子どもの脳の発達は環境しだい/AI時代を生き抜くために「失敗力」を育てる6つの栄養素【第15回】
シリーズ『AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素』では、子育てにおいて、どんな時代でも変わらず必要なこと、そして、AI時代に必要な技術や能力の育て方を、6つのカテゴリーに分けて、最新の学術研究などをもとに紹介します。今回は連載15回目です。
すぐキレる問題児。どうしたらいい?
近ごろ、子どもの教育にたずさわる人たちから、「キレやすい、人の話を聞けない、すぐあきらめる、まわりの子に手をあげるなど、気になる子どもの割合が増えている気がする。」という話をひんぱんに聞くようになりました。
公的な調査などで明らかになっているわけではありませんから実際に増えているのかははっきりとわかりませんが、子どもと直接ふれあう立場の人たちの生の声ですので、気になりますね。
小学4年生のA君もその一人。「授業中に立ち歩く」「宿題をしない」「まわりの子に手をあげる」など、学校の先生からいつも怒られる問題児でした。
お母さんはなんとかしなくては! と、A君が学校から帰ったらすぐに、お母さんが宿題の有無をチェックして、つきっきりで宿題をさせました。
すぐに飽きてしまうA君をきつく叱るお母さん。宿題が終わらないと夕食の支度もできないので、食事の時間が遅くなることもたびたび。宿題が終わったら制限なしにゲームをしてもいいことにしていたので、寝るのも遅くなりがち。
朝はぎりぎりまで寝かせてお母さんが起こす。忘れ物をしてはいけないので学校の準備はお母さんがする。という対応をしていたそうです。
果たしてうまくいくようになったのでしょうか?
結果は×。
少しも良くならないどころか、どんどんひどくなり、家でもキレることが多くなっていきました。
さて、このお母さんの対応のなにが問題なのでしょうか?
生活習慣の乱れから悪循環に
このお母さんの対応で問題だったのは、宿題をさせることを優先順位の一番にしてしまったことです。その結果、日によって夕食や入浴、寝る時間がまちまちになり、朝起きられないという生活習慣の乱れにつながりました。また、宿題ができなければ感情的にきつく叱り、反対に学校の用意など子どもが自分でやるべきことを親が代わりにやって甘やかすというように、子どもの自律を妨げる対応をしていました。その結果毎日の生活が落ち着かず、子どももお母さんもイライラがつのり、きつく叱るとA君はますます反発するという悪循環に陥ってしまっていたのです。
これは発達脳科学の専門家、成田奈緒子先生のところに訪れた実際の親子の話です。実は、このコーナーの第2回「キレる子どもたちの原因は眠りにあり」で紹介したように、規則正しい生活を送らないと、さまざまな問題が起きてきます。
そこで成田先生は、①夕食は19時にとる。②21時までに寝る。この2つだけを守るようにA君に約束させて、宿題はできてもできなくても気にしないでいいと伝えました。
さらに、お母さんにはときおり、わざと食事の支度が間に合わない事情をつくってA君に手伝ってもらって、できたら必ずありがとうと言う。お父さんにはできるだけいっしょに食事をする機会を増やし楽しい会話をするなど、親の関わり方を変えるようにアドバイスしました。
すると2カ月後、A君はすっかり落ち着き、問題児どころか、やり残した宿題も、朝自分で起きてやるようになったそうです。
よい脳が育つ環境を用意すれば、何歳からでも脳は育て直せる
そんな魔法のようなことがどうして起こったのでしょうか。そのかぎを握るのが生活環境を整えることです。
成田先生は次の6つを「親など周囲が子どもに与える、脳を育てる生活環境」として整理しました。
- ブレない生活習慣を確立する。
- 調和がとれたスムーズなコミュニケーションを図る。
- 親子がお互いを尊重して協力しあう体制をつくる。
- 怒りやストレスへの適切な対処法を共有する。
- 親子が楽しめるポジティブな家庭の雰囲気をつくる。
- 親はブレない軸を持つ。
これは、わたしがこれまでいろいろなテーマでお伝えしてきた6つの栄養素とも共通することが多いなと思います。(6つの栄養素については第1回をご参照ください)
脳を育てる生活環境をつくるには、まずは、起きる時間、寝る時間、食事の時間といった基本的な生活リズムを整えること。そして、子どもを感情的にコントロールしたり、反対に手を出して甘やかしたりせず、共同生活を送る一員として尊重しあうことが大切です。
成田先生は、何歳からでも、どんな子でも脳は育て直せると言います。もし、困ったなと思うことがあってもあきらめずに、やってみてくださいね。
※脳を育てる6つの生活環境を生活にとり入れるための具体的な方法は、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(成田奈緒子 上岡勇二著、合同出版)で紹介されています。
関連記事/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素
【第1回】失敗できない人は、成功できません
【第2回】キレる子どもたちの原因は眠りにあり
【第3回】自尊感情を高めるための親のかかわり方
【第4回】子どもを伸ばす眠りの力
【第5回】子どもの話を最後まで聴いていますか?
【第6回】子どものやる気をどうやって引き出す?
【第7回】からだを使った遊びが、子どもの脳を育てる
【第8回】お手伝いで生きる力が育つ!?
【第9回】プロセスをほめられた子どもは、学ぶ力が伸びる
【第10回】限界はだれが、いつつくる? 成功のみなもとは子どもの「やり抜く力」
【第11回】子どもの伝える力を育てる2つのチャレンジ
【第12回】家庭・学校以外の第3の場所が子どもの生きる力を育てる
【第13回】ぼーっとしている時間に頭は育つ
【第14回】ネット時代に必要なのは、自制心
【第16回】親の子育てスタイルが子どもの行動に与える影響