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虫さされの話 症状編/こどもの皮膚科ドクターが語る【第2回】

虫さされの話 症状編/こどもの皮膚科ドクターが語る【第2回】

さて、今回も虫さされの話をしていきましょう。

蚊はどのようにして血を吸っているのでしょうか。
前回のお話のとおり、蚊が血を吸うのは卵を育てるためです。血を吸うためにはまず人間の皮膚を傷つけてその中に口を入れ、血管を探さなければなりません。

蚊の口はノコギリ状になっているので、それを擦りながら皮膚に差し込んでいきます。口を差し込んで血管を探すと同時に、蚊は自分の唾液を皮膚の中に送り込み、血管を見つけると吸血を開始します。そして3分程度かけて吸血を行ない、飛び立っていくわけです。

虫に刺されたあとの症状は、時間とともに変わっていく

では、虫さされのあとの症状を見ていきましょう。症状は時間とともに少しずつ変わっていくのが特徴です。

1)アレルギー反応(数秒から数時間)
2)毒による反応(数分から数日)
3)二次感染(数日)

それぞれを別個に見ていくとわかりやすいでしょう。

1)アレルギー反応

虫さされのアレルギー反応は、虫が体内に送り込んだ唾液や毒のタンパク質によるものと考えられています。
そして同じ花粉にさらされても花粉症になる人とならない人がいるように、虫さされのアレルギー反応も人によって異なりますし、さらには虫の種類によっても異なることが知られています。
この反応は非常に緻密で、ヤブ蚊とイエ蚊程度の違いであっても認識されることがわかっています。

またそれぞれの虫に対して刺された回数で反応の出かたが異なります。刺される回数が多くなるにしたがって(多くの場合は年齢とともに)

1)無反応
2)遅延型反応
3)遅延型反応+即時型反応
4)即時型反応
5)無反応

という段階を経ていきます。

赤ちゃんの場合は虫に刺されても無反応ですが、数回刺されると遅延型反応という段階に進みます。
最初は刺されて半日から一日程度してから赤いぽっちが出現し、一日程度で消えてしまうといった程度です。この段階ではいわゆる典型的な虫刺されの症状はないために皮膚科や小児科でも診断を正確に行うことは難しかったりします。

もう少し虫さされの回数が増えると、もう少し激しい症状が出てきます。ちょうど保育園から幼稚園の頃ですが、刺された部分に腫れが出てきて、時には水ぶくれになることもあります。しこりやかゆみも強く出現するのも特徴です。この症状はアレルギーの遅延型反応と呼ばれる、おおむね数時間程度経過してから出てくるかぶれのような反応ですので、腫れたときに虫を探してもとっくにその虫はいないのが特徴です。

小学生くらいになり、さらに虫さされの回数が増えてくると即時型反応が出てきます。この反応はちょうどじんま疹のようなものであり、刺されたほんの数分後から、はっきりとした台地状の盛り上がりが出現し、半日程度で引いてしまうのが特徴です。大人の虫さされもおおむね同じような形で出てきます。

そして、老人になってくると……反応がなくなってしまうんですね。体が慣れたとでも言えばいいのでしょうか。外来で祖父・祖母と孫が一緒に外にいても孫だけ症状が出ると言われることがあるのですが、実はおじいちゃん・おばあちゃんも刺されているんですよ。

さて、簡単にアレルギー反応をまとめましょう。アレルギーの反応は虫の種類ごとに「経験値」をそれぞれ持ちます。その経験値が少ないうちは数時間経過して初めて症状の出る遅延型反応が主体ですが、多くなるにしたがい、即時型の反応に移行していくのです。

こういう理屈を理解しておくと、こんなことが起きる理由も理論的にわかるでしょう。

  • 転校生の虫刺されは激しく出る
  • 帰省したとき・海外に行ったときの虫さされは治らない

外来でときに見るのですが、長年住んでいたところから別の土地に行ったとき、その土地に定着している虫に対する体の「経験値」はほとんどゼロです。
したがって、新しい土地で虫に刺されると結構症状が強く出てしまうことがあるんですね。旅行時には知っておきたい豆知識でした。

