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現役医師に聞いた「インフルエンザワクチン」3つのポイントー接種のタイミングや効果、注意点、感染時の異常行動の対策などー

現役医師に聞いた「インフルエンザワクチン」3つのポイントー接種のタイミングや効果、注意点、感染時の異常行動の対策などー

毎年、冬場に猛威を振るうインフルエンザ。今年2025年は、早い段階で学級閉鎖になる小中学校が相次いでおり、インフルエンザによる異常行動のニュースも報じられています。

そこで今回は、佐久総合病院佐久医療センター小児科医長であり、子どもの病気とおうちケアを発信しているプロジェクト『教えて!ドクター』制作責任者の坂本昌彦先生に、インフルエンザのこと、主にワクチンについて詳しく教えてもらいました。

2025年のインフルエンザは流行が早い!

例年、インフルエンザは11月半ば頃から流行し始め、12月から1月にピークを迎えます。しかし、今年は10月頭から学級閉鎖が報告されるなど、1ヶ月以上早い時期から流行が始まっています。

この背景には、ここ数年でインフルエンザに対する免疫を持たない人が増えていることが挙げられます。

新型コロナウイルスが流行した際、みんなが感染対策を徹底したことで、インフルエンザの感染者も減少しました。

インフルエンザにかからないことはよいことですが、免疫の状態で考えると、インフルエンザウイルスとたたかうための抗体が少ない状況になるわけです。

こうした私たちの免疫状態の変化に加えて、コロナ禍から日常に戻り、感染対策が緩和された状況が感染拡大に寄与していると考えられます。

その他、変異ウイルスの存在や温暖化などの環境要因も関係があると言われていますが、正直ハッキリとはわかっていません。

いずれにしても、今年は早い時期の流行により、インフルエンザのワクチン接種が進んでいない点が、感染拡大の課題のひとつとなっています。

インフルエンザワクチンは「感染」を防ぐの? それとも「重症化」を防ぐの?

一言でいえば、「両方」です。インフルエンザワクチンには、感染そのものを40~50%防ぐ効果と、かかってしまった場合の重症化を約50~60%防ぐ効果があるという報告があります。より重きをおいているのは、「重症化予防」の効果です。

ここでポイントとなるのが、インフルエンザの「重症化の定義」です。私たち医師が言う「重症」は、「入院が必要な重篤な状態」や「重い合併症を引き起こしてしまう状態」を指します。

たとえば、脳炎・脳症や肺炎、心筋炎などを合併するのが重症化の一例で、いま現在私が勤めている小児科の入院患者の中にもインフルエンザの患者さんが増えています。

つまり、39℃や40℃の高熱はとてもつらいですが、体温が高いというだけでは医学的な意味での重症化には入らないということ。

ワクチンを接種していても高熱が出ることがありますが、その先の重症化を防ぐ効果は期待できる、ということをあらためてお伝えしたいと思います。

インフルエンザワクチン接種のベストなタイミングと効果

インフルエンザワクチンを打つことで、私たちの体はインフルエンザウイルスの抗体をつくる学習をします。ここで学習した「抗体をつくる力」のことを「免疫」と呼んでいます。

ワクチン接種によって免疫がつくと、その後、本物のインフルエンザウイルスがやってきたとき、体がすばやく反応して抗体をつくり、インフルエンザウイルスを撃退できるようになる、という仕組みです。

抗体は、ワクチンを接種して2週間後くらいからつくれるようになります。効果は約5か月間ですが、大体3月終わり頃まで流行することを考慮すると、例年10月後半から11月中の接種がよいでしょう。

もちろん、12月に入ってからでも遅くないので、ワクチン接種を検討している方はかかりつけ医に相談して、早めの接種をおすすめします。

13歳以上は1回、13歳未満は2回接種が必要です。熱が高いときや体調が悪いときは十分な免疫をつけられない可能性があり、副反応も出やすいため接種できません。余裕を持ってスケジュールを組むと安心です。

インフルエンザ予防接種 対象年齢別の回数と効果

副反応に関しては、接種部位の腫れや痛み、発熱などが多いです。これらは通常2〜3日で治まります。非常に稀ですが、重いアレルギー反応が起こる可能性もあるため、接種後15~30分間は医療機関内で待機することが推奨されています。

