限界はだれが、いつつくる? 成功のみなもとは子どもの「やり抜く力」/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第10回】
シリーズ『AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素』では、子育てにおいて、どんな時代でも変わらず必要なこと、そして、AI時代に必要な技術や能力の育て方を、6つのカテゴリーに分けて、最新の学術研究などをもとに紹介します。今回は連載10回目です。
成功者の共通点「グリット」とは
平昌五輪が閉幕しました。今回は、日本の選手が大活躍。メダルの数も更新して、すばらしい結果でしたね。毎回、オリンピック・パラリンピックを見ていると自分の限界に挑戦している選手たちの姿に感動します。
どうしたら、あんなふうにがんばれるのでしょうね。たぐいまれな才能があるから……でしょうか?
確かに、才能もあるでしょう。だれもが羽生選手のようにはなれないですから。でも、才能があったらそれだけでオリンピック選手になれるというものじゃないですよね?
どの競技であれ、日本の代表に選ばれるまでに、各選手は相当な努力を積み重ねています。つまり、才能を開花させるまで努力した結果、オリンピックに出られるような選手になれたというほうが正しいのではないでしょうか。
成功者の共通点として、「グリット(GRIT)」という言葉が話題になっています。これは、アンジェラ・ダックワースという心理学者が明らかにしたもので、「やり抜く力」のこと。困難があっても、目的を達成するためにとてつもなく長い時間、継続的に、粘り強く努力することができる力のことです。
日本でも2016年に著書がベストセラーになったので、知っている方も多いかもしれませんが、彼女の研究によると、これが人生で何を成しとげられるかを左右する一番大切な能力だそうです。
著書のなかで、シカゴの公立高校、全米から優秀な高校生が集まるウエストポイント陸軍士官学校、民間企業などのさまざまな機関において調査を行なった結果が紹介されています。多くの調査から、成功を収めるためにはIQや容姿、身体的健康や社会的知性よりも「グリット」が大きな影響をもたらしていること、そして「情熱」と「粘り強さ」を持つ人が結果を出すことが分かったのです。
成功には、生まれ持った才能よりも、情熱と熱心さが大事
オリンピック選手とまでは言わなくても、だれもが自分の子どもがもっている力を発揮して活躍してくれたらと願っていることと思います。この研究結果は大きな励ましになるのではないでしょうか。
なぜなら、人生でなにをなしとげられるかは、「生まれ持った才能」で決まるのではなく、ものごとに取り組む「情熱」と「粘り強さ」によって決まる可能性が高いというのですから。この本によると「情熱」とは熱心さではなく、1つのことにじっくりと長い間取り組む姿勢のことです。
では、この「グリット」はどのようにしたら伸ばすことができるのでしょうか?
方法は2つ、自分の内側(考え方)と外側(環境)へのアプローチにあるといいます。
まず、内側を伸ばすために大切なのは、「成長思考」を持つことです。
成長思考とは、能力は、一生懸命がんばれば身につけることができるという考え方。多くの研究によって、脳は、筋肉をきたえるのと同じように新しい課題を克服しようとすることで成長するといわれていますし、成長思考をする人のほうが、実際に能力を伸ばすことができます。
つぎに大切なのは、悲観的な考え方をやめることです。うまくいかないときに、「どうせだめだ」と考えるか「どうすればうまくいくか」と考えるのではどちらが良い結果にむすびつくかは予想できますね。
外側の環境として最も効果的なのは、課外活動だといいます。それも、1年以上継続し、そのなかで進歩することが大切だと。課外活動が良いという理由は、楽しめる、かつがんばることができる場合が多いからだそうです。確かに、たとえばクラブ活動や習い事など自分が好きなことなら、大変でもがんばれますよね。
子どもの限界をきめる声かけをしていませんか
このように、能力は生まれつきの才能ではなく、やり抜く力を磨くことで伸ばすことができると分かったのですが、その一方で、「子どもがやる気がない」「すぐにあきらめてしまう」というお悩みが多いのも事実です。
このギャップはどこから生まれるのでしょうか?
いろいろ原因があるでしょうが、わたしは、親が子どもの「グリット」をつぶしているケースもあるのでは……と感じます。
わたしたち親は、子どもは教えないとなにもできない存在だと思い込んでいるところがあり、よかれと思って、逆に子どもの能力に限界を設けてしまっているのではないでしょうか。
実際、「この子にはそんな特別な才能はないですから」と子どもの目の前でおっしゃる人もよく見かけます。そのように言われた子どもが横で悲しそうに恥ずかしそうにしている姿を見て、「そんなことはないよね。なにが好き?」と声をかけると、はにかみながらもうれしそうな笑顔になるのを見ると、ほんとうに声かけの影響の大きさを感じます。
どんな声がけをするかは、お子さんとの関係しだいですが、子どもにはもともと力があるという考え方に立ったら、どうでしょうか? おのずとかける言葉も変わるのではないでしょうか。
アンジェラ氏は多くの研究から、グリットを育てるスタンスとして「温かくも厳しく子どもの自主性を尊重する」ことをあげています。
子どもの力を信じ、ときには厳しくしつつも、温かく支える。それは、あたかもオリンピック選手に寄り添うコーチのようです。
子どもたちは、みがけば光る宝石の原石のようなもの。羽生選手の活躍のかげにオーサーという名コーチがいるように、持っている力を伸ばすために粘り強く子どもに寄り添い、その「グリット」を伸ばすコーチを親は目指していきましょう。
参考文献
『やり抜く力GRIT(グリット)―人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース著、神崎朗子訳 (ダイヤモンド社)
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