むし歯は“予防”から“予測”へ。子どもの歯を守る歯医者の通い方【専門医が解説】
一昔前と異なり、現在では歯科医療が進化し目覚ましい発展を遂げています。子どもの歯とお口の健康を守るために、保護者自身も歯科医療に対する考え方をアップデートしていきたいもの。
そこで、新しい歯医者の通い方として注目を集める「予防歯科」や、さらに進んだ「予測歯科」について、大阪大学 名誉教授 予防歯科学講座 特任教授の天野敦雄先生に、お話を伺いました。
むし歯は「治療しても治らない」
昭和の頃はむし歯と歯周病は治る病気と教えられ、歯医者は痛くなったら行くところ、というのが当たり前でした。何度か歯医者に通い、治療が終わる際に「これで治りましたよ。痛くなったらまた来てくださいね」と声がけをされた親御さんも多いのではないでしょうか。
ところが、むし歯を削って詰め物をしても治ったわけではありません。早ければ1年、遅くとも20年すると詰め物は取れてしまいますし、詰め物の間にむし歯ができるというリスクも高まってしまいます。
その後むし歯が進行して痛みが出ると、歯医者に行ってまた削って詰めるという負のループに。
ですから、「むし歯は削って詰めるだけでは治せない、歯医者は痛くならないために行くところ」というのが令和の新常識。
そもそもむし歯と歯周病は常在菌による感染症で、免疫をつけても抗生剤物質や抗菌剤を使用しても追い出せません。
この菌がお口の中に住み着いてしまったら一生のおつきあいになります。むし歯は放っておいても治りませんし、自然治癒はあり得ないのです。
歯を削ると寿命が縮まる!?「予防歯科」が注目される理由
一度でもむし歯ができたり歯周病になってしまったら、今度はそれ以上悪くならないように、予防をしていくという心づもりが必要です。
削る・詰めるの治療は、不摂生の後始末のようなもの。むし歯の治療が終了してからが、本当の歯科治療になります。
じつは、2000年に国際歯科連盟(FDI)の発表によって、歯は削れば削るほど寿命が短くなるということがわかっています。神経をとると歯の寿命は2/3に。発症を防ぎお口の健康を守る「予防歯科」が、近年注目を集めているのはそのためです。
予防歯科の考え方は、プロケア(歯医者での歯磨き指導や予防処置)とセルフケア(指導をもとに自分で行う歯のお手入れ)の両方を実践すること。子どもだけではなく大人も、むし歯を予防していくために歯医者に通うという意識を持つことが大切です。
むし歯を予測して管理する!リスク診断と通院
最近では、将来起こりうるむし歯や歯周病のリスク診断をして発症を防ぐ「予測歯科」に力を入れている歯医者も増えてきました。
リスク診断とは、お口の中にむし歯菌「ミュータンスレンサ球菌」がいるかどうか、や唾液の質などを調べる検査のこと。
唾液の歯を守る力、むし歯菌の存在やその量には個人差があるため、自分のリスクを知ったうえで、必要なプロケアやセルフケア、定期的なメンテナンスをすると、より効率的にむし歯を予防することができます。
リスクを検査するプログラムのひとつに唾液検査があり、たとえばライオンが開発した「唾液検査システム SMT」では以下のような検査を行います。
①専用の洗口液で10秒間口をすすぎ、コップに吐き出す
②うがい液を試験紙に垂らして専用機器で測定する
③5分後に測定結果が出る
この検査ではむし歯のリスク以外にも、歯周病のリスクや口腔衛生、口臭のリスク判定もできます。
健康保険が効かないため2~3000円の自費となりますが、自分ではわからないお口の状態が一目瞭然。歯医者のホームページに唾液検査が受けられると記載されているところが多いので、かかりつけ医に一度相談してみるのもいいかもしれません。
リスクが低い人は歯科検診を年に3回、高い人は年に6回は定期的に検診しましょう。
自分のお口のリスクを知って、リスクに応じた予防を歯医者と患者が二人三脚で行えば、むし歯と歯周病は予防できる時代です。
小児歯科の定期通院で、子どもの歯を守ろう
また、小児歯科医で行うことができる健康保険適用の予防治療は
・フッ素塗布
・シーラント
・咬合管理
などがあります。
なかでもフッ素はむし歯を予防する高い効果があるので、歯医者で定期的に塗布してもらいましょう。
シーラントは、生えたての歯の溝を歯科用樹脂で埋める処置のこと。プラークがつく溝がなくなるわけですから、これもむし歯予防にかなり効果が期待できます。
また、今の子どもはあまり噛まないのでアゴの発育が悪く、乳歯から永久歯に生え変わるときに噛み合わせが悪くなる子が増えてきました。歯並びの悪さは、見た目の問題だけではなく、むし歯リスクも高くなるため、早めに受診を。
お口の病気は早期発見・早期治療が重要です。悪化するほど時間もかかりますし、治療費もかなり高額なものに。だからこそ、定期的に歯医者に通い、予防治療を受けましょう。
どの歯医者をかかりつけ医とするかは人それぞれですが、一般的に歯科衛生士が多い歯医者は転ばぬ先の杖として予防に力を入れている傾向に。
昭和の頃は院長一人、スタッフ2名というところが多かったのですが、現在では院長、勤務医、歯科衛生士が10人以上というところも。スタッフの人数をあらかじめ調べておくのもいいかもしれませんね。
取材・文/末永陽子 編集/石橋沙織