料理して食べる?科学実験する?雑草博士が教える身近な雑草とのふれあい方【井坂敦子の注目まなびスポット】
「花まる子育てカレッジ」ディレクター、音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の
パーソナリティとして活躍する井坂敦子さんによる連載企画。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします。
今回参加させていただいた「畑の理科実験教室」では、自然の中で自分の好きな雑草を見つけてその特徴や性質を深掘りする。遊びの延長で学びを得るという、学びの本質を見ることができました。
また、小さな雑草にも生きる意味があり、それぞれに価値がある、それは人間社会においても同じこと。私たちがつい見逃してしまう、大切な気づきを得ることもできました。
子どもが自然や雑草にもっと興味を持つには? 雑草は私たちにとってどのようなメリットをもたらしてくれるのか? 今回の講座で先生を務めた、小島 仁志さんにお話を伺いました。
お話を聞いたのは
生物資源科学分野の博士でありビオトープ管理士、コトモフォームの雑草博士こと小島 仁志さん。
環境問題への貢献も!
雑草の秘めたるパワーを知る
ー駆除するものというイメージが強い雑草ですが、私たちにどのようなメリットを与えてくれるのでしょうか?
「まずは都市環境の改善です。
近年問題になっているヒートアイランド現象というのは、都市の気温が郊外よりも高くなる現象のこと。人が暮らしやすいように元々あった森林は伐採され、草地はコンクリートやアスファルトへと変わりました。
これらの人工物は蒸発する水分が少ないため熱を溜め込んでしまい、夜になっても低下することなく空気を温め続けます。その結果、熱中症のリスクが高まり、エアコン使用増加によるCO2排出量の増加や集中豪雨などの異常気象を誘発するなど、さまざまな影響が懸念されています。
植物の緑は太陽の光を遮るので土壌の断熱作用があり、植物が体内から水分を発散する『蒸散』によって、温度の上昇を防ぐ効果が期待できます。雑草はヒートアイランド現象の緩和にも機能を発揮してくれるんですね」
ー先ほどの講座でも、地球温暖化のお話をされていました。
「生活する上で排出されるCO2などの温室効果ガスですが、その量は200年前と比べると大幅に増えています。その結果、太陽光を多く吸収してしまい、熱をうまく宇宙へ放出できないんですね。
今の地球は、言うなれば布団をかぶっているようなもので、熱がこもって暑くなっている状態です。このままだと2100年には、世界の平均気温が4.8度も上昇すると言われています。
植物は光合成により大気中のCO2を吸って酸素を発生させるため、地球温暖化の防止にも貢献しているんです。森林は世界の46.3%、草原も40.4%のCO2を吸収していると言われていますので、雑草の生える場所も地球温暖化の防止には重要といえます。
ー小さな雑草にも、地球環境を守るという大きな役割があるんですね。
「生態系ピラミッドの中で様々な動植物からなる食物連鎖を支えるのも植物たちです。雑草が生えていると景観を損なったり、他の植物の成長の妨げになる悪さをするものだと思われがちですが、全てがそうではありません。また、雑草は季節感やさまざまな生態系サービスを私たちに寄与してくれます」
ー桜や菜の花、ひまわり、コスモスなどで季節を感じることが多いのですが、足元に咲く雑草からも季節を知ることができるんですね!そういえば、子ども頃によもぎで草もちを家族で作ったり、父のために野蒜(のびる)を学校の帰りに取っていたのを思い出しました。
寝そべって草地を眺めて
自然を身近に感じよう!
ー都心だと畑は少ないですし、自然を感じられる場所が少ないように思います。今回のような経験を子どもにさせるためにはどうすれば良いでしょうか。
「わざわざ遠出をしなくても、いたる所に植物は生きています。公園や学校の校庭、空き地、河川敷、お家の庭にも生えていますよね。特別な心構えや準備がなくても楽しめるのが雑草の魅力の一つ。草地を眺めて寝そべって、親子で語らうことで絆も深まりますし、自然との距離も身近になると思いますよ」
ー確かに! 先ほどの講座を拝見していても、「選んだお花がすごくかわいいね!」とか「雑草ってすごいんだね」「長い根っこだね」と、帰り道で親子の会話が広がりそうだなと思いました。雑草を通して、子供だけでなく親も新しい気づきがありそうですね。
「畑や土、雑草に触れることで、生きる力や怖さ、育てることでの達成感、自然と共に生きる対話力も育まれると思います」
雑草の楽しみ方は無限大!
