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2022年を振り返る「教育トピック・ニュース」7選【専門家が解説】

2022年を振り返る「教育トピック・ニュース」7選【専門家が解説】

2022年はどのような1年でしたか?学校では、屋外でのマスク着用や給食時の「黙食」が緩和されるなど、新型コロナウイルス感染症への対応に変化が見られました。

また、成人年齢が18歳に引き下げられるなど、今後の子どもたちを取り巻く環境に大きな影響を与えるニュースも。そんな2022年に押さえておきたい教育トピックを、学研キッズネット編集部がセレクト。専門家のコメントとともに振り返ります!

2022年の「教育トピック・ニュース」を専門家が解説

今回お呼びしたのは、学研キッズネットにも何度かご登場いただいている、エイスクール代表の岩田拓真さん、学研教育総合研究所、教育ジャーナリストの中曽根陽子さん。それぞれの視点から、2022年の教育トピックやニュースについてコメントをいただきました。

「生徒指導提要」約12年ぶりの改訂で大変化

小学生から高校生の子どもと関わる教職員のために作られた「生徒指導提要(せいとしどうていよう)」は複雑化する現代の子どもたちを守り、支えていくうえで欠かせない情報がつまっています。

約12年ぶりの今回の改訂では、「子どもの権利」に関する明記がされ、性的マイノリティ(LGBTQ)とされる児童や生徒への支援に関する項目などが追加されました。

また、発達障害のある子、外国にルーツのある子、ヤングケアラーや貧困状態にある子など、子ども一人ひとりの多様な背景への配慮についても記載されているほか、「校則」についての見直しがされたのも大きなポイントです。

今回の改訂で注目したいのは、「校則見直しの過程に児童・生徒が関わること」が明記された点です。

子どもの人権を侵害する恐れがある“ブラック校則”が見直されること自体重要ですが、それを学校・教員主導でやってしまっては本質的には何も変わりません。

「自分たちのルールは自分たちでつくる」というマインドが子どもたちの中に醸成されれば、校則だけでなく、学校生活、行事、部活動のあり方など、学校づくり全体に子どもが主体的に関わっていく流れが生まれるでしょう。

これを機に、子どもの主体性に火をつけていけるかどうかが問われていると思います。

いじめ・不登校が過去最多に

文部科学省の調査によると、いじめ認知件数は、コロナ禍の影響で子ども同士の関わりが少なくなった2020年には大幅減少したものの、学校や部活動の再開とともに再び増加。

2021年は61万5351件と過去最多となりました。SNSやオンラインゲーム上で行われる「ネットいじめ」も初めて2万件を超えています。

悩む小学生

また、不登校児童・生徒数も24万4940人と過去最多に。子どもの数は減少しているにもかかわらず、9年連続で増加。とくに小学生の増加率が高く、「無気力、不安」、「生活リズムの乱れ、遊び、非行」、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が主な原因となっています。

「いじめ防止対策推進法」が公布されてから、間もなく10年。現代の子どもたちを取り巻くいじめの傾向は、SNS上での誹謗中傷や仲間外れ、周囲からは仲がよいと思われているグループ内での嫌がらせなど、複雑化しています。

こうした状況を受けて、改訂後の「生徒指導提要」は、いじめや不登校などへの対応について200ページ近くを割いていて、当事者や担任だけで問題を抱え込むのではなく、学校、家庭、地域を巻き込んだ「チーム学校」での解決を目指すことを基本に、多くの事例や解決策が示されました。

たとえば、いじめについては、被害者保護を優先し、「誰も助けてくれない」という無力感を取り払うこと、支援者として「必ず守る」という決意を伝えることなど、具体的なケアの姿勢を掲載。問題解決に向けた強い思いを感じる内容になっています。

「中学受験者数」が過去最多。新しい入試の広がりも

首都圏模試センターによれば、2022年の首都圏の私立・国立中学校の受験者総数は約5万1100人。バブル景気のピーク時であった1991年をも上回る、過去最多人数となりました。

公立中高一貫校のみを受験したとされる人数を含めると、総数は推定6万2100人。小学6年生の約4.76人に1人が中学受験をした計算になります。模試の受験者が増えていることからも、2023年はさらに受験者数が増えると予想されています。

