ロシアがウクライナへ侵攻した問題について、学研キッズネットは、子どもたちと、キーウから日本へ避難している学生のトライノ・アニャさん、神戸学院大教授の岡部芳彦さんを交えた座談会を、2023年3月にオンラインでおこないました。座談会に参加してくれたのは、探究心あふれる学研キッズネットの探Qキッズのメンバー3人。侵攻前後のウクライナの様子や日本での避難生活のこと、ウクライナ文化について直接お話を聞ける貴重な機会となりました。その様子を収めた動画と、その中での主なやり取りを紹介します。
ロシアのウクライナ侵攻の詳しい説明はこちら
参加者
岡部芳彦さん(神戸学院大教授、ウクライナ研究会会長)
トライノ・アニャさん(キーウからの避難学生)
夏向さん(探Qキッズ、小学5年生)
悠平さん(探Qキッズ、中学1年生)
耕造さん(探Qキッズ、小学3年生)
進行:佐々木晋作(学研キッズネット編集部)
※画像の上段中央から時計回りの順
プログラム
①ウクライナの最新情勢(岡部さん)
②侵攻前後のウクライナの様子(アニャさん)
③日本への避難と避難生活(アニャさん)
③侵攻問題全体について
④ウクライナ文化について
⑤感想
ウクライナの厳しい状況が続く
座談会では、まずロシアのウクライナ侵攻のはじまりや影響などをおさらいしました。続いて、岡部さんからウクライナの最新情勢について教えてもらいました。
岡部さん
2023年に入って、ウクライナ東部のバフムトという町を中心に戦闘が続いています。少しウクライナが劣勢です。欧米諸国から戦車などの支援が行われていて、また少し流れが変わるかもしれません。市民生活は、発電所が攻撃されて電気供給が止まるなどしましたが、今年はヨーロッパ全体が暖冬だったので大きな影響はでませんでした。とはいえ、ウクライナの人々はまだまだ落ち着かない日々を過ごしているのが現状です。
ニュースより早く、爆弾の音で侵攻を知る
アニャさんから、ロシアが侵攻した2022年2月24日前後のことを聞きました。日本のテレビや新聞などの情報だけではなかなか知ることが難しい、当事者ならではの気持ちが伝わる話に子どもたちは真剣に耳を傾けていました。
アニャさん
ロシアが襲ってくるという噂はありましたが、本当に侵攻が始まるとは誰も信じていませんでした。2月24日の夜明け前にロシアが侵攻してきたので、本当に大きなショックでした。外から爆発音が聞こえ、これはもう戦争が始まったことは間違いないと分かりました。侵攻を伝えるニュースが翌朝に流れましたが、それも必要ないくらいでした。
すごく混乱した状況で、いま振り返ってみても、いろいろなことを覚えていません。あまり考えずに、いま必要なことをしていました。食事や避難の準備をして、あとはニュースだけを見ながら状況を確認していました。空襲警報が出れば避難して、そして空襲警報が出ていないときは避難に備えて準備をするという生活でした。
一番混乱していたのは最初の1ヶ月ぐらいです。どんな状況に置かれたとしても人生は続いていくので、空襲警報がないときは以前通りの生活を送ろうとしていました。
食料については侵攻直後も安定していて、食べるものには困りませんでした。
あこがれの日本に来られたのはうれしい、でも戦争という理由が悲しい
アニャさんは2022年6月に、お母さんと日本へ避難してきました。現在は、神戸学院大学に通う避難学生として、岡部さんの下で勉強をしています。アニャさんに、どうやって日本へ避難してきたのかや、日本での生活、日本文化などの印象について聞きました。
アニャさん
私とお母さんは侵攻後1週間ほどで、チェコに避難しました。チェコには知り合いがだれもいない状況でしたが、ボランティアを通じて、受け入れてくれる家族を見つけもらって3ヶ月くらい寝泊りさせてもらえました。その人たちに今でも本当に感謝しています。
その後、お母さんが所属しているバレエ団を通じて、日本への避難の誘いを受けました。私も大学で日本語を勉強していたので、うれしい話だなと思い、日本に来ました。
子どものころから日本の文化、日本のことが好きだったので、戦争に関係なく、日本へ来るのはずっと夢でした。そして実際に日本に来て、あこがれていた国を見ることができてうれしいなという思いと、日本に来ることになった理由が戦争だったので、それはかなりうれしくないなという二つの思いがあります。
ウクライナには「勝ち」しかない
アニャさんのお話を通して戦争という状況の中に置かれたウクライナの人々の詳しい様子について知ったあとは、侵攻問題全体のことへテーマを広げて、疑問や気になることを、アニャさん、岡部さんに聞きました。
耕造さん
ウクライナに対して周りの国が支援をしてくれている状況について、どう思いますか。