逆に短期間で経験値が貯まるような環境にいればどうなるか? すぐに虫さされに反応なくなってしまうんです。
一説によると夏のアラスカ(蚊の天国のようなところです)でずっと過ごしていると1年程度で蚊に刺されても反応しなくなるというお話もありますね。漆職人を長年していると漆にかぶれなくなるようなお話です。

アレルギーの話の最後はアナフィラキシーのお話です。ほとんどは蜂に刺されたときに問題になります。蜂に対するアレルギー反応は特徴があり、1回目の反応はそんなに強くはないのですが、2回目以降の反応は激烈になる可能性があります。

蚊では刺された部分が強く腫れるという皮膚に限られた反応ですが、蜂の場合は、呼吸できなくなったり、血圧が下がったりと、最悪の場合には命に関わる反応を示すことがあります。なお、この反応もすべて蜂の種類ごとに「経験値」がありますので、刺された際には蜂の種類を確認するか、殺したときには死骸をしっかりと確認しておくことをおすすめします。

2)毒による反応

毒が問題になるのは、主に蜂さされが多いかと思います。この毒ですが、実は何から成っているのかよくわかっていません。
一部はアミノ酸などから構成され、それが神経に対する毒性や強い炎症を引き起こすことがわかっているのですが、現時点でわかるのはそのレベルまでです。当然、刺した虫の種類により毒の種類は異なりますので、問題はさらに複雑になってしまいます。

毒による反応は刺された直後から始まり、長いものでは数時間に渡るものがあります。しかし時間とともに減少していくことが多いのであまり心配をする必要はありません。ただし多数の虫に同時に刺されて毒を注入された場合には全身に症状が及びますので、注意が必要となります。

対処法はまず刺されたらすぐに吸い出すこと。口で吸い出すと毒が逆に口の粘膜から入ってしまいかえって症状が強くなってしまうのでNG。指でつまんで絞り出すか、ポイズンリムーバーという道具を使用して吸い出してください。

次いで、冷やすこと。毒による反応といっても広い意味での化学反応です。温度を下げればその反応は弱くすることができますよね。また物理的に温度を下げることで反応と痛みを少しでも減らすことができます。
可能でしたら流水で洗い流して傷口を清潔にすることも必要です。そのうえで医療機関に受診して治療を受けてくださいね。

3)二次感染

最後は二次感染です。虫そのものも当然無菌ではありませんし、刺したときに周囲の環境に存在する雑菌が入り込むこともあります。最も多いものはその雑菌が入ることによる細菌感染症です。

刺されてから数日が経過したあとに刺し口を中心に全体的に熱を持ち、腫れてくる。そしてなんとなくその部分から痛みが出てきて触るとより痛くなる。これが細菌感染による症状の典型的な形です。こうなってしまうと日常生活にも影響が出てしまいますので、医療機関を受診して抗生剤をしっかりと飲む必要があります。

また、虫と共存している病原微生物が、刺されることにより人体内に入って影響を及ぼすことがあります。
最も有名なのは蚊の中に存在するマラリアですが、こちらは日本にはいませんので、ご安心ください。また一時話題になったデング熱や日本脳炎なども蚊により媒介されますが、これらの感染が起こりやすい地域というものはある程度決まっていますので、その地域以外ではあまり心配をする必要はないでしょう。

ああ、残念ながら紙面がいっぱいのようです。
次は治療の話を進めていくことにしましょう。

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野﨑誠(のざきまこと)

野﨑誠(のざきまこと)

野﨑誠(のざきまこと)

わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市・皮膚科、小児皮膚科)院長。国立成育医療センター(小児皮膚科)、東京都立東大和療育センター(皮膚科)勤務。2001年山形大学医学部卒業山形大学医学部皮膚科入局山形県公立置賜病院(山形県長井市)、国立成育医療センター(東京都世田谷区)、はせがわ小児科医院(東京都武蔵野市)などの皮膚科・小児皮膚科を経て、2013年、わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市)開院。院長を務めるかたわら、専門家向け、一般向け、教育機関(保育園、幼稚園、小学校、中学校など)向けの各種講演会、勉強会を精力的にこなす。雑誌他執筆多数。広い年齢層の皮膚病、あざの治療やスキンケアに携わる。
わかばひふ科クリニックWebサイト

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