都心の子どもの数が増えていることと、子どもに少しでもよい教育環境を与えたいという親が私学の教育を評価したことが、受験者数増加につながっていると言われています。

そんな最近の中学受験の特徴は、最難関校よりも中堅校の志願者が増えています。有名大学への進学実績や偏差値ではなく、さらに先の社会で必要とされる力を視野に入れた教育が重視されているように感じています。

入試のあり方も多様化し、私立の中学入試では、算数国語の2科目か、理科社会を加えた4科目入試が主流の中、小学校での英語必修化に伴い英語入試を行う学校が増えました。

中学受験

また、2022年には、公立中高一貫校との併願を視野に入れた適性検査型入試、プレゼン型入試、グループワーク型入試などの「新タイプ入試」を実施する学校が150校と6年間で倍増しています。

このような新しい入試への今後の広がりを願うとともに、塾主導の偏差値的価値観に囚われた受験から、自ら選択する主体的な受験への変化を期待しています。

深刻化する「教員不足」による「教員免許更新制」が廃止

2021年、文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクトがSNSで炎上したニュースは記憶に新しいかもしれません。教員という仕事の魅力の発信がリレーされていくことを想定して始めたものの、過酷な労働状況に苦しむツイートであふれる結果に……。

じつはこのプロジェクトが行われた背景には、深刻な教員不足問題がありました。2022年の対策で話題となったのは教員不足に対する緊急通知。教員免許はないけれど知識や経験があるという人を採用する「特別免許状」の積極的な活用などを促しました。

また、負担増加やうっかり更新忘れにより不満の声があがっていた「教員免許更新制」の廃止が決定。10年に一度受講することを求められていた免許更新講習が不要になり、更新されずに失効してしまった教員免許も2023年7月から復活することになります。

文部科学省が初めて実施した「教員不足」に関する実態調査は、その要因についても言及しています。

ひとつは、産休・育休取得者数、特別支援学級数、病休者数の増加に伴って、見込み数以上に必要教員数が増えたこと。もうひとつは、臨時的任用教員のなり手不足です。しかし、こうした非正規教員への依存構造を問題として指摘する声もあります。

また、2020年度の教員免許状授与数は5年連続で減少し、20万件を割り込みました。長時間勤務の実態などから学生の教職離れが進んでいるとも言われています。

こうした状況を受けて、文部科学省は「教員勤務実態調査」を開始。民間企業での働き方改革が進む中、教員の働き方改革が進み、新しい学びへと向かっていってもらいたいものです。

小学校高学年の一部の教科で「教科担任制」がスタート

2022年4月から、小学校高学年の一部の教科で教科担任制が始まりました。小学校では担任教員が全ての教科を教える「学級担任制」が一般的でしたが、中学校や高校のように教員が専門教科を持ち、担任しているクラス以外でも指導することになります。

教室

まず、教員の負担軽減や授業の質向上以外にも、子どもにも担任以外との関わりが増えるというメリットが期待できます。

また、中学校と同じように複数人の教員から授業を受けるスタイルに慣れることが、中1ギャップの解消につながるとも考えられています。

算数、理科、英語(外国語)、体育の4教科が先駆けて教科担任制になります。その他の教科は今まで通りクラス担任が受け持つことになるでしょう。

現段階では教科担任制には、さまざまなメリットがあるとされていますが、一方でデメリットがあることも忘れてはいけません。

たとえば、担任しているクラスの子どもとのコミュニケーションが減り、子どもの変化に気づきにくくなることが心配されています。また、教員数の確保も大きな課題。政府は教科担任制を推進していくために、4年間で3800人程度の教員増を見込んでいます。

岐路に立つ日本の「特別支援教育」

2022年、文部科学省の調査で、公立小・中学生の8.8%、高校生の2.2%に発達障害の可能性があることがわかりました。通常学級に在籍しながら週に数時間だけ別室で学ぶ「通級による指導」を利用する子どもも増えています。

通級指導教室は学校や支援内容によって呼び方が異なるため、「ことばの教室」「学びの教室」などの名称でご存じの方もいらっしゃるかもしれません。主に言語障害(チック症、吃音など)や、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などのある子が利用しており、学校生活や学習でのつまずきに合わせた個別学習や小グループ学習が行われています。

