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虫さされの話 治療編/こどもの皮膚科ドクターが語る【第3回】

虫さされの話 治療編/こどもの皮膚科ドクターが語る【第3回】

さて、虫さされの話の最後は治療についてです。今回の話はハワイからお送りしたいと思います。
ハワイに行ったことのある方は思い出してほしいのですが、街中では蚊を全くと言ってよいほど見かけないんです。刺されることもほとんどなかったのではないでしょうか。気づいていました?

もちろん山の方に行けばいるのですが、街中に入ってこないようにハワイ州政府が多くの予算をかけて一生懸命駆除しているんですよね。小さな島の中で伝染病が蔓延しては大変ですし、観光客も近づかなくなってしまいます。実は見えないところで多大な努力をしているのです。

治療の話に戻しましょう。治療といっても医療機関で行なわれるものだけではありません。その前に、自分の手持ちのものを利用して行なうことのできる治療もたくさんあります。その方法を理解しておくだけで虫さされの症状は抑えることができるのです。

治療は刺された瞬間から始まる!

治療は刺された瞬間から始まります。のように刺されてから時間が経過して症状が出るケースのほかに、ハチのように刺された瞬間から症状の出る虫さされもあります。つまり毒による症状ですが、こちらは刺されてすぐに対処を開始する必要があります。

体の一部分に急に痛みを感じたらまず周りを見回してください。そして何が刺したのかを確認します。またそれと同時に過去の記憶を探って、同じ虫に刺された経験があるかどうかを脳内検索していきます。もし刺された記憶があれば要注意です。特にスズメバチなどの蜂さされの場合、救急車を呼ぶ準備を始めてしまっても構いません

虫の種類が不明であっても、痛みを感じる場合は毒液が体内に注入されている可能性があります。ポイズンリムーバーがあればそれを使用して、なくても周囲を圧迫して傷口から毒液を絞り出せないか試みて見ましょう。口に傷口を含んで吸い出すのは毒液が口の粘液から浸透する可能性があるので、控えたほうが良いでしょう。

次いで行なうこと。それは洗浄です。雑菌の侵入による二次感染を予防する意味合いもあります。流水、もしくは近くにきれいな水がない場合はペットボトルの水・お茶など無糖の液体を大量に使用して傷口そのものを洗い流していきます。

物理的な汚れがなくなった頃を確認して、最後に傷口をガーゼやハンカチなどのきれいな布地で覆います。これで虫刺されの緊急対処は終了となります。まずこの緊急対処をしっかりと行なえるかでその後の二次感染の確率が左右されます。外出先や山では手元にあるものを上手に利用してください。

刺された部位を冷やすときに気をつけたいこと

次に刺されたあと数分が経過してからの処置を説明します。清潔な状態を保持し、「つゆ」つまり浸出液や血液が出ているときには適宜洗い流し、まず冷やします。アレルギーにしても虫さされの毒にしても言ってしまえば化学反応。冷やすことで反応を遅らせることができますし、痛みの反応も冷えると軽減されます。ぜひしっかりと行ないたいところです※。

保冷剤を使用して物理的に温度を下げてください。なければ水でもOK。流水でも構いませんし、水を詰めたペットボトルを当てるだけでも少しは表面の温度を下げることができます。手元に何もないときには冷えた金属を当てるだけでも構いません。

そういえば、昔外来で冷凍のミックスベジタブルで冷やして受診した方がいました。突拍子もない? いえいえ科学的には実に有効です。氷よりも温度が上がりにくいので、効果は十分にあるんですよ。

気をつけてほしいことが1つあります。冷えピタシートのような製品です。こちらの製品は物理的に温度を下げるわけではなく、皮膚表面の血管を広げて涼しく感じさせるようにしているだけですので、皮膚の温度はあまり下がるわけではないのです。また化学成分で傷口がかぶれてしまう可能性がありますので、利用は控えた方が無難ですね。

