夏休みに行きたい!収穫体験や食を通して「いのちのてざわり」を五感で味わう【井坂敦子の注目学びスポット】
「花まる子育てカレッジ」ディレクター、音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の
パーソナリティとして活躍する井坂敦子さんによる連載企画。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします。
今回伺ったのは
農と食、アートと自然の複合施設「クルックフィールズ」
今はパック入りの牛乳や卵、カットされた野菜やお肉などがスーパーやコンビニに並び、食べたいものがすぐに手に入る時代。
どのような経緯を経て私たち消費者の手元に届くのか、学校では教えてくれないことも多いのが現状です。そのため現代に生きる子どもにとって、“食料は生き物の命である”、“私たちはその命をいただいて生きている”という「当たり前で大切な」概念が希薄になっています。
また、サステナビリティや持続可能な社会を謳うあまり、人間の存在が自然環境にとって害悪であるというネガティブなメッセージが蔓延しているようにも感じます。
そこで4回目となるまなびスポット訪問は、家族で楽しみながらサステナビリティを学べ、命の手ざわりを五感で味わうことができる「クルックフィールズ」に伺いました。
広大な敷地内にはアートや図書館、遊べる広場や宿泊施設もあり、長期休みに過ごすのにもぴったり! 子どもの年齢に合わせて様々な楽しみ方ができる、今大注目のスポットです。
「クルックフィールズ」は、音楽家の小林武史さんプロデュースのもと、2019年に11月に自然豊かな千葉県木更津市にオープンしました。
「農と食、アートと自然」が融合した複合施設で、その広さはなんと30ヘクタール。すり鉢状のユニークな地形が特徴で、高台には宿泊施設やレストラン、カフェ、平地には畑や牛舎、養鶏場、中心の低地にはマザーポンドと呼ばれる貯水池があります。
丘の斜面には計2.4MWの発電量を誇るソーラーパネルがならび、場内電力の約83%をこの太陽光発電システムでまかなっているのだとか。
高台から眺めた景色は圧巻の一言! 緑が目にも鮮やかで、デジタルデトックスにも最適です。
クルックフィールズでは、「太陽(エネルギー)・土・水」の循環をベースに、人の暮らしが循環していく仕組みを作り上げました。
クルックフィールズのサステナビリティの責任者を担当しながら、訪れる方達に「自然体験」を提供しているスタッフの吉田和哉さんと園内を巡りながら、この仕組みを紐解いていきます!
生ごみさえもハッピーに。ミミズの力で再循環!
まず訪れたのが、ミミズコンポスト。園内のダイニングやベーカリーで出たレタスやカボチャの葉、飾りとして使われた葉っぱなどの野菜のクズを、シマミミズが住んでいる容器へ投入します。
この中にいるミミズや微生物が生ごみを分解し、栄養たっぷりの良質な堆肥へと生まれ変わらせます。50匹のミミズからのスタートだったそうなのですが、交尾を繰り返し、今ではその数はわからないほど。
ミミズコンポストの利点は、イヤな匂いがしないということ。中に入っているのも、落ち葉と野菜クズとミミズだけというシンプルさ。これなら家庭や学校でも取り入れやすいですよね!
作られた堆肥はふるいにかけて畑へ戻し、育苗用の培土として再利用するのだそう。ゴミを焼却しないためCO2排出量の削減にもつながり、地球にも環境にもやさしい!
バイオジフィルターで排水もポジティブに!
クルックフィールズで導入されているのが、「バイオジフィルター」という自然の水質浄化システム。
ダイニングやトイレなど場内で使われた水は、地下にある浄化槽を通します。これだけだと環境的にはまだまだ負荷が高いため、この水をさらにきれいにするべく浄化システムを取り入れているとのこと。
敷き詰められた瓦レンガのチップで濾過し、そこに住み着いた微生物が排水に含まれる過剰な栄養分を分解。ヤナギなどの植物が根っこから栄養を吸収することで水が浄化され、生き物が生息できるまでに浄水するというもの。化学薬品を一切使用していないというのだから驚きです!
小川が流れ込む池には、カエルやおたまじゃくし、あめんぼがたくさん! バイオジオフィルターは、生物の多様性を育む仕組みでもあるのですね。ここに住む生き物は畑の害虫を食べ、やがては森へ帰り、食物連鎖を経て森の栄養となるのだとか。
池の周りにはクレソンやセリ、空芯菜、マコモダケなどの植物が育ち、私たちの食となります。排水から出た栄養が、再び私たちの体の中に入るという循環が生まれるのですね。
そして排水を作り出す私たち人間がいなければ、この環境が生まれないのも事実。
排水=臭くて汚い水というイメージしかなかったのですが、たくさんの栄養素が含まれている、というのを初めて知ることができました。足りないものを少し加えるだけで、排水が生き物にとってポジティブに生まれ変わり、私たちの存在もポジティブなものになる、というのは、なんだか存在を肯定されているようで嬉しくなります。
動物の糞も大切な資源。循環型農業に用いる堆肥に!