アニャさん
ウクライナには、武器とか戦車とか、戦力は全くなかったので、自分の国を守ることはかなり難しい状況でした。だから、軍事支援を受けてウクライナは大歓迎だと、個人的に思えます。それは私たち自分自身を守る武器となることもあるからです。
悠平さん
侵攻についての日本でのニュースは、偏った内容ではなく、真実を放送していますか。
アニャさん
事実か、すごく事実に近いことを伝えていると感じます。日本ではみんなを傷つけないように、街が破壊されたり、人の命にかかわったりするような場面で放送しないものはあっても、偏向しているとは思いませんでした。
岡部さん
日本ではアメリカなど西側の情報が流れていると言われますが、今はインターネットを使えば、世界中の情報をどこからでも取れますよね。言葉が分からなくてもネットの翻訳機能も使えます。実はロシアのニュースはオンラインで24時間、タダで見られるんです。では日本でどうしてそれが流れないのかというと、内容が非常にセンシティブで、罵倒するような内容とかで…。たぶんテレビのニュースなどでは流せないという大きな理由もあるのではないでしょうか。
夏向さん
ウクライナは勝てそうですか。
アニャさん
はい、私たちは絶対勝ちます。みんなは迷いもなくて、ウクライナ人にとって、「勝ち」しかないということです。
岡部さん
クリミア半島を含めて、ロシアに取られた領土を全て取り戻すというのがウクライナ側の目標です。ただ、できるかどうかは分かりません。
ロシアは、本当は半年ぐらいでウクライナを自分のものにしようと考えていたのではないかと言われています。もちろん今も達成できていないので、ロシア側ももともと考えていたのと違う方向に進んでしまっていて、全てが想定外の事態なのではないでしょうか。
100年以上前から日本とつながり
いまウクライナは、侵攻問題という悲しい出来事に注目が集まっていますが、今回は戦争とは関係のない、素敵なウクライナの一面も学ぼうと、アニャさん、岡部さんにウクライナの文化を紹介してもらいました、日本と共通するところも、ちがっているところもあって、子どもたちはウクライナのことはもちろん、日本についてもあらためて気づくことがあったようです。
岡部さん
ファミレスなどのメニューにあって日本でもよく知られるボルシチという料理は、ロシアの料理と言われていましたが、これはウクライナが発祥。ウクライナから物が入ってくるときは一度、ロシアに入って、ロシアから日本に来ていた。それは100年ぐらい前のことで、それくらい前から、日本とウクライナには深い関係があった。
アニャさん
ウクライナ料理にはボルシチのほか、ヴァレニキもあります。ギョーザに似た月形で、皮の中には肉とか野菜とかチーズ、チェリーも入れます。ほかにもキーウカツレツも有名です。肉料理で、切ると中からバターが流れ出てきてすごくおいしくて、私も大好きですね。
ウクライナも日本と同じで四季があります。日本は湿気が多いけど、ウクライナは湿気が少ないので、例えば暑い夏も日本よりもウクライナの方が過ごしやすいですよ。
悠平さん
ウクライナにあるもので、日本にもあったらうれしいものがありますか。
アニャさん
すごく難しい質問です。隣に住んでいるウクライナ人とも相談してみたんですけど、ウクライナにあるもので、日本にないものは見つからなかったです。
反対に、日本からは紅葉の木、桜の木を持って行きたいですね。
ウクライナのことを考えるだけでも支えになる
座談会の最後には岡部さん、アニャさんから子どもたちへ一言いただきました。
岡部さん
ロシア・ウクライナ戦争がきっかけかもしれないですけれど、何かのご縁があって、ウクライナに関心を持って、座談会に集まっていただいたと思います。ウクライナ語もアニャさんから少し教えてもらったので、それを覚えていただいて、次にウクライナ人の人と会ったら、話しかけてみていただけたらなと思います。平和になったら、キーウの名所もぜひ訪れていただきたいです。それまでウクライナのことを忘れないでください。
アニャさん
ウクライナのことに、そしてウクライナに起こっている悲しい状況に関心を持っていただいて、本当にありがとうございます。私にとっても、ウクライナの人々にとっても、その思い、考えることだけでも支えになりますから、ぜひ私たちのことを思って支えてください。
アニャさんのウクライナ語講座
座談会の後半では、アニャさんが簡単なウクライナ語を、みんなに教えてくれました。その部分を、本編の動画とは切り分けた動画にしました。アニャさんが座談会のために制作してくれたスライドも紹介していますので、ぜひ、ウクライナ語に触れてみてください。