※ムカデにかまれたときの毒など、傷口を熱めの湯で洗った方が効果的な種類の毒もあります。

ハチさされなら、救急を受診してOK

次は刺されてから数十分後以降についてです。医療機関を受診するわけですが、特にハチさされの場合時間に余裕がないこともありますし、クリニックレベルでは対応できないこともありますので、救急病院で直接受診(できれば電話であらかじめ相談してほしいところですが)してもOKです。

それ以外の虫の場合はクリニックでも十分です。皮膚科・内科・小児科・外科など、それぞれ対応可能ですので(もちろん専門家は皮膚科ですが!)、かかりつけのクリニックもしくは最寄りのクリニックに受診してください。そこで治療を受けるようにしましょう。

虫さされに有効なステロイド

ああ、やっと薬の話をすることができます。

虫さされで使用される薬で最も頻用されるのは副腎皮質ステロイドです。いろいろと悪いうわさも聞くかと思いますが、虫さされに最も即効性があり、効果の高いものがこのステロイドになります。

ぬり薬か飲み薬かについては、症状の強さに応じて使い分けられます。
ハチさされもしくは一度に多数の虫に刺されて全身に症状が及ぶリスクのある場合は飲み薬を。数が少ない虫さされにはぬり薬が使われます。皮膚の一部分だけを治療するのであれば、その部分のみをターゲットにできるぬり薬がいいのですが、ぬり薬は皮膚の表面にしか作用しません。表面よりもさらに深い部分に薬を届けたい場合は飲み薬が必要という考え方です。
また、痛みが強い場合は(ステロイドの飲み薬が痛みにも効果があります)、非ステロイド系の消炎鎮痛剤、二次感染のリスクがある場合は抗生剤を同時に併用することがあります。

では、市販薬でもいいのか? 気になるところですね。こちらは処方される薬ほどの効果は見こめません。というのも法律によって、効果の高い薬剤は一般の薬局での取り扱いができないんですね。虫さされほどの強いアレルギーに対して市販薬は相対的に効果が弱くなりますので、あまり推奨はできません。

何度も言いますが虫さされは短期決戦です。多くの虫さされは1週間以内の治療により抑えることができます。ステロイドにはたしかに副作用はいろいろとありますが、虫さされに使う場合はそんなに心配する必要はありません。一般的に治療期間が短ければ副作用のリスクは少なくなります。むしろ効果の強い薬剤を使用して一気に症状を抑えてあげたほうがよいでしょう。

と、ここまで虫さされについてお話をしていきました。最後に一つだけ注意事項をお話しましょう。それは「ブヨ(もしくは地方によってはブトとも呼ばれます)には気をつけろ」ということです。

なぜか、ブヨの虫さされはときに長期化することがあるからです。結構な割合で一年以上治らないブヨさされになってしまうんです。なぜかはよくわかっていませんが、どうもブヨの虫さされには体の反応が強くなるようなんですね。それに応じて治療も長い期間をかけてしっかりと行なう必要がありますので、まず早めに医療機関を受診するようにしてくださいね。

以上、3回に渡り虫さされのお話をいたしました。この夏の虫さされの参考にしてくださいね。アローハー!

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野﨑誠(のざきまこと)

野﨑誠(のざきまこと)

野﨑誠(のざきまこと)

わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市・皮膚科、小児皮膚科)院長。国立成育医療センター(小児皮膚科)、東京都立東大和療育センター(皮膚科)勤務。2001年山形大学医学部卒業山形大学医学部皮膚科入局山形県公立置賜病院(山形県長井市)、国立成育医療センター(東京都世田谷区)、はせがわ小児科医院(東京都武蔵野市)などの皮膚科・小児皮膚科を経て、2013年、わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市)開院。院長を務めるかたわら、専門家向け、一般向け、教育機関(保育園、幼稚園、小学校、中学校など)向けの各種講演会、勉強会を精力的にこなす。雑誌他執筆多数。広い年齢層の皮膚病、あざの治療やスキンケアに携わる。
わかばひふ科クリニックWebサイト

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