日本酒をつくるすべての工程の責任者で、日本酒を造る職人をまとめるリーダー。
こんな人にピッタリ!
リーダーシップ(指導力・統率力)がある人、管理能力がある人、コミュニケーション能力が高い人。
どんな仕事?
蔵にひとり、日本酒造りの最高責任者
酒の製造元である「蔵元」の酒蔵(酒を造って貯蔵しておくところ)で、酒造りの現場を取り仕切る。基本的にそれぞれの蔵にひとりしかいない「酒造りの最高責任者」だ。原料になる米や麹の品質などを見定めて、所属する会社(蔵元)が望む味や風味の酒に加工する計画を立て、それをもとに日本酒造りの職人である蔵人たちに指示を与える。杜氏に求められるのは、酒造りに関する深い知識・経験・技術のほか、蔵人それぞれの能力に合った人員配置を考えるなどリーダーとしての能力だ。
日本酒づくりには長い時間がかかり、その間に起こるわずかなミスですべてがだめになる可能性もある。すべてを監督する杜氏の責任は重いが、それだけに無事に思い通りの日本酒が完成したときの喜びは大きいようだ。
職人たちを指揮、コンピュータも制御
日本酒は、材料を微生物に発酵(分解)させて造る「醸造酒」という種類の酒。その造り方は、まず白米を蒸し、人間の役に立つ微生物「麹菌」をふりかけて「麹」を造る。麹には米にふくまれるデンプンを糖に変える働きがある。糖をさらに酵母という微生物が分解すると、酒の主成分のひとつであるアルコールに変化する。さらに水などを加えてタンクで発酵させると、やがておかゆのような「もろみ」になる。もろみをしぼった液体が日本酒(清酒)だ。
そうした酒造りの工程の作業は、基本的には蔵人が行う。杜氏は、すべての工程の作業に目を配り、発酵状態のチェックなどを行って酒造り全体を管理する。現在は、昔ながらの製法で酒造りをする酒蔵だけでなく、コンピュータが制御するオートメーション化された機械で酒を大量生産する工場もある。この場合でも、コンピュータが計測する温度などの数値を監視し、適温を保つように調整するところが杜氏の腕の見せ所だ。
これがポイント!
杜氏を目指すには、酒造会社や蔵元に就職するか「杜氏集団」に入る
杜氏や蔵人になるには、学歴や資格はとくに必要ない。かつては「杜氏集団」と呼ばれる「杜氏が率いる蔵人のチーム」に入り、集団全員が冬の季節労働者として蔵元にやとわれて酒造りをしていた。今でもそうした伝統的な杜氏集団と蔵元の関係を続けているところもある。だが現在では、酒造会社や蔵元に社員として就職することが多いようだ。
杜氏集団でも会社や蔵元の社員でも、最初は雑用をこなし、蒸し米・麹づくり・酒母づくりなど蔵人の仕事を覚えるための修業をする。多くの知識や技術を身に付ける必要がある杜氏になるには、10年以上の修業が必要と言われてきた。だが現在は、大学で醸造学を学んでいたり、入社後に蔵人を対象にした酒造組合の講習や研修に通って技術や知識を深めたりすることで、修業年数に関係なく会社や蔵元から杜氏に任命される場合もある。
これがポイント!
杜氏に必要な酒造りの技術や知識を証明する資格や認定制度
杜氏や蔵人になるために資格は必要ないが、日本酒造りに必要な知識と技能を備えていることを証明するものはいくつかある。そのひとつは、国家資格である「酒造技能士」。この資格は中央職業能力開発協会が行う「酒造技能検定試験(1級・2級)」に合格すると取得できる。受験するには実務経験(1級は7年以上、2級は2年以上)が必要で、酒を試飲する試験があるので20歳以上であることも条件だ。
また日本酒造杜氏組合連合会には、「確かな技術、人格を持った杜氏」であることを「日本酒造杜氏」として認定する制度がある。さらに、地元の杜氏を育成する目的で、栃木県酒造組合には「下野杜氏」、茨城県酒造組合にも「常陸杜氏」という認証制度がある。
将来はこうなる
日本酒が世界中で注目され、活動機会も増える
2013年12月に「和食・日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことから、「食事とともに楽しめる酒」として日本酒が世界中で注目されるようになった。日本酒造組合中央会によれば、日本酒の輸出総額は13年連続(2010年~2022年)で前年を上回っている。また、海外にも日本酒を造る醸造所(酒蔵)が生まれていて、日本酒づくりの専門家である杜氏が活動する場は、世界に広がっているようだ。
一方、国内で増えているのは、酒造会社や蔵元の社員として酒造りに従事する「社員杜氏」や蔵元(経営者)が杜氏を務める「蔵元杜氏」だ。さらに、ベテラン杜氏の経験や技術をデータ化し、工程をコンピュータで管理できるようになった。多くの若い杜氏や女性杜氏が生まれることで、新たな味や風味の日本酒を生み出す機会が増えるだろう。
データボックス
収入は?
平均年収は、約444~565万円。酒造会社や蔵元によって異なり、季節労働者か、正社員として働くかによっても異なる。経験を積んで実績のある杜氏の場合は1000万円をこえる場合もある。
休暇は?
酒造会社や蔵元によって異なる。伝統的な製法では秋から冬にかけて1年分の酒を造るので、いそがしい時期は日曜日に休めなかったり残業が多くなったりすることもある。
職場は?
酒造会社の工場や蔵元の酒蔵(醸造所)。
なるためチャート
杜氏の仕事につくための主なルートが一目で分かるチャートだよ!