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痛くないインフルエンザワクチンが接種可能にー「受験生にもおすすめ」小児科医が解説ー

痛くないインフルエンザワクチンが接種可能にー「受験生にもおすすめ」小児科医が解説ー

鼻腔(びくう)にスプレーを噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」が2023年に国内で薬事承認され、2024年秋のシーズンから接種可能になりました。対象者は2~18歳の子どもで、注射を使わない「痛くないワクチン」として、各地の小児科などで問い合わせが殺到しています。新しいインフルエンザワクチン予防の効果や副反応について、有明こどもクリニック豊洲院で院長をつとめる村上典子医師に取材しました。(写真提供:生インフルエンザワクチン「フルミスト」、第一三共)

効果が1年継続

今秋から接種が可能となった新しいインフルエンザワクチン「フルミスト」について教えてください!

フルミストは、針を使わず接種できる季節性インフルエンザを予防するための生ワクチンです。従来の不活化ワクチンと同じようにA型・B型の4種類の株が入っているスプレーを、両方の鼻にワンプッシュずつ噴霧して接種します。フルミストは日本国内で昨年薬事承認されましたが、その対象を2~18歳としています。不活化ワクチンでは2度接種する必要がありますが、フルミストは1度の接種でOKです。

従来の不活化ワクチンと比べて効果に違いはありますか?

日本小児科学会の通知では予防効果に差は見られないとしていますが、フルミストは鼻の粘膜に直接免疫ができるため、ウイルスの侵入を直接ブロックしてくれる効果も期待できると考えられます。また、予防効果が持続する期間も異なります。不活化ワクチンの予防期間は4カ月ほど。フルミストは1年間継続します。

安全性は確立されていますか?

実は鼻腔に噴霧するタイプのインフルエンザ生ワクチンは、20年以上前にアメリカで実用化され、欧米を中心に広く接種されてきました。安全性も効果も確立されています。私の勤務するクリニックでも数年前から海外のこうしたワクチンを輸入し、接種してきました。

フルミストは小さいお子さんに抵抗なく受け入れられていますか?

痛みがなく、1回の接種で完了するので、注射を嫌がるお子さんにとてもおすすめです。ただ、痛みはなくても鼻の中に噴霧される感覚を嫌うお子さんもいて、泣いてしまうと良いコンディションで受けることができなくなってしまう点は、注意が必要です。

効果の継続期間の長さに期待して、接種を検討する受験生も増えそうですね!

そうですね。受験に臨まれる人はこれまで、入試のシーズンである1~2月から逆算し、ワクチンの接種スケジュールを検討してきたと思います。ですが、人によっては3月まで受験生活が続くので、「ワクチンをいつ打つのが良いのでしょうか」というご相談を受けることも多くありました。いつ接種しても1年間の効果が期待できるので、ワクチンの接種時期を考慮する手間が省けることも大きなメリットだと思います。

不活化ワクチンからの切り替えもOK

接種を控えた方が良い人もいるのでしょうか?

妊婦や授乳中の人、免疫が弱い人、強いアレルギーを持っている人、重度のぜんそくを持っている人などワクチンを受けることが難しい人もいます。生ワクチンを接種すると一定期間鼻の中に毒性の弱いウイルスがいる状態になりますので、こうした人が家庭内にいる場合も注意が必要です。

その他、抗菌薬の「アスピリン」や抗インフルエンザ薬を服用している間も接種が受けられないことがあります。また、風邪やアレルギー性鼻炎でひどく鼻が詰まっていたり、鼻汁が出ていたりする時には接種を見合わせます。鼻腔に噴霧するワクチンなので、効果が得られにくくなるからです。

ワクチンが接種できるかどうかはその人の状況によって異なります。詳しくは接種を予定している医療機関の医師にご相談下さい。

すでに今シーズン不活化ワクチンを接種してしまいました。フルミストに切り替えることは可能ですか?

もちろん可能です。その場合は前回のワクチンから4週間あけてください。

ほかの予防注射との接種間隔についても制限はありますか?

次の生ワクチンとの間隔を4週間以上、新型コロナワクチンとも前後2週間以上あける必要があります。インフルエンザ以外の不活化ワクチンについては特に制限はありません。

フルミストの接種にデメリットはありますか?

一つは副反応です。生ワクチンには弱毒化したウイルスそのものが含まれており、副反応が強く出る傾向にあります。フルミスト接種後に、鼻づまりや鼻水が出るなど風邪や鼻炎のような症状が表れることがあります。

また、接種費用が不活化ワクチンと比較して若干高いことも挙げられます。私の勤務するクリニックでは、不活化ワクチンが2回接種して8千円に対し、1度のフルミストは9千円になります。

今後こうしたワクチンが広がっていく可能性はあるのでしょうか?

フルミストはメディアでも話題になり、クリニックでも予約開始から数日で残りわずかとなってしまいました。今シーズンはそもそもの在庫数がわずかなので、「見つけられたらラッキー」と考えてください。手軽でメリットが大きく効果にも期待できるので、今後も広がっていく可能性が大きいワクチンだと思います。

(2024年11月5日配信の記事を転載しました)

村上 典子(むらかみ のりこ)さん

村上 典子(むらかみ のりこ)さん

村上 典子(むらかみ のりこ)さん

元 豊洲みんなクリニック豊洲院院長。国立病院機構東京医療センター、イムス三芳総合病院、明理会中央総合病院の小児科で経験を積み、2019年から同クリニックで診療にあたる。3児のママ小児科医としての経験を生かし、YouTube「のりちゃんの子育てチャンネル」などで子どもの健康や子育てに関する情報発信も行う。

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