子どもに関わる政策を取りしきる新しい国の組織「こども家庭庁」が2023年4月にできました。「子どもにとっていちばんよいこと」を考える社会になるように取り組む組織で、あわせてスタートした制度に「こども若者★いけんぷらす」があります。この制度は、国が子ども政策をつくるときに、子どもたち自身の意見を聞いて、内容にいかすための仕組みです。子ども政策を進めるときに大事にすることを定めた「こども大綱」づくりでも早速、活用され、子どもたちから直接意見を聞く機会が設けられました。どのように子どもたちから意見を聞くのか、その様子をレポートします。
子どもの意見を国の政策に生かす制度 海外ではどうなっている?
子どもは誰でも参加できる「こども若者★いけんぷらす」
こども若者★いけんぷらすは、小学生から20代まで誰でも登録して参加できます。各省庁が子どもたちの意見を聞きたいテーマや、子どもたちが国に対して意見を言いたいテーマについて、国と子どもたちをつなぐ場を用意します。直接会って話をする対面式や、インターネットを利用して画面越しに話を聞くオンライン式、Web上でアンケートに記入して答える形など、意見を聞くさまざまな方法が用意されています。こども家庭庁や各省庁側から、子どもたちのところへ出向いていって、話を聞くケースもあります。集まった子どもたちの意見については、どのように制度にいかされたか、いかされなかったかを、その理由と合わせて公表することになっています。
これまで各省庁から要望のあったものなど20以上のテーマで、意見を聞く場が開かれています。
意見を聞く場は、どんな様子?
こども大綱づくりのため、こども若者★いけんぷらすの制度を使って子どもたちから直接意見を聞く場が東京都のこども家庭庁が入るビルでありました。その様子をレポートします。
子どもたちの緊張をやわらげる仕掛けがたくさん
会場は、学校の教室2つ分くらいの広々としたスペース。参加する子どもたちが少しでもリラックスできるように、壁やホワイトボードに絵などで飾りつけがしてありました。
今回の参加者は小学生から20代までのおよそ30人。年齢が近い人たちごとに6つのグループにわかれ、それぞれのグループで決められたテーマについて意見を出し合います。
意見を出し合う場ではいくつかルールがあり、ほかの人の意見を否定したり、さえぎったりしてはいけません。そのほかは、自由に発言していいし、言いたくないことは言わなくてもよく、一度言ったことを取り消したり変更したりもすることができます。
子どもにわかりやすい言葉で
参加者には事前に、自分が意見を言うテーマと、そのくわしい内容について知れる説明会が開かれていました。国の政策についてのもともとの資料は大人向けなので、難しい表現や専門的な言葉がたくさんあって、そのままでは子どもたちには伝わりにくいです。こども若者★いけんぷらすでは、子どもたちがテーマについて理解しやすいように、事前の説明や資料の言葉を、子どもたちでも分かりやすいように、やさしく言い換えて伝えてくれます。
ていねいに意見を引き出す進行係
ルールを全体で確認したあと、いよいよグループごとに話し合いが始まりました。すべてのグループには、話し合いを進行する係(ファシリテーター)と、出された意見を記録する係が付きます。子どもたちと進行係、記録係で丸くなって座ります。みんな初めて会う人どうしなので、まずはクイズ形式で自己紹介をするなどして、緊張をやわらげてもらい、話をしやすい雰囲気づくりをします。参加者はニックネームで呼び合うのですが、これも、親しみやすくして心の距離をちぢめる仕掛けのひとつです。
小学校低学年のグループでは「こどもまんなか社会」がテーマ。「こどもまんなか社会」についてどう思うか、よいところや、もっとこうしてほしいということを、子どもたちから聞きました。
単純に「どう思う?」「なにか意見がある?」と聞いても、子どもたちからはなかなか言葉はでてきません。そこで重要なのが、進行係です。進行係は、こういった話し合いを上手に進めるためのコツを学んだ大人や若者たち。具体例を出してイメージしやすくさせたり、子どもたちがうまくまとめて話せなくても「つまり、こういうことかな?」と整理してくれたりします。
最初は「こどもまんなか」について「周りの大人に見張られてるってことかな」などと、その意味をうまくつかめていない子もいました。進行係が「何があるとうれしい?」「困っていることはない?」「どうしたら毎日が過ごしやすいかな?」と質問を重ねていくなかでイメージがつかめていったようでした。だんだんと「学校の校庭を芝生にしてくれたら転んでもケガが少なくてすむ」「公園とか遊べる場所が増えてほしい」「習い事へ行くときに使う乗り物代とかを安くしてほしい」といったいろいろな意見が出るようになっていきました。意見は、記録係が大きな白い紙に書き出して、グループのみんなで確認できるようにしていました。
