ウシのげっぷは温暖化に関係しているの?
こたえ:ウシのげっぷは、
ウシのげっぷは、メタンという気体を多くふくみます。メタンは、地球温暖化の主な原因と考えられている「温室効果ガス」の1つ(関連記事「温室効果ガスにはどんなものがありますか?」。しかも、メタンの温室効果は、温暖化の原因としてよく知られている二酸化炭素の25倍以上にもなります※1。ですから、ウシのげっぷは地球温暖化の原因の1つだといえるのです※2。
ウシと同じように、ヒツジやヤギ、シカなども、げっぷでメタンを排出しています。これらの動物に共通するのは、胃を4つ持つ「はんすう動物」であること。はんすう動物は、いちど食べた物を胃から口へ何度かもどして、ゆっくりと消化していきます。そのとき、1つ目の胃の中にいる微生物のはたらきでメタンが発生し、げっぷとして大気中へ出ていきます1)。
1頭のウシは、1日に300Lものメタンを排出します(体重が約600kgのウシの場合)。また、日本の農林水産分野(農業、畜産業、林業、漁業)で排出される温室効果ガスの量は、約4747万t(2019年度)2)。そのうち約16%に当たる約756万tが、ウシなどの家畜のげっぷで排出されたと考えられています。さらに世界全体でみると、家畜が出すげっぷにふくまれるメタンは、温室効果ガスの4%を占めます。
こうしたデータを見ると、なんだかウシが悪者のようで「かわいそう」と感じる人もいるかもしれません。そんな人も安心してください。今、ウシから出るメタンを減らそうという取り組みが進んでいます。
たとえば、日本の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、メタンの排出が少ないウシを研究しています3)。ほかには、ウシから出るメタンを減らせるエサもあります。北海道大学などは、カシューナッツの殻から取れるエキスをエサに混ぜてウシに食べさせると、胃でつくられるメタンの量が少なくなることを発見4)。すでに、このエキスを配合したエサが販売されています。
※1 物質の温室効果を表す指標に「温暖化係数」(Global Warming Potential:GWP)があります。これは、その物質が地球を温暖化させる能力を二酸化炭素と比べた数字で、メタンのGWPは25(100年間での影響を計算した場合)。つまり、メタンを1t排出すると、二酸化炭素を25t排出したのと同じくらいの影響があるのです。
※2 世界気象機関(WMO)や国連環境計画(UNEP)によって設立された組織「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、2021年8月に公表した第6次評価報告書(AR6)で、気候に影響を与えているものの1つに「牛のげっぷ」をあげています5)。
参考 資料
1) 農業・食品産業技術総合研究機構『農研機構ガイドコミック』「第4話 牛のげっぷと地球温暖化」:http://www.naro.affrc.go.jp/org/nilgs/guidecomic/04/index.html
2)農林水産省「気候変動に対する農林水産省の取組」.2021年7月:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/attach/pdf/index-34.pdf
3)農業・食品産業技術総合研究機構「(研究成果)乳用牛の胃から、メタン産生抑制効果が期待される新規の細菌種を発見–牛のげっぷ由来のメタン排出削減への貢献に期待–」.2021年11月30日:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nilgs/144910.html
4)小林泰男『ウシからのメタンガス排出低減をもたらす素材
「カシューナッツ殻液」の発見とその活用』〔出光興産 カシューナッツ殻液のすすめ〕.2021年9月28日:https://www.idemitsu.com/jp/business/agri/product/raising/cnsl_lp/news_details15.html
5)環境省「IPCC AR6 特別報告書」:http://www.env.go.jp/earth/ipcc_ar6_sr_pamphlet.pdf
監修者 :大山 光晴
1957