身近な雑草の役割やパワーを学ぶ。畑の中の青空教室【井坂敦子の注目まなびスポット】
「花まる子育てカレッジ」ディレクター、音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の
パーソナリティとして活躍する井坂敦子さんによる連載企画。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします。
子どもが自然に興味を持って慣れ親しんでほしい、自然から学びを得てほしい、これは親なら誰しも願うこと。ですが、都会はコンクリートやアスファルトだらけ。
親世代が子どもだった頃と環境は大きく様変わりしていますし、親自身がどうすれば良いのかわからないこともあるかもしれません。
そこで、3回目となるまなびスポット訪問は、自然の中で五感を使いながら自分で発見し、考える力を養うことができる「畑の理科実験教室」に伺いました。
未来を担う子どもたちのために、との思いから、参加料金は無料なのだそう!
(ただし、大人が付き添いで参加する場合は有料とのこと)。
畑を実験教室に見立て、各分野の第一線で活躍する先生と一緒にさまざまな学びと体験ができるプログラムです。
畑の理科実験教室が行われるのは、藤沢市にある「体験農園 コトモファーム湘南藤沢」。自分だけの体験エリアで(22㎡ 月¥5,500円~)、気軽に年間20種類以上の無農薬の野菜作り体験ができるスポットとして話題を集めています。
今回お邪魔したのは、11月23日に開催された「畑×雑草からネイチャーポジティブ」という講座。
畑には野菜以外にもたくさんの雑草がたくましく生きています。雑草と呼ばれる草花も、実は食べられるものや化学的に有効な成分があるもの、希少な昆虫の食べ物になっているものなど、それぞれに意味があり価値があるものが多くあります。身近な雑草の生態観察を通して違いや価値に気づく「ネイチャーポジティブ」な体験をしよう!という内容。
先生は、コトモファームの雑草博士であり、大学で自然環境保全や植生学などの講義を行う小島 仁志さん
澄んだ空気と青空の下で
ネイチャーポジティブを学ぶ
畑の中にホワイトボード、長机とベンチが置かれ、その様子はまさに青空教室!
学校や塾などの教室とは違って遮る壁がないため、風通しが良く最高のシチュエーション。
まずは、「なぜ植物が大切なのか?」というお話からスタート。
現在日本では野生植物は約8800種存在あり、うち1/4が絶滅危惧種だと言われているのだそう。生態系の中で動物を支えるものは植物であり、植物が減ってしまうと必然的に動物を含め生態系が小さくなる。だからこそ植物を守ることが大切です、と小島さん。
次の話は、世界で進んでいる地球温暖化問題について。
植物はCO2(二酸化炭素)を吸収して光合成を起こし、私たちが生きるために必要な酸素を出す働きをしています。だから植物を守ることは人間にとっても必要なんだよ、興味を持ってもらいたいと、子供たちに語りかけます。
また、草原は、世界で40.4%のCO2を吸収していて、森林の木々と雑草ではCO2の吸収力に大差はないのだとか。だから雑草を大切にしている畑は、地球環境の保全に役立っているのかもしれない、と小島さんは語ります。
“植物がないと人間は生きていけない、雑草だって私たちにとって大切なもの”。
子どもたちは真剣にメモをとり、付き添いの親御さんたちも熱心に耳を傾けていて、好奇心と興味を持って参加されている姿が印象的でした。
風にそよぐ竹藪の音や舞い落ちる葉っぱ、畑の匂い、元気よく飛び回る羽虫。最初は手で虫を嫌そうに払ったりしていた子どもたちも、気にならなくなってきた様子。自然の中で学ぶうちに、自然に馴染んでいくんですね。なるほど!
自分の好きを選んで絵を描く
学びではなく”好き”が先!
次はいよいよ講座のメインイベント、「自分が好きな雑草を探してスケッチをしよう!」。ここで大切なのは、根・茎・葉・花のつき方に注目すること。
季節によって花が咲いていない植物はありますが、この4つを描いて初めて植物を描いたことになります、と小島さん。
各々スコップを持ち、自分がこれだ!と思う雑草を探しに行きます。遠くまで探しにいくお子さんも大勢いました。
「野原に行きましょう」「植物に興味を持ちましょう!」だけでは、こんなふうに能動的に植物に向き合うようにはならないと思うんですね。好きにならないと興味が持てないし、興味がないといくら植物のことを学んでもテストで点を取るための知識を詰め込むことに他なりません。好きになるきっかけを与えてくれるから、みんな真剣に取り組めるのですね。
その後は色鉛筆を使って、選んだ雑草をスケッチします。
本当に好きなものを見つけてその特徴を絵に描くと、一気に距離が縮まるし「自分ごと」になるんですね。現に、どの子もみんな真剣。表情もイキイキしてる!