大切な試験や発表会などが控えている場合は、直前のワクチン接種は避けた方がよいでしょう。

2024年からは「鼻スプレー式のワクチン」も新しく登場

昨年2024年から接種が始まったフルミスト®点鼻液は、注射ではなく、鼻の穴に吹き付けるスプレータイプのワクチンです。

2歳から19歳未満が対象、1回の接種で完了します。痛みがなく、接種回数が少ないメリットがあり、効果は従来のワクチンと同等とされています。

注意点を挙げるとすれば、生ワクチンであるため、免疫不全のお子さんには接種できないこと。また、接種後の副反応として、一時的な鼻づまりや咳などの症状が6割近く起こることから、喘息持ちのお子さんにはおすすめしていません。

インフルエンザワクチン フルミスト®点鼻液の特徴

また注射タイプと比べて、費用が高いという特徴もあります。医療機関によって異なりますが、注射タイプは3,000~5,000円、点鼻式は8,000~9,000円前後のところが多いようです。

自治体や加入している健康保険組合によっては、助成金制度を設けている場合もあるので、ぜひ確認をしてみてください。

まだ扱いがないクリニックもありますが、接種を希望する場合は、かかりつけ医の先生と相談のうえワクチンを選択しましょう。

インフルエンザに感染したら気をつけたい「異常行動」のこと

先日もニュースで話題になりましたが、インフルエンザに感染すると、高熱時に子どもがうわごとを言ったり、突然立ち上がったり、歌い始めたりする一時的な異常行動が見られることがあります。

これは「熱せん妄(ねつせんもう)」と呼ばれる症状で、わかりやすく言うと、寝ぼけているような状態です。

以前はタミフルなど抗インフルエンザ薬の副作用と言われていましたが、現在はタミフルを服用していないインフルエンザの患者さんでも同じように起こることがわかっており、インフルエンザそのものによる症状だとされています。

保護者の方に気をつけてもらいたいのは、

・目が届く距離で見守る
・慌てずに声をかける

この2点です。熱が高いときは、転落や飛び出しなど危険な行動を起こす可能性があるため、できるだけ目を離さず、すぐに阻止できる距離で見守りましょう。

またインフルエンザでは、少し年齢が高いお子さんも発熱時にけいれんを起こすことがあります。通常熱性けいれんは就学前のお子さんに起こることが多いですが、インフルエンザに伴う発熱時のけいれんは小学校低学年以上のお子さんでも起こり得ます。

この年齢は一人でお風呂に入ることも多いかもしれませんが、入浴中にけいれんを起こすと溺れてしまうリスクがあります。熱が多少あっても体調がよければお風呂に入ることはできますが、入浴は家族の見守りの下で行ってください。

お風呂上がりの子どもと母親のイメージ

そしてインフルエンザの意識障害として重要なのが脳炎・脳症です。

脳炎・脳症の場合、呼びかけに答えない、視線が合わない、異常な言動が長く続く、けいれんを繰り返すなどの症状が起こります。脳炎・脳症は意識障害であり、コミュニケーションが取れない点が特徴です。

インフルエンザにかかってうわごとなど気になる症状があるときは、話しかけるなどして会話が成立するかを確認しましょう。

コミュニケーションが取れない、もしくは断続的に異常行動が続く場合は、脳炎や脳症の可能性があるため、躊躇わずに救急車を呼ぶ、すぐに病院を受診するなどの対応をしてください。

感染対策と体の免疫を整えて、この冬を乗り切ろう

インフルエンザの感染対策として、ワクチン接種以外に私が行っているのは次の3つです。

・こまめな手洗い
・人混みではマスクを装着
・十分な睡眠と食事

手洗いに関しては、石けんやハンドソープを使って洗い、しっかりと流水で流すことが効果的。トイレに行ったあと、外出先から帰ってきたとき、食事の前などは必ず手洗いをするように心がけましょう。

また、家族がインフルエンザにかかったときの家庭内感染予防についても、同様の対策が有効です。

飛沫感染と接触感染で広がっていくので、タオルの共用や過度な接触も控えましょう。

とはいえ、お子さんが小さい場合は、接触を減らすといってもなかなかむずかしいですよね。

抱っこやスキンシップで得られる安心感は、子どもの回復にもよい影響を与えます。あまり神経質になりすぎず、お世話をする大人ができる範囲で対策をして、精神的なケアを優先してあげてください。

普段からの体調管理と予防接種をしっかり行い、かかってしまったとしても、正しい知識で落ち着いて対応できるよう、家族で備えておきましょう。

 

取材・文/水谷映美 編集/石橋沙織(キッズネット)

坂本 昌彦(さかもと まさひこ)さん

坂本 昌彦(さかもと まさひこ)さん

坂本 昌彦(さかもと まさひこ)さん

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約35万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。

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