火山の噴火は、地球環境にどう影響するの?
こたえ:
地球上には約1500の活火山があり、絶えずどこかで噴火が起きています1)。ですから、日本から遠い場所にある火山が噴火したというニュースを見ることもあるでしょう。そんなとき「すごい迫力だな」と圧倒される一方で、「でも、わたしには関係ないよね」と思う人が多いかもしれません。けれども実際は、どこか遠い場所で起きた噴火は、地球全体に影響をおよぼすことがあります。
火山がはげしい噴火を起こすと、火山灰や、火山ガスにふくまれる二酸化硫黄などが空高くまい上がります※1。これらのうち比較的大きなものは、重いためすぐに地上へ落ちてきますが、「エーロゾル」(浮遊微粒子、エアロゾル)とよばれる半径が0.001~10μm(1μm=0.001mm)の小さなちりは、長い間上空にとどまり、地球全体をおおいます2)※2。エーロゾルが滞留する時間は気象条件によって変わりますが、対流圏では1週間ほど、圏界面から成層圏では数カ月~数年といわれています3)。
上空にエーロゾルの層ができると、太陽の光はエーロゾルに反射されて、地上にとどく太陽光線の量が減ります。その結果、地上が温まりにくくなり、気温が下がることになります。ちょうど日傘で日ざしをさえぎったようになるので、この現象を「日傘効果」とよびます。
たとえば、1991年6月15日に起きたフィリピンのピナツボ火山の噴火では、噴煙が成層圏までとどきました。1992~1993年になって世界の平均気温が下がりましたが、それにはピナツボ火山の噴火による日傘効果が関係しているだろうと考えられています※3。2022年1月15日には、トンガ王国のフンガトンガ・フンガハアパイ火山が噴火しました。日本にも津波が到達し、上空30kmほどでも二酸化硫黄が観測された大きな噴火でしたが、放出された二酸化硫黄の量は約40万tで、ピナツボ火山の2.3%と推定されており、気候への影響は小さいとみられます4)。
※1 フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火では、日本の気象衛星「ひまわり8号」が噴煙の立ち上がる様子をとらえました5)。観測結果をもとに作成した動画からは、放出された二酸化硫黄がフィジー付近まで拡散していくのがわかります。
※2 地球をおおうエーロゾルには、噴火によってまい上がったもの以外に、海塩や黄砂、化石燃料から放出される“すす”などの種類があります。
※3 気温が上昇した地域もあるほか、同じ時期に「エルニーニョ現象」も発生しているため、いくつかの原因が複雑に関係して気温が低下した、という見方もあります6)。
参考資料
1)内閣府「わが国の火山災害対策」『内閣府防災情報のページ』:https://www.bousai.go.jp/kazan/taisaku/index.html
2)気象庁「エーロゾルの観測」:https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/aerosolhp/aerosol_obs.html
3)国立環境研究所 地球環境研究センター「Q11 エアロゾルの温暖化抑止効果」『ココが知りたい地球温暖化』2014年3月:https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html
4)海洋研究開発機構「研究者コラム【トンガ海底火山噴火】-トンガ海底火山噴火は気候に影響を及ぼしうるか?-」『JAMSTEC BASE』2022年1月24日:https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20220124/
5)リモート・センシング技術センター「トンガ 火山噴火における二酸化硫黄相対濃度の観測」:https://www.restec.or.jp/knowledge/earthgallery/0120.html
6)早坂忠裕「特集 火山噴火災害に備える(その1) 火山噴火がもたらす気候への影響」『消防防災の科学』No.148(202年春号). 消防防災科学センター:https://www.isad.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/05/no148_10p.pdf
記事公開:2022年11月
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。