ただし関わり方には注意が必要
ー雑草を観察する以外にどのような楽しみ方がありますか?
「衣食住、芸術、何にでも利用可能です。例えばカタバミの葉っぱには“シュウ酸”という成分が含まれていて、酸化した10円玉を磨くとピカピカに輝くんです。
また、雑草と呼ばれるものの中にも、食用や薬用に利用できる有用植物(主に草本植物)があります。これらはハーブと言われ、国内だとサンショウ、ワサビ、ヨモギ、ミョウガ、ショウブなどがありますね。天ぷらにしたり葉を乾燥させてお茶にしたり、薬味として食べたり、お風呂に入れたりとさまざまな楽しみ方ができます」
ーなるほど! 化学反応を起こしたり料理に変身したりと、雑草には多面的な機能があるんですね! では、雑草を楽しむ上での注意点はありますか?
「薬剤散布がされている可能性のある場所では採取をやめましょう。公道も衛生的に気になりますね。また、市有地や公園での採集はNGです。
基本的に持ち帰るのはやめましょう。多年生の植物であれば一部持ち帰ることも可能ですが、植物は自分で動くことが出ない生き物です。生えている場所で生きている姿を観察するのが良いと思います。
自分で育てるのも楽しいものですよ!」
中には毒性のあるものも
ハンドブックなどを参考に!
ー雑草や野草で毒性のあるものはありますか?
「もちろんあります。触れると肌がかぶれてしまうヤマウルシ、嘔吐・下痢を引き起こすヨウシュヤマゴボウ、有毒植物として有名なトリカブトなど。山菜ハンドブックなどを参考にして、安心・安全に楽しみましょう」
ー野草には外来のものもありますよね。
「特定外来生物として登録されている植物は、生態系や人間、農業に悪影響を及ぼすものがいます。例えば身近なものとしては長いツルが特徴のアレチウリは、繁殖力が強く、実にも鋭い棘がたくさんついて駆除が大変です。またそれ以外にも畑にいるワルナスビは葉にも鋭いトゲトゲがあり注意が必要ですし、セイタカアワダチソウというものには根から他の植物の生育を阻害する物質を出す機能があり、農地の中では少し厄介ですね」
ー最後に、小島さんが雑草を通して伝えたいこととは?
「私は自然を自分ごとにしてほしいと思っています。数ある雑草の中から自分の好きなもの見つけると、自然との距離がグッと縮まるんですね。自然との接点を作り、雑草からも地球環境のことを深く知れる、関係を築けると思っています。小さく目立たない雑草1つ1つにも名の由来がありつくりの特徴がある。そう考えると楽しいし、元気をもらえるんじゃないかと思っています」
ー身近にあるのに、知らないことがたくさんある雑草について教えていただき、世界が広がった気持ちになりました。今日はありがとうございました!
「自然」というと大いなる森や海のような壮大なものを思い浮かべてしまいますし、「環境保全」というと特別なことのように感じがち。ですが、足元に生きている雑草は、地球の温暖化を抑制してくれているし、自ら光合成をして生きているんだということに目を向けることで、「命」の尊さや強さを近くに感じられるように思いました。自分が好きな雑草を見つけてみる。それをスケッチしてみる。図鑑で調べてみる。そんな、誰にでもできることから、親子のおしゃべりが生まれたり、自然の知識が増えていくことが、学びのきっかけになっていく姿を、多くの参加された親子の皆さんから教えていただきました。まずは身近な雑草を通して、好きを探してみませんか?
体験農園コトモファーム 湘南藤沢
神奈川県藤沢市葛原1100-9
https://www.eto-na-en.com/cotomo-farm/
「畑の理科実験教室」特設サイト
https://www.eto-na-en.com/cotomo-farm/steam/index.html
撮影/鈴木謙介 文/末永陽子