また、文部科学省は特別な才能がある「ギフテッド」と呼ばれる子どもたちの支援についても検討を重ねています。

通級による指導を受けている小・中学生や高校生は、全国で約16万人と過去最多を更新。その背景を、文部科学省は発達障害のある子が増えていることや、通級による指導の認知度向上にあると考えています。

一方、発達障害の可能性のある子どもの割合は学年が上がるにつれて減少する傾向にあります。一概には言えませんが、発達に凸凹があっても成長とともに困難な状況が改善されていくのかもしれません。

実際、遺伝的に脆弱のある子どもも、適切な関わりや環境によって将来像が大きく変わるというデータもあります。さまざまな特性のある子どもたちを一律の環境の中に押し込める教育のあり方が問われていると言ってもよいでしょう。

2022年7月には、学校の「ギフテッド」実証研究の予算要求という見出しが新聞に載りましたが、すべての子どもたちがそれぞれの能力を発揮し、自立していけるようにすることが教育の果たす役割ではないでしょうか。それこそが真のインクルーシブ教育だと私は思います。

高校で“新たな学び”の授業が続々開始

学習指導要領が改訂され、2020年に小学校、2021年に中学校、そして2022年は高校で新しい教育がスタートしました。

「情報1」や「金融教育」が必修化し、今後は全ての高校生が学ぶことに。成人年齢の引き下げで18歳からクレジットカードを作ることができるようになるなど、お金の管理については、より一層正しい知識を身につけることが重視されています。

新しい学び

それから、高校では「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に名前が変わりました。自分の生き方を探究していく力を伸ばすことを目指すこの教科、進学や就職を控えた高校生が自分の将来を考えるきっかけにつながるのではないでしょうか。

今後ますます注目されそうなのは、文部科学省が出した「アクションプラン」です。英語教育をはじめとする日本人の発信力を強化するという方針は、今後の教育にも影響してくるでしょう。

これからの時代に必要な“新たな学び”への期待は大きいと思いますが、これらは子どもにとってだけでなく教員・学校にとっても新しい取り組みであるため、しばらくは授業や取り組みの質はそこまで高くないかもしれません。

子どもたちには、そういった状況を外部の視点から否定・批評するのではなく、「自分自身も学びの場のつくり手の一員である」という意識を持って授業に取り組んでもらいたいと考えています。

探究とは、一朝一夕でできることではなく、試行錯誤のサイクルの上に成り立つもの。機会があれば保護者の方にも是非、新たな学びの環境づくりに関わっていただきたいです。

専門家が解説!2023年に注目の「教育トピック」はコチラ

解説者プロフィール

岩田 拓真さん

岩田 拓真(いわた たくま)さん
株式会社エイスクール(a.school)代表兼クリエイティブ・ディレクター。成績アップや受験合格のためではなく、子どもの興味関心を広げて深める「探究学習」に特化した学習塾エイスクールを2014年に開校。探究学習プログラム「なりきりラボ」「おしごと算数」(グッドデザイン賞受賞)を全国50以上のパートナー校で提供している。経済産業省や神奈川県をはじめ、さまざまな行政や企業とのコラボレーションも多数あり、新しい学びを作り出す次世代型教育企業として注目を浴びている。著書に『おしごと算数ドリル』(学研プラス)『勉強しなさい より 一緒にゲームしない?』(主婦と生活社)。

学研教育総合研究所

学研教育総合研究所(がっけんきょういくそうごうけんきゅうじょ)
2005年、学研ホールディングスの前身である株式会社 学習研究社創立60周年を記念して設立。子どもたちと直にふれ合いながら、学校現場との話し話し合いや、研究機関・大学研究者や文部科学省ほか各省庁と多くの接点を持って得た貴重な経験の数々を活動の基礎にしている。毎年公開している『小学生白書シリーズ』では、幼児から小学生、中学生、高校生を対象とした大規模なアンケート調査によって子どもたちの生活や嗜好、学びの実態などのデータを収集。時代とともに変化する子どもたちの「いま」を伝えている。

中曽根 陽子さん

中曽根 陽子(なかそね ようこ)さん
教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。小学館を退職後、「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱するほか、子育てのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」を運営。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある。

文/富田愛理 編集/石橋沙織

学研キッズネット編集部

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