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親子で防災について考えるきっかけに。災害をリアルに体感できる「そなエリア東京」って?【井坂敦子の注目まなびスポット】

親子で防災について考えるきっかけに。災害をリアルに体感できる「そなエリア東京」って?【井坂敦子の注目まなびスポット】

「花まる子育てカレッジ」ディレクターとして活躍する井坂敦子さんによる、連載企画がスタート。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします!

みなさんは、地震に対する備えはしていますか?
地震大国とも呼ばれる日本では、ほぼ毎月と言っていいほど地震が起こり、
これまでに何度も大きな地震が発生しています。

とはいえ、時間の経過とともに防災意識は薄れていくもの。日々の子育てに追われ、
備えはつい後回し…という親御さんも多いのではないでしょうか。

そこで第一回のまなびスポット訪問は「首都直下地震発生」を疑似体験できる「そなエリア東京」にお邪魔しました。入場料はなんと無料! 親子で地震が起きた直後の街や部屋を体験できる施設です。

今回訪れた「そなエリア東京」は、国の災害応急対策の拠点として整備された、東京臨海広域防災公園内にある防災体験学習施設。

首都直下地震発生から72時間を生き抜く、というテーマで防災体験をシミュレーションできる「東京直下72hTOUR」を中心に、津波の特徴や正しい知識が身に付く「津波避難体験コーナー」や、何を備えるべきかがわかる「防災学習ゾーン」などのさまざまなコンテンツを通し、災害時における知恵を学ぶことができます。

もしものときのために何を準備すれば良いのか、災害後にどう生き抜けば良いのか、施設のリアルな世界観を通して学んでいきましょう!

施設を案内してくれたのは、副センター長を務める澤 善裕さん

まずは、1階にある「東京直下72hTOUR」を実際に体験します。
そもそも、なぜ72時間が重要なのでしょうか。

大規模な地震が起こった場合、国や自治体の支援体制が整うまでには3日間(72時間)を要すると言われています。それまでの間に、自分で生き抜く必要があるんですね。ここではタブレット端末を使用し、クイズやARを使った動画を通して、防災の知識や72時間を生き延びるための知恵を学ぶことができます」(澤さん)

子どもたちがゲーム感覚で楽しみながら学んだことや、こういうことが役に立つと実感したことは、その後の経験に活かされるのだそう。

実際に、取材当日も小学生の子どもたちが、タブレット端末をひとり一台持って、積極的に学んでいる姿が印象的でした。自分で考えて答えを選ぶ主体的な学びが、クイズに正解したい!というワクワク感で加速しているのが、単なる見学して終わる施設とは異なる仕掛けで素晴らしいなと感じました。

エレベーター乗車中に震度7の地震が発生
クイズに答えながら72時間を生き延びる術を学ぶ!

タブレットを片手に、いざ入館。マグニチュード7.3、震度最大7の直下地震が発生したら……という想定のもと、ツアーがスタートします。

ここで早速「エレベーターの中で被災した時にとる行動は?」とタブレットに質問が表示され、回答を選択します。
エレベーターに乗り込むと、下降中に地震が発生。床が揺れて、エレベーターが緊急停止。

いやぁ、本当の地震のようでドキドキしてしまいました。実際にエレベーターの中で地震に遭ってしまうと、こういう恐怖感が湧き上がるのだなと驚きました。子どもと一緒に体験することで、リアルに地震が起きた時の準備の話ができそうです。

エレベーター内に閉じ込められるという体験は、暗いところや狭いところが怖いお子さんにとってトラウマになってしまいそうなもの。

苦手なお子さんの場合、順路を逆走して最初に被災した街並みを見て、大丈夫そうならエレベーターに乗る、これ以上進めないというのであれば途中でストップすることもあるそう。無理強いはせず、その人の気質に合わせて細やかに対応していただけるのはすごくありがたいですよね。

被災地再現エリアの暗さと臨場感に
一気に緊張感が高まる

エレベーターの扉が開き、停電した薄暗い従業員通路を通り抜け、避難誘導灯と非常放送に従って出口へ。

目の前に広がるのは、震度7の地震で被災した夜の街。

半壊したビルや火の手が上がっているラーメン屋、傾いた電柱など、大震災直後の市街地の様子をリアルに再現。飛び交うヘリコプターの音や、繰り返し流される緊急ニュース番組の映像が、恐怖心と緊迫感をあおります。

タブレットで出題されるクイズに答えながら、ゴールとなる避難所を目指します。街の各所に白いマークがあり、タブレットのカメラをかざすとAR体験ができるのですが、驚いたのが割れた窓ガラスが落ちてくる速さとその量。実際に大地震が起こった時に、これでは逃げ場がないなと痛感。ビルや建物から離れて歩くことの大切さを再確認しました。

ビルの近くは歩かず地下があれば地下へ避難を、川の近くを歩いていたら、近くの建物の2階などの高いところへなど、子どもが日常的に歩く場所について、親子で点検してみたくなりました。

避難する時の注意するべき
ポイントが街中のあちこちに!

