寺田 九十九さん(北星海運株式会社/航海士)
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いったいどうやって
航海士 ってどんなお仕事 ですか?
簡単に言うと、船を安全に操船して、お客さんから預かった貨物を目的地まで運ぶ仕事です。
4時間交代で周囲の状況を監視する「ワッチ」を行いながら、船がこれから進む航路を他の船や港に示す「バース信号」を掲げて、港に安全に到着できるように操船しています。
ほかにも、貨物の管理や船の中の事務仕事もします。ぼくは天気予報のチェックや、乗組員の医薬品の管理などもしていますよ。アブログと言う「公用航海日誌」も書きます。
ぼくはおもに「RORO船(ろーろーせん)」という船の操船をしています。「RORO(ろーろー)」とは「Roll on Roll off(ロールオン ロールオフ)」の略で、「乗せて降ろす」という意味があります。
「RORO船」の強みは、トレーラー(貨物をけん引する自動車)ごと船に乗せられること。
通常だと、トレーラーから貨物を降ろして船に積んで、目的地に着いたら船から貨物を降ろしてまた別のトレーラーに積んで……という作業が発生しますが、RORO船の場合は、その作業が発生しません。
トレーラーをそのまま載せることができるから、みんながびっくりするくらい船は大きいんですよ。ぼくが今操船している「神北丸」という船は、全長で169.99メートル、重さは12,430トンもあります。
北海道から大阪までのルートで1年中運航していて、北海道でとれるじゃがいもなどの農作物や、新聞紙に使う紙などを運んでいます。
一隻の船に乗る航海士の数は、船の大きさによって決まっています。ぼくが乗っている船には、まずは船長がいて、その下にチーフオフィサー、セコンドオフィサー、サードオフィサーという3人の航海士がいます。
航海士 のお仕事 でどんなことを心 がけていますか?
航海士は、乗組員の命と貨物の安全を任されています。
天候や海の状況によって安全への対応が求められるし、他の船や海の生き物、丸太やロープなどの障害物がないかなど、つねに気を配らなくてはいけません。
電子チャートやレーダーといったさまざまな航海計器を使って、状況の変化や周囲の状況に合わせて、船を的確に操船することを心がけています。
乗組員の安全を守るには、体調管理も大切です。怪我をしたり病気になったりしても海の上ではすぐに病院には行けません。
危険な作業が伴う場合は十分な注意が必要ですし、急な体調不良でも船の中でしっかりと対応できるように準備をしておくことが大事。
今ぼくたちが運んでいる貨物は農作物や紙なのですが、預かったときの品質を維持するというのも大切な仕事のひとつです。
たとえば、温度や湿度の管理がしっかりできないと、せっかく運んでも、野菜が傷んでいたり紙が湿っていたりしてしまうんです。
船の安全な運航はもちろん、乗組員の健康や貨物の管理など、いろいろなことに気を配らなくてはいけません。
航海士 のお仕事 の魅力 は何 ですか?
何と言っても、全長で169.99メートルもある大きな船を操船できることです。航海士になったばかりのころは「こんなに大きな船を操船して、何かあったらどうしよう」と不安に思うこともありましたが、今では魅力に感じることの方が多いですね。
RORO船は、みなさんが観光や移動で使う船とはまったく違うので、初めて見た人には「こんなに大きな船を動かしているの!?」ととても驚かれます。
航海士は「ブリッジ」という、高所にある操舵室で操船やワッチをします。とても高い場所にいるので、そこでしか見られない景色が体験できることも気に入っています。
海の上から見る朝焼けや満点の星空は、言葉では言い表せないぐらいに美しいんですよ。とくに夜には信じられないぐらいの数の星が見えますし、流れ星も何度も見ています。
3か月船に乗って1か月休むというサイクルの働き方にも魅力を感じています。
船に乗っている3か月間はつねに気を張っていますが、事故なく安全に運航し、よい状態で貨物を送り届けて船から降りる瞬間に、「やり遂げた!」という達成感とともに、やりがいを感じます。
なぜ航海士 になったのですか?
ぼくは埼玉県で育ったので、海は身近にありませんでしたが、祖父が機関士で、家に船の写真がたくさんありました。子ども心に「かっこいいなあ」と思って、「これは何?」といろいろ質問していたことをよく覚えています。
祖父は自分から船の話をすることはあまりなかったのですが、ぼくが聞けばなんでも答えてくれました。それで興味をもったのが最初だと思います。
中学生ぐらいから船の仕事をしようと思って、高校を卒業し大学に進学するときに、航海工学を勉強する道に進みました。
大学では「海技士」という資格の3級をとるための勉強をしたり、乗船実習といって実際に練習船に乗って実習をしたりしました。
目標 はありますか?
毎回船に乗るたびに、乗組員の命と貨物の安全を守ることを目標にしています。航海士になって4年目になり、後輩も増えてきたので、先輩としてチームのみんなの仕事にも気を配りながら、安全第一を目指したいです。
自分の経験や知識を後輩に教えることを通じて学ぶ部分もすごく多いですね。質問されて初めて気づいたことや、自分にもわからないことがあると、そこから自分の知識が広がる楽しさがあります。
船の仕事は、それぞれの専門性を生かして持ち場を守るという責任感と信頼がベースにあって、チームワークで支えられています。食事をとるときの日常会話などのコミュニケーションを大切にしながら、チームの一員として頼れる存在になろうと思います。
航海士 になるには?
航海士 の仕事 に興味 のあるみんなへの応援 メッセージ
航海士の仕事は、好奇心や探究心のある人に向いていると思います。
陸上の乗り物では触れることがないレーダーなどの航海計器や、バラストポンプなどの船専用の仕組み、道具などがいろいろあるのでワクワクしかありません。
美しい星空や流れ星、イルカやクジラなどの海の生き物も間近で見られますよ。そういう瞬間に出会うと「航海士になってよかった!」と思います(笑)。
海や自然が好き、船が好きという子には、おもしろいと思いますよ!
ひみつの暗号で巨大船を操る! 安全運航を導く「航海士」の仕事って?
取材・文/高崎薫 編集/石橋沙織 撮影/鈴木謙介 デザイン/曽矢裕子