「“正解”を疑え!」「本気になれ!」令和の小中学生に伝えたい生き方って?【伊沢拓司さん】
クイズプレイヤーとしてだけでなく、情報番組のコメンテーターやバラエティ番組への出演など、大活躍中の伊沢拓司さん。
“子どもたちに直接会って意思疎通したい”という想いで実施している「QK GO」の学校訪問実績も50校を突破しました。
そんな伊沢さんが今、子どもたちに伝えたいメッセージとは? 30代の彼が子どもたちとの関わりの中で見据える未来についてもお話を伺いました。
「ゲームより勉強が役に立つと言われたらどう反論する?」
これは、春に小学校で行われた「QK GO」の講演会での質問。その問いには“疑うことも学んで欲しい”という、伊沢さんの想いが込められています。
「有名人が学校に突然きて話すことって、良くも悪くも影響力があるじゃないですか。
僕の立場であれば、『有名人が来た!すごい!いつもと違う!』というソワソワだけで、なんとなーく話を理解したような気分にさせちゃうこともできるわけです。
疑ってかかることって、あんまり教わらないですし。僕の気持ちに関係なくそうなってしまうという点に責任を感じていて。
もちろん、ちゃんとしたことを喋る準備をして行くわけですけど、誰にでも刺さる内容は無理だし、自分では気付かない欠陥があるかもしれない。
僕自身も自信満々ではないなかで、有名人パワーというだけで僕が伝えることを相手に信じさせるのはだいぶ不遜だなと。
だから、前半で勉強の価値みたいなことを話したうえで、後半では僕が話したことを“疑う”という形で味わおう……ということで、こういう形の疑問を投げました。
子どもたちにはいつだってフェアに考えて欲しいなと。大人だから、有名人だから話を聞くみたいなことにはならないで欲しい。
自分の意見を述べ、思ったことを話し合って色々な角度から考える。そういう経験を積む場というのがなかなか少ない気がして」(伊沢さん)
実際の公演でも、そんな伊沢さんの姿勢や投げかける質問に、子どもたちが熱量を持って発言している姿が多く見られました。
“人生に役立つのかどうかを決めるのは自分だから!”
“子どもにも選ぶ権利がある!”
「みんなそんなに喋れんのかい!って正直驚きましたが(笑)、このような特別な場で議論の練習ができたのは非常に意味があったなと。
もともとQuizKnockは教育をテーマとしたチームです。2018年に“楽しいから始まる学び”というコンセプトが生まれたのですが、それを実現するためには動画だけだと正直頼りないところもあって。
人気が出れば出るほど1人ひとりの視聴者にとっての濃度は下がりうるし、僕たちが年齢を重ねるほど若者が何を考え求めているのか、実感を持って語れなくなるかも知れない。
“子どもたちに直接会って話したい!”という想いから始まったのが『QK GO』のプロジェクトなんですよ。
子どもたちとの意思疎通をはからずして、QuizKnockを続けられるか!ってね(笑)」(伊沢さん)
今を生きる子に必要なのは、別の価値観で“シェイク”されること
タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスが重視される時代において、“正解を求める”ことは、間違っていないけれど、それだけが全てではないということも子どもたちに伝えたかった、と伊沢さんは続けます。
「僕も昔はだいぶそのタイプだったんですけどね(笑)。
小学校高学年以降の年代って、中学受験などやテスト勉強なんかで、効率的に勉強するという経験をするじゃないですか。
きっと多くの子どもたちがコスパ的・タイパ的努力をしてきただろうと思っていて。
一方で周りがそういう環境だと、それが絶対だと思い込んでしまうこともあるから、僕はあえて、そうではないこともあるよ、と伝えたいんですよね。
“有名人が話すことが絶対じゃない”という話と通じる部分があるんですが、別の価値観でシェイクされることに意味がある」(伊沢さん)
「僕自身、勉強に励んでいた経験があるからこそ、精一杯頑張っている子どもたちの姿は絶対に否定したくない。
ただ、画一的な競争の中で個性が埋もれてしまう世界で、『この先タイパやコスパが必ずしも大事ではないのかもしれない。それ以外にもいいことがあるのでは?』というメッセージを伝えたいんですよね」(伊沢さん)
