こたえ:エンジンによる推進力で進み、翼がつくる揚力で浮かびます。
空を見上げて、ぐんぐん進んでいく飛行機をながめていると、「なぜ、あんなに大きくて重い飛行機が飛べるんだろう?」と不思議になりますね。たとえば、最大800人以上が乗れるオール2階だての旅客機「エアバスA380」(Airbus A380)が離陸できる重さは最大で560tです1)。新幹線「E7系」は12両編成で約540t(空席時)。つまり、新幹線1編成と同じくらいの重さのものが時速910kmのスピードで空を飛んでいるのです。
飛行機が空を飛んでいるとき、機体には大きく分けて4つの力がはたらいています。4つの力とは、前に進む「推力」(推進力)、後ろへもどそうとする「抗力」、機体をもち上げる「揚力」、地球が下へ引っ張る「重力」です2)。抗力より推力が大きければ前へ進み、重力より揚力が大きければ機体は空に浮かび上がります。
このうち推力を生み出すのが、エンジンやプロペラです。エンジンがプロペラを回転させると、空気が後ろに吹き出します。また、ジェットエンジンは勢いよくガスや圧縮された空気を後ろに吹き出し、その反動を利用して前に進みます*3)。このように、液体や気体を吹き出すことで逆方向に進むことを「ジェット推進」とよび、飛行機だけでなくロケットにも利用されています。生物の世界では、イカやホタテもジェット推進で進みます。
次に、揚力について見てみましょう。揚力とは、物体が空気や水の中で動いたときに、流れる空気や水から物体にはたらく力のうち、進行方向に垂直な力のことです。前進する飛行機の場合、揚力は真上に向かってはたらくので、重力より大きな揚力が発生すれば機体がもち上がることになります。では、飛行機ではこの揚力を、どのように発生させているのでしょうか。
揚力を生み出すのは、胴体から左右に伸びた主翼です。主翼は、機体が前進すると下面に比べて上面の空気の圧力が小さくなるようにつくられています。このように圧力に差ができると、主翼は圧力の小さい方に吸いよせられて浮かびます。これが揚力の正体です。
主翼の構造は、飛行機の機種によってさまざま。その飛行機が飛ぶのに必要な揚力を効率よく生み出せるように、設計者は主翼の形や大きさ、角度などを工夫しています。
ところで、なぜ、主翼の上面と下面で空気の圧力が変わるのでしょうか。これについては、いくつかの考え方があります。どれも大学などで学ぶ難しい内容なので、まずは「主翼の上面の空気の圧力が下面より低くなると、主翼が上方向に吸いよせられる」と覚えておきましょう。
前進する飛行機では、揚力は上向きにはたらきますが、下向きにはたらく揚力もあります。高速で走るレーシングカーに上向きの揚力がはたらくと、車体が不安定になり、スリップしたり横転したりする危険性が高まります。そこで、飛行機の翼を逆さまにしたような形の部品「ウイング」などを利用して下向きの揚力(ダウンフォース)を発生させ、車体を地面におし付けます。これによって、安定した操縦が可能になるのです。
* このように、物体Aが物体Bに力を加えると、同時に物体Bから同じ大きさで逆向きの力を受けるという原理を「作用・反作用の法則」といいます。これについては、中学校で学びます。
記事公開:2021年10月
参考資料
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。