今にも落ちてきそうな室外機や植木鉢、切れてぶら下がった電線、液状化で浮かび上がっているマンホールなど、見慣れた光景が震災直後には一変。避難する際に危ない箇所がたくさんあり、それが本物さながらに再現されています。そんな部分にも注目しながら、実際に避難するときに備えたいものですね。

地震が起こると電気がつかなくて真っ暗になるから懐中電灯が必要だね、建物からいろいろなものが落ちてくるから離れて歩かないと怪我をしてしまうね、など、そこで気づいたことを親子で話し合うことで、リアルな備えができるのではないでしょうか。

 

 

さらに進むと、地震対策をしている部屋と何もしていない部屋にたどり着きます。

家具を固定した部屋
家具を固定していない部屋

 

突っ張り棒などを使用して家具を固定したり、家具の大きさを変更するだけで室内の様子に歴然の差が。

大人は過ごしやすさや使いやすさで部屋の雰囲気を決めてしまいがちです。その点子どもは先入観がないため、気持ちや発想を尊重してレイアウトを変えみるのもいいかもしれません、と澤さんは語ります。

まずは寝ている場所に家具が倒れてこないかだけでも、チェックしなきゃ!と思いました。あとは出入り口近くが、倒れた家具で塞がれてしまわないかも。部屋のレイアウトをその視点から見たことがなかったのですが、展示の部屋の様子を見たら考えなければと思わずにはいられませんでした。

忠実に再現された避難所を目にして
もしもの備えについて考える

被災した街を抜けると、避難場所と避難所へ辿り着きました。

避難場所とは火災などの災害の危険から逃れ、状況が落ち着くまで身を守る場所。

身近なものを利用したシェルターや、災害時用のトイレが展示されていて、もしものときに何が使えるのかを学ぶことができます。

避難所は自宅避難ができない人が一定期間、避難生活を送る場所です。

ここでは東日本大震災後の福島県いわき市の避難所が再現されています。ダンボールで仕切られた空間は想像以上に狭く、プライバシーの確保も難しいと感じました。

もし72時間をここで過ごすとしたら…? その後の避難生活を長期間送るとしたら…? 手もこまめに洗えずお風呂にも入れない、十分な食料や水がないかもしれない、寒さから身を守る術がない、ペットも連れて行けない、こうしたネガティブな状況ってなかなか想像しにくいもの。百聞は一見にしかずで、この状況を自分の目で見て考えることに意味があるのではないでしょうか。

寝る時に隣の音が気になるかな、赤ちゃんが泣いたり、幼い子どもが動き回ったりするかも、匂いや音に敏感な人は特にしんどい思いをするだろうな……。
周りにご迷惑をかけることを気にしていたら、メンタルが削られて行くだろうと想像しました。大人も子どもも、普段の生活の中でおおらかな気持ちでいられる準備も必要だと感じました。

ここでタブレットを返却し、2階へ移動。

ちなみにクイズを全問クリアすることができ、無事に72時間生き延びることができました!

取材中に見かけた小学生の子どもたちも、クイズのクリアを競い合っていて微笑ましかったです。正解しても間違えても、きっと記憶に残ってくれていて、いざという時に思い出してくれるのではと期待できます。

2階は防災学習ゾーン。”きほんのそなえ”のエリアでは、家の中でできる防災対策や非常持ち出し袋の準備など、災害時に役立つ基本的な備えが展示されています。

“一人ひとりのそなえ”のエリアには、特性や暮らしに合わせたそなえをパネルで展示。

アレルギーのキーホルダーや治療薬など、自分に当てはまるものも再確認でき、こういうものが必要な人もいるという身近な多様性の気づきにも。

また、非常食の中に好きな食べ物を入れる、遊び道具を入れるなどのパネルも展示されています。災害時こそいつも通りに過ごせるような環境作りをしようという発想は目からウロコでした。

非常食と聞くとカンパンなどを思い浮かべがちですが、自分の口に合うものを備えるというのは新たな発見でした。

現代の子どもは便利なことが当たり前で、突然の変化に耐えられず想像以上のストレスを受けるのは明白です。美味しいものを備蓄する、心地よく排泄ができるトイレを用意するといった、子どもに寄り添う備えをするのも親としての役割ですよね。

地震は怖いと頭では分かっていても、実際に目の当たりにするとその衝撃度は桁違いです。学校で行う避難訓練とは異なり、大きなショックを受けることもあるでしょう。でも、ここで体験することは架空の話ではありません。

知らないことを知り、不便さや怖さをリアルに疑似体験するのは非常に意味があるもの。体験後にどんな準備が必要なのか、こんな時どうすれば良いのかを実感して話せる場所だと感じました。

ぜひ親子で訪れて、防災に対する意識を高めてください!

リアルだからこそ意味がある
ここでの体験を今後の糧に!

エレベーターを降りてから広がる震災直後の光景は、本当にリアルで自分の想像を超えるものでした。ですが、これを経験することで、何か起こったときにどうすれば良いのかを考えられますし、いざという時でも落ち着いて行動できるのではないでしょうか。

私も自分の住んでいる地域のハザードマップを確認したり、備品のチェックをしなくては! 具体的に何をすべきか、何を準備するべきなのかを改めて考えることができる、非常に貴重な体験でした。

東京臨海広域防災公園 そなエリア東京

住所:東京都江東区有明3-8-35
開館時間:9:30〜17:00
料金:無料
https://www.tokyorinkai-koen.jp

 

撮影/鈴木謙介 文/末永陽子

井坂敦子(いさか あつこ)さん

井坂敦子(いさか あつこ)さん

井坂敦子(いさか あつこ)さん

中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範

「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。著書に『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)。Instagramブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母

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