松本 健さん(北星海運株式会社/機関士)
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機関士 ってどんなお仕事 ですか?
船を動かすエンジンを整備する仕事です。ぼくが今乗っている船は、全長が169.99メートルもある大きな船なんですよ。貨物を積んだ大型のトレーラーがそのまま150台も載せることができるというと、イメージしやすいかもしれませんね。
船には「機関室」という部屋があって、エンジンはその部屋のなかにあります。メインエンジンには、大人が1人すっぽり入るぐらいの大きなピストンが8~9個もついています。メインエンジンより小さい発電機用のエンジンも3台あります。
機関室にはほかにも、船の中で使う水を作る機械もあります。
なぜかというと、船の中でもみなさんと同じようにごはんを食べたり、お風呂に入ったりするからです。海の上には電気も水道も通っていません。だから船の中で電気や水をつくる必要があるんです。
ぼくたち機関士が整備する機械は、船を安全に動かし、船の中で快適に過ごすために必要なものです。
エンジンが止まれば船は動かなくなってしまうし、電気が止まれば船の中が真っ暗になって、仕事ができなくなってしまいます。トラブルが起きないように整備や点検をすることも機関士の大切な仕事です。
機関士 のお仕事 の魅力 は何 ですか?
機械も人間と同じで、調子がいいときもあれば、悪いときもあります。機関士の世界では「エンジンは生き物だ」とよく言うのですが、本当にその通りで、手をかけてかわいがってやらないと、エンジンも機嫌を損ねてしまいます(笑)。
日々の点検や整備で、機械の調子を整えることはもちろんですが、トラブルが起きたときに素早く対応し、復旧すること、それがすべて機関士の腕の見せ所になるので、魅力を感じます。
一隻の船に乗る機関士の数は、船の大きさによって決まっていて、ぼくが乗る船には機関長とファーストエンジニア、セコンドエンジニア、サードエンジニアの4人がいます。
機関士にとって大切なのは、一人ひとりの知識や経験値、そして、年齢や立場は関係なくみんなで意見を出し合い、一致団結すること。トラブルを解決したときの達成感やチームワークに魅力を感じています。
あとは、なんといっても大きくてかっこいいエンジンにさわれるのがうれしいですね。機械を見るだけなら工場見学などでもできますが、実際に自分の知識や経験をいかして整備できるのは、機関士ならではの特権。
自分の整備でエンジンの状態が良くなると、ものすごく興奮します!
勤務体系も魅力です。機関士は3か月船に乗って1か月休むというサイクルで働きます。1か月も休みがあると、すいているときに旅行に行けるし、趣味にもたっぷり時間を使えます。
通勤のわずらわしさもないので、船の中にある自分の部屋を一歩出たらそこがもう職場。船に乗っている期間はとても長いので、リラックスして過ごせる自分の部屋があるのも魅力を感じるポイントです。
機関士 のお仕事 で、大変 なことはありますか?
大変なのは、機械トラブルがいつ起こるかわからないことです。いまお話をしているこの瞬間にも警報がなるかもしれません。警報がなると、真夜中でもどんな状況でも、すぐに駆けつけて解決するまで対処が必要です。
だから、船に乗っている間はつねに緊張しています。その分、船を降りる瞬間は心の底からほっとしますね。
なぜ機関士 になったのですか?
ぼくは福岡県の出身で、海が近くにある環境で育ちました。父が港で船の貨物を下ろす仕事をしていて、4歳年上の兄は航海士として働いているので、海で働くことに対して身近に感じていたのが大きいかもしれません。
機関士になったのは、兄にすすめられて。船以外にも陸上でも機械の整備ができるという点で選択肢が広がっていいなと思って。
中学校1年生ぐらいのときに「機関士になりたい」と思うようになり、夢をかなえるために高校は水産高校に進学しました。水産高校を卒業後、「専攻科」という水産高校の上級課程で2年間勉強して、試験を受けて機関士になりました。
目標 はありますか?
いちばんは「健康で、怪我をせずに船を降りること」です。当たり前のことかもしれませんが、海の上では何が起こるかわかりません。毎回、この目標をしっかりとやり遂げたいと思っています。
あとは、やっぱり機関長になりたいですね。
機関長になるには、知識と実力だけではなく、リーダーとしてみんなを引っ張っていくスキルも必要です。
そのために普段から意識しているのは、経験豊富な先輩の意見を参考にしながら、自分から率先して難しい作業にあたることでしょうか。
機械トラブルは起きてほしくないのですが、復旧の経験がそのまま自分の実力につながるので、「よし、来た! やるぞ!!」と、興奮する部分もあります(笑)。
ほかにも、過去に起きたトラブルを参考に、次にまた同じことが起こらないようにするためにはどうしたらいいかを考えたり、今まで整備していた機械に対して、改めて「ここはどうなっているんだろう?」と疑問をもって調べたり。
日々の仕事のなかでも成長の機会はたくさんあると考えて働いています。
機関士 になるには?
機関士 の仕事 に興味 のあるみんなへの応援 メッセージ
機関士の仕事は、海が好き・機械が好きという人にはぴったり。船上での勤務は3か月と長いですが、1か月の休みが3回ありますから、とても魅力的な仕事だと思います。
機械は自分から「ここの調子が悪い」と教えてはくれません。ちょっとした音の変化などで不具合に気づく必要があるので、集中力があって1つの作業をじっくりと長く続けられる人に向いていると思いますよ。
一途に丁寧に整備するために、機械が好き、エンジンが好きという「愛」があるのがいちばん大事かもしれません。興味のある子はぜひ機関士を目指してください!
荷物を運ぶ巨大船! 大きなエンジンの守護神「機関士」の仕事って?
取材・文/高崎薫 編集/石橋沙織 撮影/鈴木謙介 デザイン/曽矢裕子