本気で真剣に取り組むから学びがある!好きのパワーを味方にして
そんな伊沢さんの想いのルーツにあるのが、大学時代に没頭したギター。
レギュラー出演していた人気バラエティ番組『アイ・アム・冒険少年』(TBS)の出演時に、大好きなギターが、自分の居場所になり強みになったと教えてくれました。
「ギターサークルは、本気でやっていた分依存度も高かった。
自分はプロになれないというのは早い段階でわかっていたのですが、それでもうまくなりたいという気持ちが消えなくて。
かっこいい演奏をして、憧れるミュージシャンのレベルに到達したいとずっと思っていたんです。
勉強せずに毎日部室に行ってはギターを弾く。こんな生活を2年も送りました。今考えるとさすがにもう少しタイパを重視してくれ……とは思いますけど(笑)」(伊沢さん)
ひたすらポジティブに実直に、といった今の姿からは想像しにくいほど、当時の伊沢さんは、鬱屈した毎日を送っていたのだそう。
「正直な話、ギターに没頭したのは大学生活からの逃げもあったんですよね。
20歳ぐらいの時かな。何事もうまくいかない、一人暮らしで友達もいない。6時や7時に寝て12時に起きる。2時間ぼーっとして14時に学校に行くけれど授業には出ず、部室に直行する。そんな自分を、ギターに没頭することだけが救ってくれました。
ギターサークルで初めてのライブを行った後、震災復興ライブのお誘いがあったんです。そのライブのお客さんは20名ぐらいしかいなかったのですが、震災について語るという貴重な経験をさせていただきました。
そのことを東北大学のシンポジウムで話したら、ご縁がつながりお仕事をするように。
『アイ・アム・冒険少年』でも、ギターに救われる場面が多々ありました。周りは面白い芸人さんばかりで、自分の居場所を見つけることができなくて。
そんな時にギターの弾き語りをしたら、みんなが注目してくれた。伊沢が弾いて歌うという、意外性がうけたんでしょうね。無駄を恐れない姿勢が大事だなと、今になって思います」(伊沢さん)
「人生に何が役に立つか立たないかなんて、誰にもわかりません。だからこそ、子どもたちにはその時々の好奇心を大切にして、たくさん寄り道をしてほしい。キメラのようなごちゃ混ぜの個性を作ってほしいと思います。
そして本気になってほしい。本気だと楽しいし、本気だと得るものがある。本気でないと反省も生まれません。そして、本気で真剣に取り組めば必ず学びがあるんです。
僕が真剣にやってきたクイズも同じ!高校生クイズに真剣に取り組むことで自分の性格、対策、出演者の意図がどういうものなのか学ぶことができた。
そういう取り組み方が受験にも生かされましたし!(笑)己を固めるうえでも、好きに本気になることはすごく大切だと思います」(伊沢さん)
伊沢は勉強だけじゃない!チャレンジする姿を見せていく
YouTubeの登録者数が230万人を突破し、一大メディアとなった「QuizKnock」。メンバー個々での活動も増え、まさに順風満帆。今後は、さらに教育に力を注いでいくのが目標なのだとか。
「子どもたちと接すると、非常に能力が高く情報ツールも使いこなし、僕たち世代がその頃に持っていなかったものをたくさん持っているように感じます。
その一方で、少子化、地方の空洞化、情報氾濫などの影響なのか、彼らにとってのロールモデル的存在が少なくなっているようにも思えるんです。選択肢が無限にあるはずなのに、絞られて窮屈になっちゃている気がして。
もっと多様な選択肢を子どもたちに提示する、というのがQuizKnockの使命だと考えています。学びに対して自分に対して、もっともっとポジティブになってほしい」(伊沢さん)
そんな伊沢さん自身の今後の目標を聞いてみると、意外な答えが返ってきました。
「体を張る系のロケにまた参加したいです。子どもたちにも“伊沢は勉強をしているだけじゃないぞ!”って思ってもらえますしね(笑)。
そして、20代に学ばせていただいたことを、今までお世話になったクリエイターや視聴者に恩返しできるような“主導的なエンターテイメント”を自分で作っていくのも目標のひとつ。
僕の夢のゴール地点にあるのは、子どもたちの教育とQuizKnockの融合。そこだけはブレないよう、心に刻みたいですね」(伊沢さん)
取材・文/末永陽子 編集/石橋沙織 写真/鈴木謙介