次に向かったのは堆肥舎。
場内で飼育している水牛などの動物の糞が集められる場所で、その量は1日1トン(1,000キロ)にものぼります。
集めた糞に合わせて、水や酸素、エネルギー、栄養素の量を調整すると発酵が始まります。糞の中に含まれる菌が有機物や栄養素を分解し、それによって生まれる発酵熱は60度以上。この熱で、人間にとって害となる菌は殺菌されます。
糞の中に「ウシグソヒトヨタケ」というキノコを発見しました! このキノコが自然に生えると、発酵がうまくいっているサインなのだそう。
半年経つと匂いや水分がなくなり、堆肥となります。実際に触れて匂いを嗅いでみましたが、臭みがない腐葉土と言った感じ!
これらの堆肥は、農場や畑で再利用されます。分解するものがあれば糞も立派な土になり、水場や地球の栄養循環を担ってくれるのですね。無駄なものなど一切ないことに感激しました。
堆肥を使用した畑で自然の恵みをいただく
次に訪れたのは、施設内で作った堆肥を使用したビニールハウス。ブロッコリーやルッコラ、レタスや春菊、ロメインレタスやサラダケールが有機栽培されています。
私もいくつか収穫させていただき、その場で試食。どれもみずみずしくって美味しい! 野菜を集めれば食べられるブーケのよう。見た目も可愛いですよね!
野菜が苦手なお子さんも、ここで収穫したお野菜はパクパク食べるのだとか。納得です!
園内のオーガニックファームも化学合成農薬を一切使用せず、有機栽培でさまざまな植物を育てています。これらの野菜は園内にある店舗へ運ばれ、美味しいお料理となって私たちに提供されます。
園内では、水牛や鶏も育てています。水牛のミルクを使用したモッツァレラチーズは毎日作りたてが店頭に並んだり、園内にあるMILK STANDで、ミルクやソフトクリームとしても美味しくいただくことができます。
鶏舎の鶏はのびのびと育てられていて、元気いっぱい!
私も園内の「DINING」でランチをいただきました。園内で育った有機野菜を使用したサラダや、卵かけご飯、モッツアレラチーズたっぷりのピザなど、どれもナチュラルな美味しさで絶品! 濃すぎず素直な味わいで、とても健康的な気持ちになりました。
水牛は赤ちゃんを産まなければミルクを作ることができませんし、鶏も卵一つ一つを一生懸命産んでいます。私たちはいわば、命のお裾分けをしてもらっているんですよね。日常生活の中ではなかなか認識できない、忘れがちな命の手ざわりを味わうことができました。
スタッフの吉田さんは「食べる」ところまでをして、循環が成立すると語ります。
コンポストや堆肥舎で作られた堆肥が栄養たっぷりの土を作り、植物が育つ土壌となる。その植物を私たちがいただき、生ゴミがまた堆肥を作り出す。人と自然、動物の共生を垣間見ることができました。
クルックフィールズの高台には、宿泊施設「cocoon」があり、キッチンラウンジも完備。
自宅にいると、どうしても料理はお母さんの役割になりがちです。また、火や刃物を使うのは危ないからと、親がつい先回りしてしまうことも。
ここでは子どもが楽しみながら調理し、親はそれを見守ることができます。
子どものやりたいを叶えてくれる場所でもあるのですね!
料理は食べるための労働ではなく豊かな行為である、ということを知り、自宅でお手伝いをするお子さんが増えるのだとか。親子の関係も深まりそうですよね。
実際の体験を通して知ることができる
サステナブルと循環の真髄
サステナブルや循環という言葉を耳にすると、正しいことをしなければと思いがちです。ですが、美味しいことだったり、自然のことをよく知ることだったり、面白いことに目を向けていたら、自然と地球にとって良い生き方になるのですね。
瓦チップを通せば水がキレイになり、ミミズが生ごみを堆肥に変えてくれる。サステナブルと循環の本質は、実は身近にあるものでした。
触れたり匂いを嗅いだり、収穫したりと、手ざわりを感じることの大切さも再認識することができました。人間が生きているのは害ではなくポジティブである、それを知ることができたのもうれしいこと!
身の回りの自然によって生かされているし、自分たち人間の排泄するものも自然の役に立っているということ。それを子どもも大人もリアルに体験できることは、生き方を変えるくらいにインパクトがある思い出になると思います。何気ないゴミ捨てや、いつもの食事が、地球につながっていることが実感できる場所に親子で行ってみませんか。
クルックフィールズ
住所:千葉県木更津市矢那2503
定休日:火・水曜日
入場料金:中学生以上 800円、小学生400円、未就学児無料(メンバーシップに加入すると割引あり)
https://kurkkufields.jp
撮影/鈴木謙介 文/末永陽子