下は5歳から、上は中学生まで世代が幅広いのに、1つの講座として成り立っているのもすごいこと。学校だと、違う学年のお友達と接点を持つのが難しいですが、話しかけてもらったり助けてあげたり、異年齢の場に出るのもいいことですね。
「スケッチが終わったら、それぞれの雑草の名前を伝えます。その時、なぜこの雑草を選んだのか、理由を教えてください」と小島さん。
ホトケノザを選んだお子さんは「花がキレイだったから!」と答えていました。
それに対して小島さんは「確かに、花がすごくキレイだね! ホトケノザは葉っぱの様子が仏様が座るイスに似ているから、その名前がついたんだよ。本当は春先に咲く花だけど、今年は暖かいから今咲いてるんだよ」と説明します。
自分が選んだ理由を素直に伝え、その雑草を先生が褒めてくれて、さらに雑草についての特徴を詳しく説明してくれる。好きなものだから興味を持って真剣に話を聞きますし、自分が選んだ雑草を褒めてもらえると、まるで自分も誉められたような気分になりますよね。
ちなみに私も好きな雑草を見つけに行きました。選んだのはヘビイチゴ。子どもの頃にやっていたおままごと以来です。大人になってからは、雑草を意識して探したり見たことはなかったかも……。土の上に出ている部分だけではなくて、根っこも含めて雑草。全部を見ることが大切なんですね。
美しく咲く花ではなくても、しっかり観察をして描くのはすごく楽しいこと。そして先生に絵を褒めてもらえてうれしかった(笑)。
講座の最後には葉緑素計を使い、どの雑草が一番光合成しそうか、SPAD値を競い合います。
最初の光合成のお話とゲームが頭の中でつながったようで「このことだったのか!」と顔がパッと明るくなっていました。測定する葉っぱを選ぶのもすごく真剣。ちなみに1位に輝いたのはホトケノザ。ワクワクするようなイベント感があるのもいいですね。
「みんなのクラスにも色々な人がいると思います。雑草にも、見て可愛い、光合成をたくさんする、他の生物との関係性があるなど、いろいろな役割や種類があります。色々あるから楽しいんですね。今日好きな雑草を選んでもらいましたが、好きになった雑草がどんな性質を持っているのか、深く知ってほしいです」と小島さん。
人間社会も自然界も同じで、「多様性を大事にしよう」という最後のお話がすごく心に響きました。ダメなものを排除しよう、自分と違うものを怖がってしまうというのは、子どもたちにもありますよね。そうではなくて、見た目や性質が違うものも個性として認めてあげる、そう考えると雑草に対しても自然や人に対しても優しい気持ちになれるし、自分のネガティブなところも肯定的に受け入れられるようになるのではないでしょうか。
自然の中での体験で心が動く
それが次の学びへとつながる!
今回の講座で強く感じたのは、自分で選ぶことの大切さ。
少し飛躍するかもしれませんが、自分の好きな雑草を選ぶことは、自分の生き方や美学、視点、考え方が表れることだと思っています。それを先生が褒めてくれるから、私は私のままでいい!と自信を持てるし、もっと知りたいと、学ぶ意欲も高まるのではないでしょうか。
学校の授業とは異なり、「評価されたい」「何かいいことを言わないと」というプレッシャーや気負いもなく、思ったことをそのまま素直に伝えられるのが本当に素晴らしい。
遊びの延長で学ぶことができる、これこそが本来の学びの姿だと思いました。
今はドリルや通信教材がたくさんあり、親からすると学ばせればこの先有利だし、先取りした方が得だと思いがちです。でも、実際は嫌いにならないことが一番大切なんですよね。
体験したことで驚いたり嬉しかったり、心が動いたことがあって初めてその先の知りたいに繋がるのだと思います。自然から学ぶ、体験から学ぶにシフトする時代に来ているのかもしれません。
体験農園コトモファーム 湘南藤沢
神奈川県藤沢市葛原1100-9
https://www.eto-na-en.com/cotomo-farm/
「畑の理科実験教室」特設サイト
https://www.eto-na-en.com/cotomo-farm/steam/index.html
撮影/鈴木謙介 文/末永陽子