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【不登校新聞編集長に聞く】不登校の予兆と学校の対応

【不登校新聞編集長に聞く】不登校の予兆と学校の対応

1学期までは毎日楽しそうに学校に来ていた子が、夏休みを境に学校に来なくなった……そんなケースをよく耳にします。夏休みをはじめ、長期休暇明けに多く見られる子どもの登校しぶり、そして不登校。今回は不登校新聞の編集長を務める石井志昂さんに、学校でできる対策について教えてもらいました。

不登校の予兆のひとつは「忘れ物が多い」こと

まずは、不登校の前段階のお話から聞かせてください。夏休み明け、学校に来てはいるけれど、なんとなく様子がおかしい……という、不登校に繋がるサインのようなものはありますか?

「はい。主な不登校の予兆としては、体調不良、不眠、情緒不安、食欲不振が挙げられます。そのほか、学校で見られる様子で言えば、目に見えて元気がない、教室に入れない、保健室で過ごす時間が増えてきた、給食の時間だけ来るというケース。また、宿題や持ち物を忘れてくることが多い子も、少し注意して見ておくと良いと思います」(石井さん)

 

忘れ物が多いというのは、「夏休み前に比べて」という意味でしょうか?

「それもありますが、不登校は短期間で起こるとも限りません。たとえば、数年間ずっと学校に行くのが苦しくて、その悩みで頭がいっぱいになってしまい、忘れ物が多くなるというケースもあります。そうなると、直前の様子とは単純に比較できませんから。忘れ物が多い少ないは、子どもの特性のひとつでもありますが、不登校の予兆でもあることを心に留めておいてもらえると良いでしょう」(石井さん)

特に目を配ってほしいのは、低学年の「いじめ」

不登校になる理由はさまざまだと思いますが、なかでも先生方に気をつけておいてほしいことはありますか?

「ひとつは、まったく予兆がなくいきなり不登校になる子もいることです。入学式の翌日から学校に行きたくない、行けないという子も一定数います。たとえば、HSC(Highly Sensitive Child:ハイリー・センシティブ・チャイルド)と呼ばれる子たちで、物音やニオイにとても敏感なため、教室に居ることが苦痛なケース。学校側からすると、『親が甘やかしているのでは』と思ってしまうこともあるかもしれませんが、発達障害でなくても、特性上学校に合わない子もいるんですよね。
年齢が上がれば、少しずつ騒音に慣れてくる子もいますので、結論を急がず、そういうケースもあることを覚えておいてほしいと思います」(石井さん)

 

そのほかには、どうでしょうか。

「学年別のいじめ認知件数をご存知ですか? じつは10年前は中学1年生がもっとも多かったのに比べて、2019年度のいじめ認知件数は小学校2年生が一番多いというデータが出ています。

いじめの定義が変わり、軽度なものも含むようになったため、という理由も考えられます。ですが、子どもたちの話を聞いていると、集団で仲間外れにする、持ち物を隠す、いたずらするなど、結構深刻ないじめが多々起こっていると感じます。
ただ、それらを打ち明けてくれる子どもたちは、まだ幼いこともあって見た目がかわいらしい。それが、内容をよく聞くと、陰湿ないじめを訴えている。つまり、まだ小さいから、いじめと言うほどのことはないだろう……と見過ごしてしまいがちなのが低学年なんです。この点も、ぜひ先生方に意識しておいてほしいなと思います」(石井さん)

不登校は予防できない。できるのは、子どもに寄り添うこと

ここまでいろいろなお話を聞いてきましたが、「気をつけておくべきはあるけれど、不登校を予防することはとても難しいです。予防できないと言ってもいいかもしれません」と石井さん。

「年々、不登校になる子がすごく増えています。今まで元気で通っていた子が、急に学校に来なくなるケースがとても多い。そして、最近の特徴としては『学校に行きたくない理由が、本人もわからない』というものです。コロナの影響も、当然あるでしょう。でも、コロナって言語化しづらいですよね。
自分でも理由がわからないけど、学校に行きたくない。そんな子どもに対して学校側にお願いしたいのは、『学校復帰だけを目的とした対応はやめてほしい』ということです。文部科学省も、不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある、と述べています(※1)。
1~2年学校に行かなくても大丈夫。頭ごなしに『学校に来なさい!』と言うのではなく、子どもの苦しい気持ちに寄り添ってあげてほしいですね。あとは、夏休み明けは子どもたちも人間関係の練り直しをする時期なので、結構緊張してるんです。9月は4月や5月と同じように、子どもたち同士の関係性に目を配っておいてほしいと思います」(石井さん)

 

最後に、「文部科学省は、不登校の親同士の集いがあることを積極的に知らせてほしいという通知を出しています。私が運営している不登校新聞でも、不登校の親が集まるオンラインコミュニティを作りましたし、いざというときサポートする団体がたくさんあります。誰にでも可能性があるからこそ、子どもが不登校で悩む親御さんはもちろん、そうでない方にも知ってもらいたい。ぜひ学校からも、不登校の親が集まる場所があることをより多くの保護者に広めてほしいです」と石井さん。

 

新しい学期も、みんなが笑顔で過ごせるように。これからも学研キッズネットは、先生、子ども、保護者を全力でサポートしていきます。

 

※1:「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(文部科学省)

 

取材・文 水谷映美

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2006年から『不登校新聞』編集長。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。編著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』、『学校に行かない君へ』(ポプラ社)など。

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