それって人権無視!? デフォルトにしたい子どもの“声”を聞く習慣【コソダテのヒント】
元保育園園長で、現在子育てや教育関連の講演会を配信している「花まる子育てカレッジ」ディレクター井坂敦子さんによる連載です。音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の「子育てが楽しくなる小さなヒント」を読みやすく記事化しております。ぜひお楽しみください。
※今回の元になった配信は、9月22日発売の「入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て」(井坂敦子・著)の内容を抜粋してお届けしています。
イギリス人親子の会話から気づいた“違い”
何気ないことですが、ついやってしまっていることが、じつは“人権無視”かもしれません。
それは、「子どもの意見を聞かない」ということ。
娘がイギリスに留学中のこと、友だち親子と食事をする機会があり、そこで気がついたことがあります。飲み物を用意する際は「何が飲みたい?」、ケーキを切り分ける際は「どれくらいの大きさにする?」と、両親が子どもたちに頻繁に意見を聞いていたのです。
大したことではないのですが、「日本でそこまで子どもの好みや意見を聞くだろうか?」「質問しているだろうか?」と思いました。
飲み物はまだわかるとしても、ケーキの切り分け方などは「みんな同じ大きさにする」ことが平等で公平のような感じがしますので、同じ大きさに切るのが一般的ではないでしょうか?
なぜか子どもに意見を聞かない日本の親
Eテレの『すくすく子育て』でもおなじみ、教育学・育児学の専門家で東京大学名誉教授の汐見稔幸先生とお話しする機会があったのですが、「日本の子育ての特徴は、“子どものため”と思ってしつけを強制的にやることが多いんです」とおっしゃったのです。
たとえば、「野菜を食べる」「歯磨きをする」など、子どもが苦手なことをするとき。「どうして嫌なの?」と理由をたずねるようなことはほとんどせず、「体にいいから」「虫歯になるから」と「やるべきことだから」という感じでしつけるのが日本の特徴なんですよ、とお話しされていました。
ほかにも、公園など。「子どもたちの声がうるさい」などと苦情があり閉鎖してしまった、というようなニュースを目にしたりしますよね。汐見先生は「なぜ、大人の苦情だけ聞いて閉めてしまうのでしょう。公園を使う“当事者”である子どもたちに意見を聞いたり相談したりして、『静かに遊ぶ方法はないかな』などと話し合いをすることが、双方にとって大事では」とおっしゃっていました。
習慣にしたい、「子どもの意見を聞く」ということ
今、この「当事者である子どもたちの意見を聞く・相談する」ということが叫ばれてきて、「当事者主権」という言葉が注目を集めているそうです。
それで言うと、先ほどの「ケーキの大きさを子どもに聞く」というのは、普段の生活の中で当事者主権につながる意識、“子どもへのリスペクト”のようなものを感じます。
よかれと思って「みんな同じ大きさに切りましょう」という大人側の配慮は、はたして、本当に子どものためになっているのでしょうか? 子どもの「食欲の差」を無視したり、無言のうちに「この量を食べなさい」と従わせてしまっていないでしょうか。
相手へのリスペクトがない応対は、トラブルが起きがちです。子どもに対して、無意識に「これが当たり前」と思ってやってしまうことは多いと思いますが、その都度「相手はどう思っているかな」という気持ちを持てると、トラブルも起きにくいですし、起きたとしても前向きに解決していける気がします。
「子どもの意見を聞こう」と思っても、きちんとした意見がまだ言えない年齢の場合。そんなときは、「○○と△△、どっちのほうが好き?」や、「こういうのはどう?」というように、具体的に提示して、選んでもらうとうよいでしょう。
大げさな心がまえはいりません。「ちょっと子どもに相談する」という感覚で、ぜひ普段の生活の中に、「子どもの意見を聞く」ということを意識して取り入れていただけたら嬉しいです。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
井坂 敦子(いさか あつこ)さん
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範
慶應義塾大学卒業→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)が9月22日発売。Instagramやブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母