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自然に囲まれた環境で感性と自主性を養う「森のようちえん・タテノイト」【井坂敦子のまなびスポット訪問】

自然に囲まれた環境で感性と自主性を養う「森のようちえん・タテノイト」【井坂敦子のまなびスポット訪問】

「花まる子育てカレッジ」ディレクター、音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の
パーソナリティとして活躍する井坂敦子さんによる連載企画。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします。

中学受験が当たり前となり、子どもが疲弊している令和。
2022年度は、全国で不登校の小中学生はおよそ30万人もいて、過去最多と言われています。小中高でのいじめの認知件数も68万件超と、不登校と同様に過去最多だったよう。

もっと貪欲に生きる意欲があるはずなのに、なぜ?どうして?という不安が、保護者からひしひしと伝わってきます。
一方で、時代にそぐわない旧態依然とした教育を親も子ども盲信していることに、警鐘を鳴らす教育者が増えてきている印象もあります。

自然の中で子供たちが自分のペースで何かに没頭すること、それこそが「知りたい!」という知的好奇心の源流ですよね。

そこで、3回目となるまなびスポット訪問は、学びの原点である自然の中での遊びを通して“その子らしさを育む”サポートをする「森のようちえん・タテノイト」に伺いました。

森のようちえん・タテノイトがあるのは、自然豊かな埼玉県秩父郡横瀬町。

地球惑星科学の研究者を経て保育士の道へと進んだ、異色の経歴の持ち主である舘野繁彦さんと舘野春香さんご夫婦が運営する、認可外保育施設です。

自然の中で多様性に気づく
それが人生を豊かにする

施設に入ってまず驚いたのが、園の周りに柵や塀がないこと。一歩外に出たらすぐに道路という都心の環境とは異なり、園と自然の境目がなく地続きなんです。
裏山には木々が生えていて、都心ではあまり見かけないコゲラなどの野鳥も訪れていました。

これには、舘野さんご夫婦の「多様性に気づいて欲しい」という願いが込められています。子どもたちは自然の中にいると、たくさんの面白いものを発見します。大人が、子どもたちのそういう瞬間を大切にし、発見を一緒に楽しみ、喜び合うことで、植物も虫も動物も石ころもさまざまな種類があるという多様性に気付くことができるそう。
そして、多様性が当たり前だと思う環境にいれば、自ずと子どもの観察眼の感度と分解能も高くなり、ちょっとした変化にも気付けるようになるのだとか。それって、すごく人生を豊かにすることですよね。

取材に訪れたのは12月だったので、葉っぱの上に霜が降りるんですね。子どもはそれを眺めた後に、葉っぱを裏返しにして葉脈のところに氷の粒がついていることに気がついたのだとか。大人は見えていることが全てで、そこで終わってしまうことも多いのですが、子どもは疑問を持って次へと進むことができる。子どもの感受性と自発性が、この園ですくすくと育っているんだなと実感できるエピソードでした。

あるものを上手に利用して
子どもの自主性を養う

いわゆる幼稚園にはブランコやすべり台、うんていがあるのが一般的ですが、タテノイトには遊具がありません。自然の中から素敵だなと思うものを見つけて遊べるような感性と自主性を育んで欲しいとの思いから、遊具は置いていないそうです。

園庭にはなだらかな丘があるのですが、これは駐車場を整備した時に出た残土を使って作ったもの。あるものを上手に再利用して子どもの遊び場を作るという発想が素晴らしい!

園庭には子どもたちが作った、泥団子が置いてありました。木の枝にきれいに並べて、落ち葉でかわいくデコレーション。自分達で遊びを発明している楽しい様子が目に浮かびます。

園庭の奥には鶏を飼っている鶏舎があります。ここで採れた卵を、実際に園の給食として使っているのだとか。鶏が卵を産み、それを自分達で運んで給食で食べる。絵本で読んで知っていることでも、スーパーで買うだけではなかなか実感が湧きにくいもの。それを認識できる体験ができるというのも、意味があることですよね。

鶏舎の下には自然にできた窪みがあるのですが、子どもたちはここに拾ってきた落ち葉を敷き詰めて、その中に飛び込んだりして遊んでいます。自分達で見つけた遊び方、ワイルドだけどすごく楽しそう!

その横には子どもたちの「秘密基地が欲しい!」という願いを汲んで、去年の卒園生の親御さんと舘野さんで一緒に作った小屋がありました。もちろんこの小屋も、不要になった木材を再利用したもの。
最初はすのこを中に敷いていたのですが、周りを囲むように柵にして中を目隠ししたり、床に葉っぱを絨毯のように敷き詰めたりと、いろいろアレンジが加えられていました。発想のもとに自由自在に姿を変える、永遠に未完成の小屋。大人でもワクワクしてしまいますよね。

玄関の前には、石を並べて作った水場がありました。夏は水を溜めて水遊びを楽しむそうなのですが、取材した2日前も、子どもたちは水を出して遊んでいたんですって(12月中旬ですよ!)。大人なら聞くだけで震え上がってしまいますが、なんてたくましく生き生きと遊んでいるのでしょう。いやー、子どもってすごい!

