こたえ:「気嚢」が肺のはたらきを助けています。
地球上の動物は、呼吸をしながら生きています。魚類や両生類の子どものように水の中で暮らす動物は、呼吸にえらを使い、それ以外の動物は肺を使っています。
ところが、同じ肺呼吸の動物でも、地上で暮らす哺乳類と空を飛べる鳥類では、呼吸の仕組みがちがいます。もっとも大きなちがいは、肺のはたらきを助けるのに、哺乳類が横隔膜を利用し、鳥類が「気嚢」を利用することです1)。
気嚢は、うすい膜でできたふくろ状の器官で、空気をためたり送り出したりする役割をもちます。多くの鳥には9つの気嚢があり、それらは、肺の前につながる「前気嚢」と後ろにつながる「後気嚢」に分けられます。
気嚢を使った呼吸では、以下の(1)~(4)のように空気が一方通行で肺を通過します。
(1)息を吸う①:鼻や口から入ってきた新鮮な空気は、気管や気管支を通って後気嚢に送られます。一部は、そのまま肺に入ります。
(2)息をはく①:後気嚢の中の空気が肺に送り出されます。肺までとどいた空気は、血管に酸素をわたして二酸化炭素を受け取ります。
(3)息を吸う②:肺の中にある二酸化炭素を多くふくむ空気は、後気嚢からやって来た新しい空気に押し出されて前気嚢へ向かいます。
(4)息をはく②:前気嚢がちぢみ、たまっていた二酸化炭素を多くふくむ空気は、気管支や気管を通り、鼻や口から体の外へ出ていきます。
この仕組みでは、呼吸のたびに肺の中の空気が入れかわり、酸素濃度(一定の量の空気の中にふくまれている酸素の割合)の高い空気を取り入れられます。このように、むだなく酸素と二酸化炭素を交かんできるため、鳥は空気がうすい高いところでも飛べるのです。たとえば、アネハヅルやインドガンは、標高が8849mのエベレストの上空を飛ぶことが知られています。
気嚢を使った呼吸の仕組みは、「獣脚類」とよばれる恐竜にもあったことが分かっています2)。
恐竜が繁栄したのは、三畳紀(約2億5100万年前~約2億年前)の後期からジュラ紀(約2億年前~約1億4500万年前)。このとき地球では、大気の酸素濃度がかなり下がっていました。三畳紀の前のペルム紀(二畳紀、約2億9900万年前~約2億5100万年前)に30%以上だった酸素濃度は、約2億年前には15%以下まで低下したそうです3)。それによって、ペルム紀に繁栄していた哺乳類の祖先の多くが絶滅しました。
かわって栄えたのが、獣脚類。この獣脚類が鳥類の祖先です。古生物学者の中には「気嚢を使った呼吸の仕組みは、大気の酸素濃度が下がった時代に獣脚類が進化させた」と考える人もいます。
※ 地質年代は、『理科年表 2022』(国立天文台/編.丸善出版/刊.2021年11月)にのっとっています。
記事公開:2022年2月
参考資料
1)フランク・B.ギル/著,山階鳥類研究所/訳,山岸哲/日本版監修『鳥類学』.2009年.新樹社
2)「進化:原始的獣脚類にもあった鳥類の呼吸器系」『Nature』.2005年7月14日号.ネイチャー・ジャパン:https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/4516
3)長谷川政美『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』.2014年.ベレ出版
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。