危険な「薬物犯罪」を専門的に取り締まり、人々や社会を守る。「マトリ」とも略して呼ばれる。
こんな人にピッタリ!
正義感や責任感が強く、人々や社会のために行動できる人。ねばり強さや協調性がある人。体力に自信がある人。
どんな仕事?
「危険薬物」がらみの犯罪を食い止める
「麻薬」や「覚せい剤」は、乱用する人の心と体をボロボロにする危険な薬物。そのため、所持・使用・受け渡し・製造・栽培・輸出入が法律で規制されている。それを破る「薬物犯罪」は、家庭・地域・仕事の人間関係がこわれ、殺人などの重大な犯罪につながることもある。また、危険薬物は高額で取引されるので、暴力団など反社会勢力の資金源にもなる。昔は暴力団など限られた者が関わる犯罪だったが、現在は会社員・学生・主婦など市民の間にも広がっているようだ。そうした薬物犯罪を食い止めるために日夜活動しているのが麻薬取締官だ。
捜査、鑑定、社会復帰の手助けも
麻薬取締官は、薬物犯罪を見聞きした人からの投書・通報・報道など、さまざまな方面から情報を集める。地道な捜査によって薬物犯罪の裏付けが取れれば検挙する。取り調べで危険薬物の入手経路や関係者を明らかにして、密売組織の根絶を目指す。国際的な密売組織を根絶するために、各国の捜査機関と情報交換や捜査協力をすることもある。
容疑者が危険薬物を使用したことを特定する「鑑定」作業も、薬物の専門知識を持っている麻薬取締官の仕事のひとつだ。また、病院の「痛み止め」などに使われる法律で使用が認められた麻薬が、適正に使用・保管されているかを検査・指導・監督する。さらに、危険薬物の常習者が使用を止めて社会復帰する手助けも行っている。
危険や苦労が多く責任も重い仕事だが、それだけやりがいも大きい。密売人を検挙して危険薬物の流出を食い止めたり、過去に逮捕した利用者が刑期を終えてまじめに働いているのを知ったりすると、それまでの苦労を忘れるほどの喜びを感じるそうだ。
これがポイント!
麻薬取締官と警察官のちがい
犯罪を取り締まる仕事であることから、麻薬取締官は警察の一部門と思っている人も多い。ところが麻薬取締官と警察官は大きくちがう。まず所属する組織が異なる。麻薬取締官は厚生労働省所属。警察官は警察庁か都道府県警察の所属だ。麻薬取締官と警察官では、捜査や逮捕が許される権限の広さも異なる。警察官がさまざまな刑事事件の捜査や逮捕の権限を持っているのに対して、麻薬取締官が捜査や逮捕の権限を持つのは薬物犯罪に限られている。
一方、警察官は許されていないが、麻薬取締官だけが許されている捜査方法がある。相手をだまして犯罪を実行するように仕向ける「おとり捜査」だ。麻薬取締官は麻薬を受け取ることが法律で認められているため、身分をかくして麻薬を受け取り、それを犯罪の裏付けとして密売人を検挙できるのだ。
また、麻薬取締官も警察官も危険な相手に立ち向かうので、両方とも拳銃の所持が許可されている。麻薬取締官と警察官が、それぞれの強みをいかして協力して薬物犯罪の捜査を行うこともある。
麻薬取締官になるには「国家公務員試験」か「薬剤師国家試験」に合格する
麻薬取締官は厚生労働省に所属する国家公務員で、目指すには2つの方法がある。1つは「国家公務員試験」に合格して厚生労働省の採用面接を受けること。もう1つは「薬剤師国家試験」に合格して厚生労働省の採用面接を受けること。ちなみに、薬剤師国家試験は6年制薬学課程の卒業者だけが受験できる。
採用面接に合格して厚生労働省地方厚生局麻薬取締部に入局後、研修や実務経験を積むことになる。麻薬取締官には法律や薬学などの専門知識が必要なので、法律や薬学を学んだ学歴によって必要な実務経験の期間が異なる。大学で法学や薬学を学んだ人は実務経験はとくにない。短大や高専で法学や薬学を学んだ人は、麻薬取締に関する実務を1年以上経験する。大学で法学や薬学を学んでいない人は、薬事に関する行政事務を3年以上・麻薬取締に関する実務を2年以上経験することが法令で定められている。
また、研修では、逮捕術、拳銃の射撃訓練、外国語研修などを行う。
将来はこうなる
新しい合成麻薬が次々に生まれ、麻薬取締官の仕事も増えていく
厚生労働省の発表では、2014年から2022年まで、毎年1万2000人以上が薬物犯罪で検挙されている。現在はインターネットやスマホを利用して簡単に危険薬物を入手できるため、薬物犯罪に手を染める人があとを絶たないのだ。
最近は飲み薬のような形に加工された合成麻薬が広まり、捜査で取り上げる量も増えている。悪質な店では、危険薬物の成分に似せた化学物質をふくむ「危険ドラッグ」や、そうした化学物質を混ぜた危険な菓子などが売られている。化学物質は成分を変えると別の物質になり、法律による規制の対象外の物質になってしまうと取り締まれない。それを悪用した「脱法」と呼ばれる方法がまかり通っているのだ。そのように次々と新しい危険薬物が生まれていて、麻薬取締官の仕事も減ることはないだろう。
データボックス
収入は?
国家公務員全体の平均年収は約680万円。麻薬取締官の平均年収は約666万円。
休暇は?
基本的に週休2日制。祝日などの休日は休み。年間20日間の休暇と特別休暇もある。
職場は?
全国8ブロック(北海道・東北・関東信越・東海北陸・近畿・中国・四国・九州)の地方厚生局麻薬取締部があるほか、沖縄・横浜・神戸・小倉に支所・分室がある。また、国家公務員である麻薬取締官は、原則として全国を転勤する。
なるためチャート
麻薬取締官の仕事につくための主なルートが一目で分かるチャートだよ!