絵本は面だしで並べて
イマジネーションを刺激する

園内と外がシームレスなのも、舘野さんたちのこだわり。メインとなるフロアには、さまざまな絵本が面だしできれいに並べられています。

文字がまだ読めない子どもでも、絵を見てイマジネーションを働かせて自分で選べるように、表紙が見える陳列方法を選んだのだとか。季節に合わせて並べる本を入れ変えるのも、季節の変化を感じて欲しいとの思いから。

中には本を並べてダンゴムシの迷路にして遊ぶ子どもや、絵本を並べて絵本屋さんを開いたり、積み重ねて遊ぶ子も。親ならつい「大事にしなさい!」とか「絵本は読むものでしょう!」と叱ってしまいそうですが、子どもの自由な発想やアイデアに制限をかけないよう、静かに見守っているのだとか。とはいえ、やりすぎたらさすがにスタッフも注意するそうです(笑)。

何をする?から1日が始まる
それが子どもの真剣な遊びを引き出す

園のこだわりで感心したのが、カリキュラムが一切ないということ。一般的な幼稚園だと、1日のスケジュールが決まっていますが、森のようちえん・タテノイトでは1日の過ごし方を決めるのは子ども自身。登園後に「今日は何をする?」という一人ひとりへの声かけから始まり、外遊びをする子もいればお部屋の中で工作をする子も。

写真提供/森のようちえん・タテノイト

園で用意しているのは紙とえんぴつで、折り紙やテープはそれぞれのご家庭が用意。
というもの、壁から壁にテープを貼ったりテープを丸めてボールにしたり、蜘蛛の巣を作る子どももいるそうなんですね。何かを貼る作業の際にテープがなくて困る、だけど子どものクリエイティブに制限をかけたくない、これを両立するために、各家庭で持ってきてもらうようにしたのだとか。ここまで、という制限をかけなければ素晴らしいものに出会えるから、との思いからだそう。

おもちゃやタブレット、最新のゲーム機などにはお金を費やしてもいいと思っていても、折り紙やテープを本来の目的以外に使用していると、つい親は無駄にしてはダメ!と怒ってしまいます。そうではなくて、丸めた折り紙も、テープで作った棒も立派なアート作品なんですよね。

写真提供/森のようちえん・タテノイト

写真提供/森のようちえん・タテノイト

写真提供/森のようちえん・タテノイト

また、週に2回は年中年長さんで、フィールドワークに出かけるのだそう。季節に合わせていくつか選択肢を用意して、「今日はどこに行く?」というのを子どもたちに聞いて決めるそうなのですが、これがなかなかまとまらず、中には「行かないー」と答える子も(笑)。一昔前なら、子どもの思いは関係なく、ここに行くからと半ば強制的に連れていかれるのが当たり前でした。そうではなくて、自分の意見を言い相手の意見を聞いて考える、対話ができるというのが素晴らしいですよね。決まらない話し合いをするのも重要で、大人こそやらなければいけないこと。

丘があり、石がたくさん落ちていて、鶏もいる、日々景色を変える自然が周りにあり、絵本もたくさん読めて工作もできる。ここにいる限り子どもたちは永遠に遊び続けられそうですよね。とはいえ、遊び慣れていないと、遊具がない、おもちゃがないと困ってしまいそうなもの。

実際、他の幼稚園から来たお子さんで、遊び方がわからず「私は何をすればいいの?」と聞く子もいるそう。でも、だんだんとこの環境に慣れていき、感性が磨かれ、自分で見つけて本気で遊べるようになっていくのだそう。

自然の中で遊ぶことで多様性に気づき、自発性が養われ、イマジネーションが無限に広がっていく。学びの原点であり本質を、森のようちえんで見ることができました。
知育情報や知育玩具に安心したくなる親の思いも、親心という自然なものなのかもしれませんが、予測のつかないこと、見たことがないものに触れる自然の中で過ごす時間は、子どもたちにとっては、より多くの学びや刺激となっているように思います。子どもの遊びはいつも本気で、何一つ無駄なことがない! 自分からやりたいと思える力こそが、幼児のときに育むことができる最大で最高のものだと改めて気がつきました。

森のようちえん・タテノイト

埼玉県秩父郡横瀬町大字横瀬1263-4
0494-40-1021
https://tatenoito.jp

撮影/鈴木謙介 文/末永陽子

井坂敦子(いさか あつこ)さん

井坂敦子(いさか あつこ)さん

井坂敦子(いさか あつこ)さん

中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範

「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。著書に『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)。Instagramブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母

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