ほかの人の意見で自分の考えも広がる
小学生高学年と中学生のグループでは、こども施策 の進め方がテーマでした。「困っている人には、その人にあったサポートをする」という方針については、実際の友だちの例をあげながら「学校に行きたくないけど、家にもいたくない人の居場所をつくってほしい」という意見がでていました。さらに「ひとりひとり必要なこと、足りないことは違うから、その凸凹を埋めるように、それぞれにあったサポートをしてほしい」「友だちや先生には相談しにくいことがあるので、スクールカウンセラーみたいな第三者で相談できる人を増やしてほしい」といった意見にもつながり、おたがいにうなずきあうなど参加者どうしのやり取りも活発でした。
話し合いは、1時間あまり行われ、意見を書き出す白い紙にもびっしり言葉が並びました。これらの意見はまとめられたあと、こども大綱にいかされました 。最後に各グループの代表者が感想を発表して、意見を聞く場は終了。感想では「意見を出し合えて楽しかった」「ほかの人の意見を聞けて、自分の考え方が広がった」「次は年齢がはなれた人とグループになって話し合ってみたい」といった声がでていました。
こども若者★いけんぷらすは、進め方を考える運営メンバーに10~20代の子ども・若者世代も入っています。どうしたら、子どもたちが本音を話しやすいか、会場づくりや話し合いの進行が考えられていました。やわらかい雰囲気の中で、子どもたちものびのびと意見を伝えていたようです。
参加した子どもたちの思いは?
「未来のために役にたてたらいいな」
今回参加した子どもたちは、どんな思いで意見を言いにきてくれたのでしょう。
お母さんにこども若者★いけんぷらすのことを教えてもらったという小学1年生は、「日本のこと、子どもの未来のことを一緒に考えてみよう」と家族で話し合ううちに、「みんなの前で話したいことができてきた」そうです。そして、それを伝えるために今回参加して、意見を言って、またほかの参加者の意見を聞けて「とっても楽しかった」と言います。
同じく家族のすすめで参加した小学2年生は、「緊張してしまって、あまり話せなかった」と少し悔しさもあったようですが、「いい経験ができた」と振り返りました。
学校のいじめ問題に関心があるという小学3年生は、「自分の意見を持って、世界の役に立つことがあればいいな」と思って参加。やはり、お友だちや自分がたくさん意見を話せたり、それを聞いてもらえたりしたことが「うれしかった」とのこと。そして「子どもにも国の政策づくり参加する権利があると感じられたのがとてもよかったです」と感想を教えてくれました。
自分たちの意見がどう取り上げられたのかがわかる!
子どもたちから出た意見は、実際にはどのようにこども政策にいかされたのでしょうか。
その結果は公表されていて、新たに取り入れられた意見、すでに取り入れてあった意見、今回は取り入れられなかった意見という、大きく3グループに分けてまとめられています。
例えば今回、子どもたちから出た意見で新たに取り入れられたものとしては「塾にかかる費用を援助してほしい」というものがありました。この意見を受けて、こども大綱には、自治体が行う無料学習塾の支援などに取り組むことが追加で書き込まれました。また「教科書をデジタル化してほしい」という意見があったため、デジタル教科書の活用を進める内容も盛り込まれました。
一方で「高校を無料にしてほしい」との声については、授業料や授業以外の費用を支援するが「無料にする」とまでは踏み込まず、取り入れられなかった意見となりました。
結果が公表されることで、意見を出した子どもたちからすれば、自分の意見を聞いて、どうするか考えてもらったことがわかり、納得感や満足感につながりそうです。
結果の詳しい内容は、下にリンクを張った資料で確認できます。
こども・若者、子育て当事者等の意見を聴く取組の実施結果及びフィードバックについて
みんなも意見を伝えられる
こども若者★いけんぷらすを通じて、国に自分の意見を伝えることは、みんなにもできます。子どものための政策をつくることに、子どもたち自身の意見は欠かせません。みなさんの意見で、社会が今より少しよくなるかもしれません。少しでも関心をもったら、こども若者★いけんぷらすへの登録は、こども家庭庁のHPからできます。16歳になっていない人は、保護者の同意が必要です。登録のときには、健康保険証など年齢が分かる書類も求められます。
こども若者★いけんぷらす
こども家庭庁HP