界では有名なサルの実験でも、似たようなことが証明されています。サルの赤ちゃんに、ミルクは出るけど冷たいものと、ミルクは出ないけれど、温かくてふわふわした肌触りのよいものを与えて、どちらを選ぶかという実験で、サルの赤ちゃんは、ミルクは飲めないけれどふわふわの温かいほうを選ぶ、というものです。
サルの赤ちゃんにしても、温かみを感じることは、本能的に必要なもの。人間の子どもも、温かい腕に抱かれることで「愛されている」ということを認識し、親も、子どもを抱くことで幸せな気持ちになり、「愛する者だ」ということを頭と体で再認識します。
そうやってハグをされて愛を伝えてもらった子どもは、大人になったときに自分も誰かを愛することができるようになるんですよ、というお話でした。
これを聞くと、恥ずかしいなどと言っていられませんよね? 皆さんも、お子さんをたくさん抱きしめて、健やかに生きていくための「安心感」を与えてあげてほしいなと思います。
お母さんも、働いたほうがいい?
もうひとつ、心が震えたお話があります。それは、「母親の仕事復帰について、是か非か?」というトークテーマでのこと。
先述のように、アグネスさんが初めてのお子さんを産んだとき、子どもとの時間を大切にしたいという思いと共に、仕事も大事な時期で、お子さんを職場に連れていくという道を選ばれました。
30年前の話なので、今からは想像がつかないぐらいのバッシングの嵐。そのときのお子さんも、30過ぎになり、時代も変わり、今「母親の仕事復帰」について何を語られるのか楽しみにしていたところ、アグネスさんはこんなふうに語ってくれました。
「皆さんには、自分の好きにしてほしいです。専業主婦になるのか、ワーキングマザーになるのかなど、自分で決めて、自分のやりたいようにすればいいと思います」
ただし、専業主婦の場合、「子どもを育てるだけの人生でいい」と思うのはよくない、とも。専業主婦でいる時間に、いつでも就職ができる状態に準備をしていてほしい、というお話でした。
夫の勤める会社がうまくいかなくなることもある。転職や独立、病気など、経済的な基盤である夫がどうなるかはわからない。そんなときに、いつでも就職ができるような状態にしておいて、お金が稼げるお母さんでいてほしい、と。
時間的に余裕があったら何かを学んでみたり、自分で手作りしたものをネットで売ってみたり、今はいろいろな方法で収入を得ることができるので、そういうふうに準備しておけば大丈夫ですよ、ということでした。
そして、「なぜなら、何が起きてもわが子を育てていけるのがよいママである」とおっしゃったのです。
その言葉に、なぜか心がとても動きました。
私の世代は、女性が働くこと、特に母親になってからも仕事を続ける、ということに周りから否定的な目で見られたり、自分自身の中でも、迷いや葛藤が多かった世代。
「母親が働くこと」についてのアグネスさんの強いあと押しに、自分の生き方を肯定され、はげまされた気がしたのかもしれません。
ハッピーかどうかは自分で決める
ほかにも、アグネスさんのこんな子育てのお話も伺いました。
「とにかく子どもをとことん観察して、『これは少し好きそう』、『これは少し嫌いそう』と、その子のやりたいことに沿って毎日を過ごしていました」
ご長男が料理が好きだと思えば、親子でずっと料理をやってみたりしたそうです。
それが、将来コックさんになると思って楽しみにしていたら、ある日突然、「僕は料理の道には行きません」と政治を学び始めたり、大学卒業後にはベンチャーキャピタルに就職したりと、興味がどんどん変わっていく……。
それでも、3人兄弟それぞれの好きなことに寄り添って、面白がり、楽しみながら過ごしていたそう。
さらにアグネスさんが素敵だなと思うのは、朝、「今日は笑顔で一日ハッピーにがんばる。そんな笑顔の私は無敵だ」と自分に言い聞かせていた、というところ。
どんなにバタバタしたり難しいことがあても、常に笑顔でハッピーなママでいようと決意して、覚悟して過ごしていたと言うのです。そして笑顔でハッピーでいると、本当にハッピーになるし、ママがハッピーだと子どもたちもハッピーになりますよ、とも。
「ハッピーなんだ」と自分で決めるというところが、潔くてかっこいいなと思いました。
今では息子さんも大きくなって、アグネスさんがしてあげたことを今度は返してくれているそうです。大先輩のお話は力強く、素敵な生き様や、強さが勉強になりました。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
井坂 敦子(いさか あつこ)さん
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範
慶應義塾大学卒業→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)が9月22日発売。Instagramやブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母